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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第五章
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第百十六話 『最期の日』

 スリーラは駆けて行く。

 愛する母の元へ。


 だが――――


 ノマナを見たスリーラは「えっ……!?」と、驚きの声を出す。

 

 重症だった。

 

 聞いていたのは首だけのはずだが、肩から腰に掛けて深い傷がついている。

 彼女が横たわるベッドには、垂れ流れる血が染み込んでいる。


 まるで今、誰かに襲われたような傷跡だ。


 「ノマナ様あ!! ど……どうしたのですか……!!! なんで……!!」


 「…………ス……リー……ラ……」


 薄れゆく意識の中で、大切な娘の声を聞くノマナ。

 スリーラはノマナの手を取り、また泣いた。


 「何があったのですか……!!? 誰に……こんなことを……!!!」


 「………分か……ら……ない。……けど……ス……リーラ……近くに………来て………」


 「え……!? 何ですかノマナ様……!!」


 瀕死のノマナは、何故かスリーラを側に呼んだ。

 

 そして、


 スリーラを深く抱き寄せた。


 ノマナは察していた。


 この傷だ。

 もう、自分は死ぬと。


 だから最後に、娘を抱きしめたかった。


 「……………幸せにね………」


 口が回らない。声が出ない。

 伝えたいことはたくさんあったが、一番言いたかった言葉に纏めた。


 それから、もう一つ。


 「………ごめん……なさい………スリーラ………」


 ノマナは彼女に謝りたいことがあった。

 薄れゆく意識の中、自分を襲った不可解な傷は自らが犯した罪への罰だと、ノマナは思った。


 だが、「何を謝ったのか」。

 それがスリーラに伝わることはなかった。


 「ええ……!? そんな…………いやです……!! こんなところで……そんなの……!! そうだ……!! 今からお薬をお持ちします!! 少し待っていてください!!」


 スリーラは泣きながら、何としてもノマナを助けようと動き出す。

 確か彼らは、切り傷を治す薬を持っていたはずだ。

 

 もうこれ以上、大切な人を失いたくない。

 そう、思いながら。


 「――――いたぞ!!!」


 しかし、そんなスリーラの行く手にゴアナ族が立ちはだかる。

 いつの間にか誤情報共有されており、先よりも人数が増えている。

 

