第百二十七話 『戦いの始まり』
「――――いやあ、嬉しいよ。五人も釣れてさ。しかも、その中に君がいるなんてねえ」
上階から男の声が聞こえてくる。
男の姿は見えないが、向こうからはこちらの様子が見えているようだ。
入口付近で留まるヒナノたち五人。
彼女たちの前方には、リュノンを投げ飛ばした弱そうな魔物が立っている。
しかし、動こうとはしない。
今は、上の声の持ち主の時間のようだ。
ヒナノも今は、彼とコミュニケーションを取ることを選ぶ。
敵が全く読めないのは危険だ。
情報を少しでも聞き出さなくては。
「……あなたは誰!? ミネカはどこにいるの!?」
「おいおいおいおいおいおいおい。そんなに急かすなよ。今から答えてやるからさっ。――――まず、『僕は誰か』という質問に答えよう。私は『ジャーザンス』。よろしくね」
五人とも、聞いたことのない名前だ。
まあ、相手が誰かなんてことは大した問題ではない。
誰であれ、『助ける』という目的は変わらないのだから。
「――――二つ目の質問だ。ミネカ・ベルギアは、君たちがいる上。この塔の一番上にいるよ」
「……何のためにこんなことをしたの……? あなたの目的は何……?」
「質問が多いぞヒナノ・スエリア!! 他の人たちにも気を遣ったらどうだ!? 質問したいのは君だけではないかもしれんだろ!?」
ヒナノと顔を合わせる他のメンバーたち。
いずれも、ヒナノに頷いて見せる。
「無駄なお気遣いどうも。でも、みんなを代表して私が聞いてるの。私の質問は総意よ」
「なるほどなるほど了解したよ。――――では、回答しよう。「何のために」という質問だったねえ。馬鹿でも分かりやすいように言ってあげよう。理由は、二つ。一つ目は、このミネカ・ベルギアという女に興味が湧いたからさ。この女、僕でも見たことのない力を使えるんだ。『時間』にすら干渉する力をねえ。だから、ちょっと調べてみたくなったのさ。その力の『源』を」
「……ちょっと待って!? 何であなたがそのことを……!? まさか……!!」
男の答えに妹の方を確認するヒナノ。
メンバーの中で、あの戦いに参加していたのはソル一人。
だが、ソルは首を横に振っている。
ミネカが力を使った現場にいたわけではないので確証はないが、『ジャーザンス』なんて存在があった痕跡は全くなかった。
そんな男がいたなら何かしらの痕跡があっただろうし、翔英も触れていたはずだ。
他の三人は、戦いの中でミネカが目を覚まさないということは聞いていたが、その原因は聞かされていない。
空気を読んで口を挟むことはしないが、今、その力を耳にして驚いているところだ。
「マジで無礼だね。まだ答え終わってないのに、さらに質問を増やしてくるなんて。まあいいや。見ていたんだよ。少し前、ロジェと戦っていた時のミネカ・ベルギアの様子をね。さすがの僕もあれはびっくりしたよ」
だが、この男は実際に『知っている』『見ている』
方法は分からないが、何らかのやり方でこの男はあの場にいたのだ。
『ジャーザンス』という魔物への警戒をさらに強める一行。
「――――さっきの質問の続きを言おう。二つ目の理由だ。それはまさに、今のこの状況さ!!!! ミネカ・ベルギアを拉致すれば、確実に聖鳳軍の奴らが助けに来る。つまり、君たちをここにおびき寄せ、葬り去ることが二つ目の目的だよ」
ジャーザンスの狙いは成功していた。
彼はあえて、強い邪気を現場に残し、ここまで気配を全く消さずに帰って来た。
マーノが邪気を分析することに優れていることは間違いないが、彼がこの場所を特定できたのはジャーザンスの計算通りだったのだ。
マーノも、いささか疑問を持ちながらも、それを口にはしなかった。
