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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第六章
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第百二十八話 『天才の証明』

 五人が姿を見せた時、塔の上でジャーザンスは密かに喜んでいた。

 

 彼の目的の一つは、ミネカ・ベルギアを餌にして、ホームグラウンドに入り込んできた聖鳳軍を数の暴力で叩くこと。

 彼の狙い通り、まんまと侵入してきた聖鳳軍だったが、その中心にはジャーザンスが、そして、魔凰軍が最も片づけたかった女の顔があった。


 ヒナノ・スエリア。

 彼女がいたのだ。

 

 聖鳳軍の中で最も知名度が高いのは、ぶっちぎりでこのヒナノである。

 それは、人間たちの間だけの話ではない。

 

 魔物たちの間でも、彼女の名前は有名だった。

 圧倒的な実力とともに。

 

 ほとんどの魔物の中では、聖鳳軍で一番厄介なのはヒナノ・スエリアという認識だった。

 それはジャーザンスも同じだ。

 他のメンバーの情報が弱いということもあるが、実際、ヒナノの強さは折り紙つきだ。


 ヒナノの武器は何と言っても、鍛え抜かれた魔法による手数の多さ。

 

 まともに彼女と相対すれば、あらゆる対策をされて上にいかれてしまうだろう。


 それは、同じく手数が多いジャーザンスにとっても例外ではなかった。


 だからジャーザンスは、ミネカを追ってくるだろう救出部隊の中に、ヒナノがいることを望んでいた。

 その望みは叶い、ヒナノはチームのリーダーとして敵地へと現れた。


 ジャーザンスは思った。

 聖鳳軍で一番面倒な女を倒す、絶好の機会だと。

 

 この塔では、人間が魔法を使える環境が整っていない。


 人間だけではない。魔物も同じだ。

 まあ、ジャーザンスたちの中に魔法を主戦術とする魔物は一人もいない。

 彼らにとっては関係ない。

 

 今にして思えば、この環境は『ヒナノを倒すため』に作ったのかもしれない。

 それほど、ヒナノ特効のフィールドだ。


 魔法を武器とするヒナノ・スエリア。

 今、彼女の武器は失われた。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 「――――さあ、どうするの!? ヒナノちゃあん!! 魔法が使えない君など、ただの置物にすぎないんじゃない!!?」


 上空からやかましい声が響き渡る。

 だが、彼が言っていることはもっともだ。


 ヒナノの武器は魔法『だけ』

 魔法以外の戦法は本当に何もない。


 この場でその影響を受けているのは、ヒナノだけではない。


 同じく魔法をメインウエポンにしている妹、ソル・スエリアもそうだ。

 彼女の手札も封じられてしまった。


 前衛を務めているリュノンもだ。

 分身魔法を封じられた今、彼の戦法は短剣を振り回すだけになってしまった。


 そして、ティローナ・カルダート。

 

 白と黒の道着を身に纏った彼女は、三人ほど影響は受けていない。

 ティローナの武器は、代々カルダート家に受け継がれてきた拳法である。

 魔法を使わなくても、ティローナは戦える。


 しかし、彼女の本来の力は大気中のマナを使った『特殊な武術』にあるので、戦闘力が半分程度になってしまってはいる。


 唯一、この場において全く影響を受けていないのが、聖鳳軍二軍、フェルフラム・ボンバだ。

 

 豪快に素手で戦う彼だけは、魔法禁止の影響を受けていない。

 

 といっても、全力で戦えるのが彼だけでは……


 襲い来る魔物の軍勢に対抗するリュノン、ティローナ、フェルフラム。

 ティローナ、フェルフラムは敵をなぎ倒していくが、リュノンは押され気味だ。


 「――――お前たち!! 後ろの二人を中心に狙え!! 今なら嬲り放題だぜ!!」


 ジャーザンスが配下の魔物たちに命令する。

 二十いる魔物は役割を分担していく。


 前衛三人に対して四人ずつマーク。

 残り八人が、無防備となっているスエリア姉妹に襲い掛かる。


 ――――ソルが後ろに走り出した。

 入場してきた扉を開けようとする。


 「外からならば、魔法を使うことができるのでは」という予想による行動だ。


 しかし、


 「開かないよ!! 入口は外からしか開かないようになっている!! せっかくのこの機会、逃がすわけがないでしょうが!!!」


 今、この場で必ずヒナノを始末したいジャーザンス。

 あらゆる手を使い、ヒナノの手札を塞いだ。

 