 「――――あ、あれは……!! ノマナァ!!!」


 そして、重症を負っているノマナにも気が付いた。


 一人、ノマナの元へ向かう。


 「貴様ァ……!! ノマナにまで……!! 恩を仇で返しおって……!!」


 「ちっ……違う……!! 違います……!!!!」


 もはやスリーラの言葉は全く聞こえない。

 残りは『魔物の討伐』に動き出す。


 数人に囲まれ逃げ場がなくなるスリーラ。


 戦闘能力なんて微塵も持ち合わせていないスリーラに、この包囲網を突破できる力などあるはずがない。


 「……ああっ……!!」


 と、スリーラから微かな悲鳴が発せられる。


 ゴアナ族の一人が、スリーラの肩に一太刀食らわせたのだ。


 しかし、


 切り裂かれたのは、『ノマナ』の方だった。


 ノマナの手当てをしていた男は、目の前の光景を理解することができない。

 突如、ノマナに傷が生まれたように見えたのだから。


 討伐側もそれに気づかず、さらに突きを食らわせる。


 やはり、スリーラは無傷。

 ダメージを肩代わりするのは、ノマナ。


 それを見ていた救助側の男が、声を挙げた。


 「――――おい……!! みんな……そいつに攻撃するな!!!」


 その声に一族は動きを止める。

 スリーラも、おびえながら声の方へ顔を向けている。


 「……そいつへの攻撃は……ノマナへの攻撃になってしまっている……!! おそらく、それがそいつの『魔能』だ……!! 攻撃はダメだ!!!」


 ざわつくゴアナ族たち。


 だが、スリーラの動揺は彼らの数倍だ。


 自分が無傷だった理由。

 それが、大好きな人が代わりに攻撃を受けていたからなんて。


 スリーラは自分が人間ではないことをさらに強く実感した。

 そして、自分の力のせいでノマナが傷付いていることに深く絶望した。


 「――――じゃあ……どうすればいいんだ……!! この魔物を倒すには……!!」


 「……分からない。……もしかしたら、ノマナと距離を置けば、魔能は解除されるかもしれない!! 今やって…………っ……!!」


 スリーラを倒す方法を模索するべく、ノマナを運び出そうとするゴアナ族。

 しかし、彼女に触れたことで確信してしまった。


 ノマナは、死んでいる。


 スリーラが来た時から、元々死に掛けていたのだ。

 そこからさらに、凶器をぶつけられてしまっては。


 男は悲しみと憎しみを覚えた。


 そして、討伐側に合流して、言う。


 「……みんな…………ノマナが『死んだ』……」


 ゴアナ族に衝撃が走る。

 涙を流す者もいれば、激しい怒りを覚える者もいる。


 だが、この場で一番心を搔きまわされた者。

 それは、スリーラだった。


 彼女は急いで後ろへと走っていく。

 そして、眠るノマナに顔を近づけた。


 『なんなのだろうこれは』


 『悪夢にしてもあんまりだ』


 『わたくしは、生まれてきてはいけなかった』


 『幸せになってはいけなかった』


 『人間の真似事をしてはいけなかった』


 『向こうへ行って、二人にまた会おう』

 『いやダメか。こんな奴が、二人と同じところへ行ける訳がない』


 『でも、生きるよりは、まだいいか』


 朦朧とする意識の中。

 スリーラは自らの命を差し出そうと動き出す。

 もう、ノマナは死んでいる。

 攻撃がノマナへ移ることはないだろう。


 ゴアナ族たちも、それは予想していた。


 二人の仲間の仇を討とうと、残虐な魔物に引導を渡そうとする。

 彼らの一人が、スリーラに武器を振り下ろした。


 ――――だが、その武器を貰ったのは、その男自身だった。


 「………この人は……殺させませんよ」


 洞窟内に侵入していた男がいた。

 その男は、主の命を助けようという思いで、ここまでやってきたのだった。


 スリーラは攻撃を貰ったと思い込み、その場に気絶してしまっている。


 「……なんだお前は……!! この魔物の仲間か……!!?」


 「……『仲間』……少し違いますね。この方は、私の『全て』。記憶を無くされていようと、それは変わりません」


 男は、包囲網に自ら飛び込んだ。

 そして瞬く間に、彼らを血に染めていく。


 数人とはいえ、たかだが武器を持っただけでは『アボラ』に敵うはずもない。


 彼は、次々とゴアナ族の命を奪っていった。


 戦闘には参加していなかった、女や年寄りも含めて。

 一族は皆殺しとなった。


 ――――いや、まだ一人生きていた。


 アボラが現れる少し前に、洞窟の地下へと移動した者がいたのだ。


 彼はゴアナ族の中でも最も博識で、薬の製作にも長けている男だった。

 彼は、急いで新しい薬を作っていた。


 何の薬か。


 それは、『一時的に記憶を消す』薬。


 彼は、一年ほど前に見た新聞のことを思い出していた。

 聖鳳軍との戦いに敗れた『青髪の女の魔物』が逃げたという記事だ。


 そこには、その魔物の能力も記載されていた。


 『攻撃を他人に移す』能力だと。


 彼はさっきピンときた。

 『スリーラのことだ』と。


 そして、彼女が初めてここに来た時のことも思い出す。

 あの時スリーラは激しい傷を負っていた。


 そして、彼女は『記憶をなくしていた』


 これらの情報から、彼はこう考察した。


 彼女の能力を解除するためには、『記憶』が関係するのではないかと。

 だから、『記憶を消す』薬の製作に取り組んでいたのだ。


 一日が経った頃、『一粒』だけだが、彼は薬を完成させた。

 いや、まだ完成とは言えない。

 試していないのだから。


 彼は、誰かにこの薬を飲ませようと、一日ぶりに地上に出た。

 もしもの時のために、手紙を机にしまっておいた。


 しかし、


 「――――まだ、生き残りがいたのですね。困るのですよ。あのことを知っている人間に生きていられるのは」


 そこには、アボラがいた。

 彼は逃げた。


 だが――――


 当然、逃げられるはずもない。

 彼は、洞窟の地下にて命を奪われた。


 彼の死を持って、完全にゴアナ族は全滅となった。

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