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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第六章
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第百二十七話 『戦いの始まり』

 「――――いやあ、嬉しいよ。五人も釣れてさ。しかも、その中に君がいるなんてねえ」


 上階から男の声が聞こえてくる。

 男の姿は見えないが、向こうからはこちらの様子が見えているようだ。


 入口付近で留まるヒナノたち五人。

 彼女たちの前方には、リュノンを投げ飛ばした弱そうな魔物が立っている。

 しかし、動こうとはしない。


 今は、上の声の持ち主の時間のようだ。


 ヒナノも今は、彼とコミュニケーションを取ることを選ぶ。

 敵が全く読めないのは危険だ。

 情報を少しでも聞き出さなくては。 


 「……あなたは誰!? ミネカはどこにいるの!?」


 「おいおいおいおいおいおいおい。そんなに急かすなよ。今から答えてやるからさっ。――――まず、『僕は誰か』という質問に答えよう。私は『ジャーザンス』。よろしくね」


 五人とも、聞いたことのない名前だ。

 まあ、相手が誰かなんてことは大した問題ではない。

 誰であれ、『助ける』という目的は変わらないのだから。


 「――――二つ目の質問だ。ミネカ・ベルギアは、君たちがいる上。この塔の一番上にいるよ」


 「……何のためにこんなことをしたの……? あなたの目的は何……?」


 「質問が多いぞヒナノ・スエリア!! 他の人たちにも気を遣ったらどうだ!? 質問したいのは君だけではないかもしれんだろ!?」


 ヒナノと顔を合わせる他のメンバーたち。

 いずれも、ヒナノに頷いて見せる。


 「無駄なお気遣いどうも。でも、みんなを代表して私が聞いてるの。私の質問は総意よ」


 「なるほどなるほど了解したよ。――――では、回答しよう。「何のために」という質問だったねえ。馬鹿でも分かりやすいように言ってあげよう。理由は、二つ。一つ目は、このミネカ・ベルギアという女に興味が湧いたからさ。この女、僕でも見たことのない力を使えるんだ。『時間』にすら干渉する力をねえ。だから、ちょっと調べてみたくなったのさ。その力の『源』を」


 「……ちょっと待って!? 何であなたがそのことを……!? まさか……!!」


 男の答えに妹の方を確認するヒナノ。

 

 メンバーの中で、あの戦いに参加していたのはソル一人。

 だが、ソルは首を横に振っている。 

 

 ミネカが力を使った現場にいたわけではないので確証はないが、『ジャーザンス』なんて存在があった痕跡は全くなかった。

 そんな男がいたなら何かしらの痕跡があっただろうし、翔英も触れていたはずだ。


 他の三人は、戦いの中でミネカが目を覚まさないということは聞いていたが、その原因は聞かされていない。

 空気を読んで口を挟むことはしないが、今、その力を耳にして驚いているところだ。

 

 「マジで無礼だね。まだ答え終わってないのに、さらに質問を増やしてくるなんて。まあいいや。見ていたんだよ。少し前、ロジェと戦っていた時のミネカ・ベルギアの様子をね。さすがの僕もあれはびっくりしたよ」


 だが、この男は実際に『知っている』『見ている』

 方法は分からないが、何らかのやり方でこの男はあの場にいたのだ。


 『ジャーザンス』という魔物への警戒をさらに強める一行。


 「――――さっきの質問の続きを言おう。二つ目の理由だ。それはまさに、今のこの状況さ!!!! ミネカ・ベルギアを拉致すれば、確実に聖鳳軍の奴らが助けに来る。つまり、君たちをここにおびき寄せ、葬り去ることが二つ目の目的だよ」


