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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第五章
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第百二十一話 『英雄として』

 「――――ここ……は……? ……はっ……!!」


 目を覚ました翔英。

 ここは昨晩から泊まっていたあの宿だ。


 記憶は完全に戻っている。

 昨日出来事、全て覚えている。


 望まざるスリーラとの戦い。

 レランカと共に薬をあげ回ったこと。


 そして、最後に自分が薬を服用したことも。


 戦いはどうなった。

 みんなはどうなった。

 スリーラはどうなったんだ。


 激しい疑問が次々と生まれ、辺りを見渡す翔英。


 宿には誰もいない。


 翔英は身体を起こし、宿の外へと向かった。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

 

 「――――あっ……!! レランカさん!!!」


 外に出てすぐのところで、レランカ・レルンを発見する翔英。

 翔英はすぐさま、彼女の元へと走っていった。


 「おお!! 目ェ覚ましたか!! よかったぜ!!!」


 相も変わらず悪そうな笑みを浮かべながら、声を弾ませるレランカ。

 彼女のその姿は翔英をひどく安心させる。


 「……で……どうなったんですか……? あれから……スリーラさんは……それに、ケバローさんたちは今どこに?」


 「…………ああ、後で説明してやる。その前に、アタシたちにはやらなきゃならねえことがあんだ。お前は……そうだな、町の奴らをここに集めるのを手伝ってくれ」


 「……町の人を……?」


 翔英は町を見渡した。

 向こうの方に、起き上がっている人の姿が何人か見える。

 

 どうやら、他の人たちも意識を取り戻し始めているようだ。


 「ああ、ケバローさんたちは今、彼らを落ち着かせている。全員が目を覚ましたら、アタシが彼らに話をするんだ。もう少しで、全員目覚めるだろうぜ」


 「……そうなんですね。分かりました。町の人たちを集めればいいんですね」


 「ああ、よろしくな」


 翔英はレランカの指示通り、次々と起き上がる人々の元へと向かった。


 ……でも、レランカは一番気になることを話してくれなかった。


 町の人と話をしても、そのことばかりを聞かれたが、「僕が知りたいくらいです」としか返せなかった。


 ――――そして、一時間近くが経った頃。

 全ての住民が目を覚ました。 


 「――――集まってくれたか。今から、お前らに話がある。アタシは、聖鳳軍のレランカ・レルンだ」


 レランカが町の人々を広場に呼び出し、彼らに告げた。

 彼らが気になっていることと、レランカの話の内容は一致している。


 「――――まず、最初に言っておく。『スリーラ』は死んだ」


 町の人々を激しい動揺が襲う。

 当然だ。

 町の顔として活動してきた、みんなに愛されていた少女の訃報なのだから。

 「信じられない!!」「ふざけるな!!」という怒号が聞こえてくる。


 レランカは彼らを鎮め、話を続ける。

 

 「…………信じられないってのも分かる。信じたくない奴は、信じなくていい。……まあ、あいつが帰ってくることはないがよ。……お前らが飲んだあの薬。それを作っている途中で、自身もその病に倒れたらしい」


 そういう設定だった。

 レランカは、スリーラから受け取ったというテイで薬を服用させていた。


 「……だが、あいつは、命を懸けてお前らを助けたんだ。あいつは、ゴアナ族の意思を全うして逝ったらしい。……だから……!! てめえら、あいつのことを忘れずに、明日からも生きていきやがれ。あいつはきっとお前らを見ているから」


 この町には関係のない人間の言葉だった。

 だが、その言葉は、彼らの胸に少ない影響を与えた。


 彼らの多くは、失っていた『涙』を流して悲しんだ。

 

 受け入れるのにまだ時間が必要かもしれない。

 だが、いつまでも泣いてはいられない。

 スリーラがいつも言っていたように。 


 真実を知らない者たちは、スリーラが遺してくれたものを、その身に宿しながら生きていくことを決めたのだった。


 自身の正体を聖鳳軍だと言ったことは正解だったようで、話の信憑性が高まる結果となった。

 聖鳳軍は、人々を病気から護る業務も行っているから。


 「――――ちっ……!! 何でアタシがこんなこと言わなきゃなんねえんだよ」


 話を終えたレランカが待機していたケバローに悪態をつく。

 心底嫌っていたあの女をいいように言うのは、レランカにとっては苦痛だった。


 しかし、レランカがこの提案を受け入れたことには理由がある。


 ちなみに、この提案をしたのはケバローだ。

 台本を考えたのもケバローだ。

 

 ケバローはレランカに告げた。


 スリーラが町のことを心から思っていたことには微塵の嘘もない。

 町の人たちも、心からスリーラを慕っていた。

 間違っていたのは気持ちではなく、方法だったと。


 ――――だったら、『支配者』ではなく、『英雄』として彼女を眠らせた方がいい。

 

 レランカも、ケバローの意見に同調した。

 レランカにとっては、スリーラのためではなく、町の人たちのためだが。


 そして、町の人に話をするのは、レランカに決めた。


 見た目がいいし、レランカはスピーチとか得意そうだとケバローが判断したからだ。

 言いたくもないことは言うのは嫌だったが、レランカは渋々受け入れた。


 翔英も町の人に並んで涙を流していた。

 あんなことがあっても、彼には、スリーラを悪と呼ぶことはできなかったから。


 「彼女を助ける方法はなかったのか」

 そんなことを考えながら、翔英は部屋へと戻った。


 ――――そして、次の日。

 とうとう、メデュンを出発するときが訪れた。

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