第百二十二話 『都市へ帰還』
メデュン出発当日。
その朝。
翔英は、スリーラの家を見上げていた。
家の前には、小さなお墓が二つ立っている。
翔英の右手は、彼女に貰った薬を握っている。
翔英が思っていること。
それは――――
「スリーラと和解できなかったのか」
ということだ。
あの時、スリーラとの話し合いは決裂してしまった。
だが、彼女は敵意を持っているわけではなかった。
むしと百パーセントの善意で、翔英の前に立ちふさがっていた。
悪意は、微塵もなかった。
自分の目的のために戦う選択をしたが、戦わないという選択肢はなかったのか。
もう少し、彼女に歩み寄ることはできなかったのか。
あの狂気の演説も、本当にスリーラの心から出た言葉だったのか。
いや――――
もう、起こってしまったことについてあれこれ考えても仕方ない。
大切なのは、「これから」だ。
「――――スリーラさん。薬、ありがとう。――――忘れないよ。君のこと」
翔英は一礼すると、再び部屋に戻っていった。
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そしてとうとう、メデュンを後にする時が来た。
馬車の前に立つ、翔英、ケバロー、ジュン、レランカ。
彼らのことを見送ってくれる者が数名。
「――――ジュン君!! 遊んでくれてありがとう!! また来てね!!!」
見送り組の先頭に立っているのは、『ユウビ』。
彼はうっすら涙を流しながら、友達に別れの挨拶を送っている。
「うん!! 絶対また来るよ!! その時は、また追いかけっこしようぜ!!!」
ジュンも笑顔で言葉を返す。
二人の少年はグッと握手を交わした。
再会の誓いを立てながら。
「――――レランカ、親父によろしく伝えといてくれ」
こっちでは、ワーラスとレランカのレルン兄妹が挨拶を交わしている。
ケバローにぶん殴られた傷がまだ完治していないが、動ける程度には回復しているようだ。
だが、町を出ていくのはまだしんどいようで、先に旅立つ妹に伝言を頼んでいる。
「……ああ、分かったぜ。……でも、今度自分でも行けよ?」
「もちろんだ」
レランカは馬車の荷台へと乗り込んだ。
窓の外から、町の風景を眺めながら。
「じゃあ、僕たちも行こうか」
「はい……!!」
運転席に座る病み上がりのケバロー。
翔英もレランカに続いて、彼女の隣へと腰を下ろした。
みんなが戻っていくのに気づいたジュンも合流だ。
――――出発。
ケバローが走らせた馬車は、グングンと加速し、薬の町を抜けて行った。
その後、メデュンの人々は町の中心に、スリーラの銅像を建てることとなる。
それは、薬を失ってしまったこの町の守り神としての、新たなシンボルとなる。
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そして、メデュンの隣町、レッドブランへと到着した一行。
翔英は特に用はないので、馬車の中で待機。
ケバローとジュンも待機しようと思っていたが、ジュンが「向こうで待っている子供たちに何か買っていきたい」と言ったため、買い物に向かった。
ついでに、中央都市へ着くまでの間を凌ぐ、食料も買っていった。
そして、レランカは、久方ぶりの故郷を見渡しながら、父親を探し始めた。
「――――あっ……!! 親父ィ!!」
すぐにレランカは父親を発見し、父親の元へと駆け寄っていく。
父親も娘の姿を確認すると、
「……おっ……!! レランカ!! 無事じゃったか!? おお……よかった……」
と、涙目で答えた。
「……ああ。……って、おいおい、泣くなよこんなところで、みっともねえな」
「……泣いてないわっ!! ただお前が眩しくて目がかゆくなっただけじゃ……!!」
「ああ、そうかよ。……そういや、兄貴も今度戻ってくるってよ」
「……おお、そうかそうか。……それより、レランカ。少しゆっくりしていかんか? あまり出せるものはないがのう……」
「……悪ィ親父。ちょっと待たせてる奴らがいるんだ。それにアタシは、一刻も早く向こうに姿を見せないとヤバい。もしかしたら、サボってると思われてるかもしれねえし。でも、向こうへ戻って落ち着いたら、またすぐ戻ってくるよ」
「おお、分かった。……頑張れよ、レランカ」
レランカは父親との挨拶を早めに済まして、馬車へと戻って来た。
だが、ケバロー達の方が戻りが遅かったことに、レランカは呆れていた。
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さらに、メデュンを出発してから一日近く経った頃。
一行は急ぎ中央都市へと走らせていた。
懐かしの中央都市はもうすぐ側。
あと一時間もしないところまで迫っている。
一刻も早く、この薬をミネカに届けたい。
翔英はそんな思いでいっぱいだ。
スリーラはあの時こう言っていた。
「強い衝撃を与えれば、目覚めると思う」と。
この薬の力があれば、ミネカを助けることができるかもしれない。
いや、今は『そう』だと思わなければだめだ。
ケバローにとっては、成果が得られない旅となってしまったが、また別の方法を探す方向で行くらしい。
レランカは、本部に戻るのは数ヶ月ぶり。
軍では行方不明とされていた。
そして、長い帰り道でも特にトラブルや問題なく、一行は無事に中央都市へと帰って来たのだった。