 ジャーザンスの狙いは成功していた。

 彼はあえて、強い邪気を現場に残し、ここまで気配を全く消さずに帰って来た。


 マーノが邪気を分析することに優れていることは間違いないが、彼がこの場所を特定できたのはジャーザンスの計算通りだったのだ。

 マーノも、いささか疑問を持ちながらも、それを口にはしなかった。


 だが、計算通りなのは『ここまで』の話。

 『ここから』は、そうはさせない。


 「……なるほどね。あんたの狙いはだいたい分かったわ。……けど、慢心しすぎね。『そうならない』ために、私たちが来たのよ……!!」


 ヒナノたちは戦闘の構えへと入った。

 今、見える敵はただ一人。

 敗北する方が難しい戦力差だ。


 「――――さあみんな……!! 目的地はこの塔の最上階!! ミネカを助けにいくわよ!!」


 ヒナノの呼びかけと同時に、赤髪のリュノンと黒髪ポニーテールのティローナが駆け出していく。

 その後ろを筋肉質なパワフルファイター、フェルフラムが追従する。

 スエリア姉妹は後方支援だ。


 「……まだ話は終わっていないけどねえ……」


 だが、ジャーザンスだってこの状況で勝てるとは思っていない。


 「な……!!」と、リュノンが立ち止まる。

 ティローナもその動きを止めた。


 『戦力投入』


 扉の向こうから、ゾロゾロと魔物が入ってくる。


 「当然、僕も十分『対策』しているよ。そいつ一人なわけがないだろう。君らの相手は……僕が改造した魔物、二十体だ」


 上への入口に、計二十体の魔物が立ちはだかった。

 全員人間離れした顔をした魔物って感じの魔物だ。


 「私の全戦力を持って、君たちを消してあげるよ!!」


 ジャーザンスの掛け声とともに、五人に襲い掛かってくる魔物たち。


 五対二十。

 一人あたり、四人がノルマだ。


 「――――そうくると思ったぜ。だからヒナノさんは、俺に声を掛けてくれたんだ……!!」


 迎え撃つリュノン・アーリー。

 敵の数のアドバンテージをなくすため、得意の十八番を発動する。


 分身魔法だ。


 ――――しかし、


 「あ……あれ……!?」


 出ない。

 分身が一人も出ない。


 動揺している間に、敵に一撃もらってしまうリュノン。


 殴られた先ですぐにバランスを立てなおすが、リュノンの表情は硬い。


 もう一度。

 しかし、ダメだ。


 「なんで……!! 分身ができない……くそっ……!!」


 考えている時間はない。

 リュノンは一人のままで、敵の軍勢に突っ込んでいった。


 ティローナ、フェルフラムも一人で複数の魔物を相手取る。

 二人の戦闘スタイルは、いずれも素手だ。


 「――――ソル……!! 私たちは一緒に、三人のサポート!!」


 「はい……!! 姉さま!!」


 まだ少し距離があるスエリア姉妹は、遠方から攻撃を仕掛けようとする。


 何体かはヒナノとソルに狙いを定め、二人の方に向かってくる。


 ヒナノはとりあえず、向かってくる魔物に狙いを定めた。

 全力の攻撃魔法をお見舞いだ。


 ――――だが、


 「……あれ……? …………おかしい。姉さま……!!」


 「………何で……」


 ヒナノとソルは顔を見合わせた。


 『使えない』のだ。

 彼女たちのメインウエポンである『魔法』が使えない。


 「ははははははっ!!」と、高笑いが一階に響く。


 ジャーザンスだ。


 「残念だったねえ。聖鳳軍の諸君。私のこの塔では、君たちは魔法を『使うことができない』ようになってるんだ」


 「……え……!? ……なんですって……」


 ジャーザンスが住んでいるこの塔。

 

 ここには、人間が魔法を使うのに使用している、大気中のマナが『全くない』

 彼らは基本的に体内のマナと大気中のマナを使って、魔法を出している。


 リュノンが分身を出せなかったのも、このため。


 ここでは、材料が足りないのだ。


 ジャーザンスだって、聖鳳軍の精鋭部隊をそう簡単に倒せるなんて思っていない。

 二十体とはいえ、普通に戦えば魔物たちに勝ち目はないだろう。


 だから、『対策』した。


 人間には圧倒的に不利なこの場所に誘い込み、武器を失った奴らを数で一気に叩く。

 それが、ジャーザンスのプランだ。

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