だが、計算通りなのは『ここまで』の話。
『ここから』は、そうはさせない。
「……なるほどね。あんたの狙いはだいたい分かったわ。……けど、慢心しすぎね。『そうならない』ために、私たちが来たのよ……!!」
ヒナノたちは戦闘の構えへと入った。
今、見える敵はただ一人。
敗北する方が難しい戦力差だ。
「――――さあみんな……!! 目的地はこの塔の最上階!! ミネカを助けにいくわよ!!」
ヒナノの呼びかけと同時に、赤髪のリュノンと黒髪ポニーテールのティローナが駆け出していく。
その後ろを筋肉質なパワフルファイター、フェルフラムが追従する。
スエリア姉妹は後方支援だ。
「……まだ話は終わっていないけどねえ……」
だが、ジャーザンスだってこの状況で勝てるとは思っていない。
「な……!!」と、リュノンが立ち止まる。
ティローナもその動きを止めた。
『戦力投入』
扉の向こうから、ゾロゾロと魔物が入ってくる。
「当然、僕も十分『対策』しているよ。そいつ一人なわけがないだろう。君らの相手は……僕が改造した魔物、二十体だ」
上への入口に、計二十体の魔物が立ちはだかった。
全員人間離れした顔をした魔物って感じの魔物だ。
「私の全戦力を持って、君たちを消してあげるよ!!」
ジャーザンスの掛け声とともに、五人に襲い掛かってくる魔物たち。
五対二十。
一人あたり、四人がノルマだ。
「――――そうくると思ったぜ。だからヒナノさんは、俺に声を掛けてくれたんだ……!!」
迎え撃つリュノン・アーリー。
敵の数のアドバンテージをなくすため、得意の十八番を発動する。
分身魔法だ。
――――しかし、
「あ……あれ……!?」
出ない。
分身が一人も出ない。
動揺している間に、敵に一撃もらってしまうリュノン。
殴られた先ですぐにバランスを立てなおすが、リュノンの表情は硬い。
もう一度。
しかし、ダメだ。
「なんで……!! 分身ができない……くそっ……!!」
考えている時間はない。
リュノンは一人のままで、敵の軍勢に突っ込んでいった。
ティローナ、フェルフラムも一人で複数の魔物を相手取る。
二人の戦闘スタイルは、いずれも素手だ。
「――――ソル……!! 私たちは一緒に、三人のサポート!!」
「はい……!! 姉さま!!」
まだ少し距離があるスエリア姉妹は、遠方から攻撃を仕掛けようとする。
何体かはヒナノとソルに狙いを定め、二人の方に向かってくる。
ヒナノはとりあえず、向かってくる魔物に狙いを定めた。
全力の攻撃魔法をお見舞いだ。
――――だが、
「……あれ……? …………おかしい。姉さま……!!」
「………何で……」
ヒナノとソルは顔を見合わせた。
『使えない』のだ。
彼女たちのメインウエポンである『魔法』が使えない。
「ははははははっ!!」と、高笑いが一階に響く。
ジャーザンスだ。
「残念だったねえ。聖鳳軍の諸君。私のこの塔では、君たちは魔法を『使うことができない』ようになってるんだ」
「……え……!? ……なんですって……」
ジャーザンスが住んでいるこの塔。
ここには、人間が魔法を使うのに使用している、大気中のマナが『全くない』
彼らは基本的に体内のマナと大気中のマナを使って、魔法を出している。
リュノンが分身を出せなかったのも、このため。
ここでは、材料が足りないのだ。
ジャーザンスだって、聖鳳軍の精鋭部隊をそう簡単に倒せるなんて思っていない。
二十体とはいえ、普通に戦えば魔物たちに勝ち目はないだろう。
だから、『対策』した。
人間には圧倒的に不利なこの場所に誘い込み、武器を失った奴らを数で一気に叩く。
それが、ジャーザンスのプランだ。




