第百三十二話 『二人の遊び』
「――――まじか…………」
信じられない目の前の光景に、リュノンがポツリと呟いた。
女性陣三人も唖然としている。
今から行こうと思っていた道が塞がれただけならまだいい。
問題は、塞いでいる魔物の数。
さっきも見た。
この人数。
ループしているのかと思う。
だが、自身の体力は戻っていない。
敵だけが、返って来た。
「……そんな……まだ、こんなにいたなんて……」
ソルが怯える。
ティローナとヒナノも歯を食いしばり、見えない扉に目を向けている。
「…………ねえ!! さっき全戦力って言ってたよ!! 本当は何人いるの!!」
上を見上げたティローナが元凶に呼びかける。
確かにジャーザンスは、「全戦力が迎え撃つ」と言っていた。
だが、
「ちょっとティローナさん!! 別にそれは「そこだけ」の話じゃないよ!! 全戦力で迎え撃つというのはウソじゃない。元々さっきの奴らで止められるとは思ってないyo。当然、第二陣を用意している!! 待機組を含めて「全戦力」ね!!」
「………………」
「おっとっととっと!! 安心しておくんなさい。「こいつらで最後」だ。こいつらを倒せれば、僕の所まで上がって来れる。でもでもでもでも!!! い・ま・の君らで倒せるかなあ? 第二陣といっても、さっきの奴らと変わらない強さだよん!!」
追加された二十体の魔物。
全員、オーブ取り込み済み。
対する聖鳳軍。
言うまでもなく、戦力が大幅に減少している。
――――絶望的な数の差がそこにはある。
「……ねえヒナノ。――――私ができるだけやってみる。どうせ、進むしかないんだから」
ティローナが一歩前に出た。
顔は震えている。
心臓も鳴っている。
出迎える集団相手にどこまでやれるか。
「――――ティローナ、待って!!」
だが、ティローナの歩みをヒナノが呼び止めた。
「私もやるよ。あなた一人で行かせるなんて、それを見ているだけなんて、私にできるわけないでしょ」
「……でも……ヒナノ……」
ティローナは感じ取っていた。
ヒナノの体力がほとんど尽き欠けていることを。
魔法が使えないというこの場所で、あんなにバンバン魔法を繰り出していたヒナノ。
ノーリスクなわけがない。
これ以上はおそらく危険だ。
「安心して。無理はしないわ。ただ、ティローナ一人で戦うよりも、私が一緒の方が絶対いい。――――あれをやるわよ。ティローナ」
「……!! うん……確かにあれなら……!! やろう……!! よろしくねヒナノ」
「ええ」
ティローナとヒナノ。
二人が一緒に一歩前に出た。
「――――じゃあ行くわよ、ティローナ!!」
「うん……!! いつでもいいよ!!」
掛け声とともに、一人ティローナが走り出した。
ヒナノは後方でスカスカの魔力を練っている。
「(……くっ……!! ……結構ヤバいわね。もうほとんど……)」
マナがない。
戦えるほどの力はもうほぼない。
――――でも、
ここで発動しなければならない。
二人の個性を活かした連携を久しぶりに成功するために。
「――――はあっ……!!」
ヒナノが叫ぶ。
何とか魔法を使用することができた。
繰り出した魔法は、『具現魔法』。
ティローナと二十体の魔物を囲うように、巨大な球体が出現した。
円の中に、ティローナたちが閉じ込められているようだ。
「――――それっ……!!」
さらに、追加オプション発動。
円の内側にいくつかの取っ手、壁側にはトランポリンのような箇所がついた。
「……よし……なんとか成功ね……頼んだわよ。ティローナ」
「うん……!! 任せてヒナノ!!!」
ティローナが大ジャンプ。
動きが読めずに固まっている魔物たちに突撃する。
そして、攻撃をしてすぐさま近くの取っ手やバウンドエリアに移動。
さらに、魔物に攻撃。
エリアの中を縦横無尽に高速で動き回っていく。
「――――す、すごい……!! ティローナさん、奴らに捕まらずに……!!」
円の外側。
隔離されている場所で観戦するリュノンたち。
視線の先では、ティローナがまるで動物のように飛び回っている。
「昔はしょっちゅうやってたの。久しぶりなんだけど、さすがはティローナね。前より動きが早くなってる」
二人の技。
ヒナノが敵を閉じ込め、せまくなったフィールドでティローナが暴れ回る。
本来なら、さらに円の中でヒナノの攻撃魔法を反射させていくが、今はそんな元気がない。
とはいえ、この戦法。
実に効いている。
このヒナノが作る空間。
昔からずっとティローナとヒナノが「遊びながら」訓練していた場所だ。
ティローナはこの中でボールのように飛び回って来た。
ヒナノもその中に弱めの魔法をバウンドさせて、ゲームのように遊んでいた。
時には、数十発の魔法を中で弾ませ、それをティローナは避けまくっていた。
どこを踏めばどこに飛び移れるか、どこに行けばどこに反射するか、ティローナは熟知している。
ヒナノの自由な発想、ティローナの人間離れした身体能力、そして『二人の遊び』が生み出した戦術。
今、彼女の動きを捕らえることには、有象無象の魔物たちでは時間が足りない。




