第百三十三話 『体術マスター』
「――――それっ!!」
作り出されたホームスタジアムをアスレチックのように駆け回り、華麗に攻撃を続けていくティローナ。
その動きに誰一人としてついていくことができず、魔物側は防戦一方となっている。
ティローナは、聖鳳軍一の身体能力を持つ、『体術の天才』だから。
ヒナノたちが見守る中で、ティローナのスピードはさらに激しさを増していく。
例えるならばそう、狭所で思いっきり投げられたスーパーボールのようだ。
しかも、ボールの速度が落ちることはない。
常に、投げつけられた当初のままだ。
一体ずつ狙っていく戦法のティローナ。
そのスピードの状態で、的確にウィークポイントに叩き込んでいく。
一体につき一発。
ここまで全く攻撃を寄せ付けないまま、七体の魔物を消し去ることに成功した。
後、十三体。
ただ、ティローナが捕まえられないからといって、その間魔物がただボーっとしていたわけではない。
彼らが取った行動。
それは、ティローナを頑張って捕らえようとするグループと、壁を壊そうとするグループの二手に分かれることだった。
しかし、この場所でのティローナを捕まえることは彼らでは難しい。
たとえオーブの力でパワーアップ済みでもだ。
だが、もう一方のグループの作戦も全然進んでいかない。
『硬すぎる』
カチカチだ。
まるで、鉄壁の牢獄。
どれだけ攻撃を加えても、全く壊れる気がしない。
「――――無駄よ。あんたたちのパワーじゃ壊せはしないわ」
ヒナノができるだけ平静を装いながら、壁の向こうの魔物たちに告げる。
だが、彼らにヒナノとゆっくり話している暇はない。
同じ空間では、人間離れした人間が暴れまくっている。
だったら、やはりティローナを倒すしかない。
再び目的を一致される魔物たち。
しかし、
「――――あれ……?」
もう半分のグループの姿が見当たらない。
七体いたはずなのに。
「……まさか……!!」
そのまさか。
いつの間にかティローナ迎撃グループが全滅していた。
残った六体は身を固め、ティローナへの警戒を強めていく。
そんなティローナは、
一番高いところにある取っ手に座って休んでいた。
「――――よし……!! 休憩おしまい……!!」
再度突撃。
さらに、一体、二体、三体、四体と、敵の数を着実に減らしていく。
あっという間に、残りは二体となった。
何の対抗策も思いつかないまま、目の前の人間を相手に敗北を悟った魔物たち。
ティローナは一旦スーパーボール状態を辞めて、普通に二体の前に立っている。
「――――ば……化物め……」
負け惜しみ。
だが、彼の言葉はあながち間違っていない。
「……もう!! 好きでこうなったんじゃないよ!!!」
化物に化物呼ばわりされ不機嫌そうなティローナ。
戦意喪失の二体の間に滑り込み、両足で同時に回し蹴りをお見舞いだ。
そこからさらに連撃を加えて仕事終わり。
一対二十の戦いは、ティローナの完勝に終わった。
「――――す、すごい……すごすぎる……!! ティローナさん、本当に一人で全部終わらせた……!!」
円の中で背中を伸ばしているティローナに目を向けながら、声を弾ませるリュノン。
ソルもうんうんと頷いている。
「……ティローナ、やっぱりあなたは……変わらないわね。……あの頃からずっと」
誰にも聞こえない声量で呟くヒナノ。
そして、ぐったりと座り込む彼女の元へと歩みを進めた。
「お疲れ様。さすがね」
「……うん……でも、少し疲れちゃった……ちょっとだけ座らせて……」
「ええ、もちろんよ」
ずっと跳ね回り続けていたティローナだ。
さすがに体力の消耗は免れない。
その間に、ヒナノはティローナと自身を挟む壁を消した。
「……でも……まずいよね……ヒナノも私も、もうどれだけやれるか……まだ、上に行かないといけないのに……」
「………そうね」
休憩がてら、こっからの動きについて話し合う二人。
そんな様子を見ていたジャーザンスは、
ティローナ・カルダート。
この女の力の認識を改めていた。
侵入者の中で、注意すべきはヒナノ・スエリアだけだと思っていたが、やはり一軍。
想像以上の怪物だった。
そしてジャーザンスは、ここまでの強さを持っているのに、この女の情報を自分が知らなかったことを疑問視する。
ヒナノの時のように、噂が自分の耳に入っていないのはなぜだ。
現在における流れる噂や情報の中で、ジャーザンスや魔凰軍が危険視している聖鳳軍。
首位はヒナノ・スエリア。
次点でヴァナベール・ソルシード。
その次にオー・ラッセで、後はどうでもいいという感じだ。
聖鳳軍が情報を隠していたのかもしれないが、彼女の厄介さはヒナノと遜色ないように見えた。
おそらく、純粋な体術で彼女に敵う者は、今の魔凰軍にはいないだろう。
そんな奴の話を自分が知らなかったなんて。
「まあ、そんなことはもうどうでもいいか」
ティローナもヒナノも、ここで死ぬのだから。
ジャーザンスはゆっくりと後ろを振り返り声を挙げた。
「おい!! お前たちの出番が来てしまった。さっさと終わらせてきてください!!」
彼の声を聞き、部屋の奥から人影が出現した。




