第百二十一話 『英雄として』
「――――ここ……は……? ……はっ……!!」
目を覚ました翔英。
ここは昨晩から泊まっていたあの宿だ。
記憶は完全に戻っている。
昨日出来事、全て覚えている。
望まざるスリーラとの戦い。
レランカと共に薬をあげ回ったこと。
そして、最後に自分が薬を服用したことも。
戦いはどうなった。
みんなはどうなった。
スリーラはどうなったんだ。
激しい疑問が次々と生まれ、辺りを見渡す翔英。
宿には誰もいない。
翔英は身体を起こし、宿の外へと向かった。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「――――あっ……!! レランカさん!!!」
外に出てすぐのところで、レランカ・レルンを発見する翔英。
翔英はすぐさま、彼女の元へと走っていった。
「おお!! 目ェ覚ましたか!! よかったぜ!!!」
相も変わらず悪そうな笑みを浮かべながら、声を弾ませるレランカ。
彼女のその姿は翔英をひどく安心させる。
「……で……どうなったんですか……? あれから……スリーラさんは……それに、ケバローさんたちは今どこに?」
「…………ああ、後で説明してやる。その前に、アタシたちにはやらなきゃならねえことがあんだ。お前は……そうだな、町の奴らをここに集めるのを手伝ってくれ」
「……町の人を……?」
翔英は町を見渡した。
向こうの方に、起き上がっている人の姿が何人か見える。
どうやら、他の人たちも意識を取り戻し始めているようだ。
「ああ、ケバローさんたちは今、彼らを落ち着かせている。全員が目を覚ましたら、アタシが彼らに話をするんだ。もう少しで、全員目覚めるだろうぜ」
「……そうなんですね。分かりました。町の人たちを集めればいいんですね」
「ああ、よろしくな」
翔英はレランカの指示通り、次々と起き上がる人々の元へと向かった。
……でも、レランカは一番気になることを話してくれなかった。
町の人と話をしても、そのことばかりを聞かれたが、「僕が知りたいくらいです」としか返せなかった。
――――そして、一時間近くが経った頃。
全ての住民が目を覚ました。
「――――集まってくれたか。今から、お前らに話がある。アタシは、聖鳳軍のレランカ・レルンだ」
レランカが町の人々を広場に呼び出し、彼らに告げた。
彼らが気になっていることと、レランカの話の内容は一致している。
「――――まず、最初に言っておく。『スリーラ』は死んだ」
町の人々を激しい動揺が襲う。
当然だ。
町の顔として活動してきた、みんなに愛されていた少女の訃報なのだから。
「信じられない!!」「ふざけるな!!」という怒号が聞こえてくる。
レランカは彼らを鎮め、話を続ける。
「…………信じられないってのも分かる。信じたくない奴は、信じなくていい。……まあ、あいつが帰ってくることはないがよ。……お前らが飲んだあの薬。それを作っている途中で、自身もその病に倒れたらしい」
そういう設定だった。
レランカは、スリーラから受け取ったというテイで薬を服用させていた。
「……だが、あいつは、命を懸けてお前らを助けたんだ。あいつは、ゴアナ族の意思を全うして逝ったらしい。……だから……!! てめえら、あいつのことを忘れずに、明日からも生きていきやがれ。あいつはきっとお前らを見ているから」
この町には関係のない人間の言葉だった。
だが、その言葉は、彼らの胸に少ない影響を与えた。
彼らの多くは、失っていた『涙』を流して悲しんだ。
受け入れるのにまだ時間が必要かもしれない。
だが、いつまでも泣いてはいられない。
スリーラがいつも言っていたように。
真実を知らない者たちは、スリーラが遺してくれたものを、その身に宿しながら生きていくことを決めたのだった。
自身の正体を聖鳳軍だと言ったことは正解だったようで、話の信憑性が高まる結果となった。
聖鳳軍は、人々を病気から護る業務も行っているから。
「――――ちっ……!! 何でアタシがこんなこと言わなきゃなんねえんだよ」
話を終えたレランカが待機していたケバローに悪態をつく。
心底嫌っていたあの女をいいように言うのは、レランカにとっては苦痛だった。
しかし、レランカがこの提案を受け入れたことには理由がある。
ちなみに、この提案をしたのはケバローだ。
台本を考えたのもケバローだ。
ケバローはレランカに告げた。
スリーラが町のことを心から思っていたことには微塵の嘘もない。
町の人たちも、心からスリーラを慕っていた。
間違っていたのは気持ちではなく、方法だったと。
――――だったら、『支配者』ではなく、『英雄』として彼女を眠らせた方がいい。
レランカも、ケバローの意見に同調した。
レランカにとっては、スリーラのためではなく、町の人たちのためだが。
そして、町の人に話をするのは、レランカに決めた。
見た目がいいし、レランカはスピーチとか得意そうだとケバローが判断したからだ。
言いたくもないことは言うのは嫌だったが、レランカは渋々受け入れた。
翔英も町の人に並んで涙を流していた。
あんなことがあっても、彼には、スリーラを悪と呼ぶことはできなかったから。
「彼女を助ける方法はなかったのか」
そんなことを考えながら、翔英は部屋へと戻った。
――――そして、次の日。
とうとう、メデュンを出発するときが訪れた。




