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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第五章
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第百二十二話 『都市へ帰還』

 メデュン出発当日。

 

 その朝。


 翔英は、スリーラの家を見上げていた。

 家の前には、小さなお墓が二つ立っている。


 翔英の右手は、彼女に貰った薬を握っている。


 翔英が思っていること。


 それは――――

 

 「スリーラと和解できなかったのか」

 ということだ。


 あの時、スリーラとの話し合いは決裂してしまった。


 だが、彼女は敵意を持っているわけではなかった。


 むしと百パーセントの善意で、翔英の前に立ちふさがっていた。

 悪意は、微塵もなかった。

 

 自分の目的のために戦う選択をしたが、戦わないという選択肢はなかったのか。 


 もう少し、彼女に歩み寄ることはできなかったのか。


 あの狂気の演説も、本当にスリーラの心から出た言葉だったのか。

 

 いや――――

 もう、起こってしまったことについてあれこれ考えても仕方ない。


 大切なのは、「これから」だ。


 「――――スリーラさん。薬、ありがとう。――――忘れないよ。君のこと」


 翔英は一礼すると、再び部屋に戻っていった。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 そしてとうとう、メデュンを後にする時が来た。


 馬車の前に立つ、翔英、ケバロー、ジュン、レランカ。

 彼らのことを見送ってくれる者が数名。


 「――――ジュン君!! 遊んでくれてありがとう!! また来てね!!!」


 見送り組の先頭に立っているのは、『ユウビ』。


 彼はうっすら涙を流しながら、友達に別れの挨拶を送っている。


 「うん!! 絶対また来るよ!! その時は、また追いかけっこしようぜ!!!」


 ジュンも笑顔で言葉を返す。


 二人の少年はグッと握手を交わした。

 再会の誓いを立てながら。


 「――――レランカ、親父によろしく伝えといてくれ」


 こっちでは、ワーラスとレランカのレルン兄妹が挨拶を交わしている。


 ケバローにぶん殴られた傷がまだ完治していないが、動ける程度には回復しているようだ。


 だが、町を出ていくのはまだしんどいようで、先に旅立つ妹に伝言を頼んでいる。


 「……ああ、分かったぜ。……でも、今度自分でも行けよ?」


 「もちろんだ」


 レランカは馬車の荷台へと乗り込んだ。

 窓の外から、町の風景を眺めながら。


 「じゃあ、僕たちも行こうか」


 「はい……!!」


 運転席に座る病み上がりのケバロー。

 翔英もレランカに続いて、彼女の隣へと腰を下ろした。

 みんなが戻っていくのに気づいたジュンも合流だ。


 ――――出発。


 ケバローが走らせた馬車は、グングンと加速し、薬の町を抜けて行った。


 その後、メデュンの人々は町の中心に、スリーラの銅像を建てることとなる。

 それは、薬を失ってしまったこの町の守り神としての、新たなシンボルとなる。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 そして、メデュンの隣町、レッドブランへと到着した一行。


 翔英は特に用はないので、馬車の中で待機。

 ケバローとジュンも待機しようと思っていたが、ジュンが「向こうで待っている子供たちに何か買っていきたい」と言ったため、買い物に向かった。

 ついでに、中央都市へ着くまでの間を凌ぐ、食料も買っていった。

 

 そして、レランカは、久方ぶりの故郷を見渡しながら、父親を探し始めた。


 「――――あっ……!! 親父ィ!!」


 すぐにレランカは父親を発見し、父親の元へと駆け寄っていく。

 父親も娘の姿を確認すると、

 

 「……おっ……!! レランカ!! 無事じゃったか!? おお……よかった……」


 と、涙目で答えた。


 「……ああ。……って、おいおい、泣くなよこんなところで、みっともねえな」


 「……泣いてないわっ!! ただお前が眩しくて目がかゆくなっただけじゃ……!!」


 「ああ、そうかよ。……そういや、兄貴も今度戻ってくるってよ」


 「……おお、そうかそうか。……それより、レランカ。少しゆっくりしていかんか? あまり出せるものはないがのう……」


 「……悪ィ親父。ちょっと待たせてる奴らがいるんだ。それにアタシは、一刻も早く向こうに姿を見せないとヤバい。もしかしたら、サボってると思われてるかもしれねえし。でも、向こうへ戻って落ち着いたら、またすぐ戻ってくるよ」


 「おお、分かった。……頑張れよ、レランカ」

 

 レランカは父親との挨拶を早めに済まして、馬車へと戻って来た。

 だが、ケバロー達の方が戻りが遅かったことに、レランカは呆れていた。

 

※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 さらに、メデュンを出発してから一日近く経った頃。

 一行は急ぎ中央都市へと走らせていた。

 

 懐かしの中央都市はもうすぐ側。

 あと一時間もしないところまで迫っている。


 一刻も早く、この薬をミネカに届けたい。

 翔英はそんな思いでいっぱいだ。

 

 スリーラはあの時こう言っていた。

 

 「強い衝撃を与えれば、目覚めると思う」と。

 この薬の力があれば、ミネカを助けることができるかもしれない。


 いや、今は『そう』だと思わなければだめだ。


 ケバローにとっては、成果が得られない旅となってしまったが、また別の方法を探す方向で行くらしい。

 

 レランカは、本部に戻るのは数ヶ月ぶり。 

 軍では行方不明とされていた。

 

 そして、長い帰り道でも特にトラブルや問題なく、一行は無事に中央都市へと帰って来たのだった。

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