 ジャーザンスは、勝ちを確信した。


 逃げ場をなくしたスエリア姉妹。

 二人の身体を魔物の牙が捉えた。


 ――――だが、


 吹き飛んだのは攻撃を仕掛けた魔物の方だった。


 「…………な……ぜ…………なぜ!! なぜ……お前は――――」


 ジャーザンスはありえない光景を見ていた。

 研究は重ねてきた。

 できるはずがない。


 なぜ、 


 「――――魔法が出せるの!!!!??」


 ヒナノは魔法を繰り出した。

 超強力な攻撃魔法。

 炎を纏った雷のような魔法だ。


 前に出ていた二体の魔物は、その攻撃で消滅した。

 予想外の出来事に、残された六体は距離を置かざるを得ない。


 驚いているのは人間側も同じだった。


 目の前でずっと憧れていた『炎雷魔法』を見たソルは言葉を失っており、前線の三人もヒナノに注目している。


 「……随分舐められたものね、私も。こんな仕掛けだけで、勝てると思われるなんて。ジャーザンスだっけ? 知らないようだから言っておくけどね」


 「――――私、天才なのよ」


 ヒナノの渾身のドヤ顔。

 彼女からは見えないが、おそらくジャーザンスは滅茶苦茶悔しがっているだろう。

 いい気分だ。


 「……何をした……?」


 「自分で調べなさい。ここに降りてきてさ」


 ヒナノはまた魔法の構えに入る。

 そして今度は、嵐を纏った氷を繰り出した。

 小さな氷塊ながら、ごうごうとうねりを上げて高速で突進してくる。


 『氷嵐魔法』


 ぶつけられた三体の魔物は肉体を保つことができずに、瞬く間に消滅した。


 「――――あんまり時間ないから、さっさと終わらせるわ」


 残った三体の魔物に、ステッキを向けるヒナノ。

 魔物たちはあまりの衝撃に、動くことすらできない。


 何やら少し詠唱を唱えた後、三体の魔物はこの世から姿を消した。


 『死滅魔法』だ。


 これで、無謀にもヒナノに襲い掛かってきた八体の魔物は全員死んだ。


 「ソル!! それから……リュノンも!! 私の後ろに下がってて!!」


 前方と後方の二人に声を掛けるヒナノ。

 今の二人では、戦うことは難しいと判断したからだ。


 ティローナとフェルフラムは大丈夫だろう。


 声を掛けられたリュノンはお言葉に甘えて、肉壁の間を通って後方へと下がった。

 元々ヒナノの後方にいたソルは、ヒナノの少し後ろに向かう。


 「ヒナノさん!! どうやったんだよ今の!!? 何で魔法使えたんだ!?」


 「帰ったら教えてあげるわ」


 リュノンもソルも気になってしょうがない。

 まあ今は時間がないので、『ヒナノ・スエリアだから』ということで納得だ。


 ――――なぜ、ヒナノはこの環境で魔法を使うことができたのか。


 それは、ヒナノは常に『大気中のマナと同じものを体内に溜めている』からである。

 体の中に、特殊な箱を魔法で埋め込んでいると言ってもいいだろう。

 ヒナノは先ほど、溜めていたマナを外へと放出し、そこから自身のマナと混ぜ合わせて魔法を繰り出したのだ。


 もしも魔法が使えない状況に陥った時の対策だ。

 そんな環境が訪れることは、人生で一度もないかもしれない。


 だが、ヒナノは備えていた。

 

 『自身がヒナノ・スエリアであるために』


 このことを知っている者は誰もいない。

 知ったところで、『できない』からだ。


 だが、彼女はそれを可能にしている。

 そんなことを可能にしていること自体が証明している。 


 ヒナノ・スエリアは天才だと。

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