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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第五章
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第百十五話 『殲滅一直線』

 ――――スリーラが家に帰ると、『異変』が二つ起こっていた。


 一つ目に、ノマナが突然首を痛めたらしくて、ベッドに横たわっていたこと。

 痛みはまだ引かないらしく、安静にしなければならないので、ゆっくりスワナと話すことが出来なかった。


 もっとも、スリーラの方も落ち着いて話せる状態ではないが。


 そして二つ目。


 これはスリーラが感じたことなので気のせいなのかもしれないが、他のゴアナ族の自分を見る目がいつもと違う気がした。

 何というか、『恐れ』を孕んでいるような。

 そんな気がした。


 向こうから話し掛けてくることはなかったので、彼らと会話はしていない。

 スリーラに今、誰かと話しをする気力はないから。


 ノマナがいない自分の部屋で、スリーラはうずくまった。


 『どうしよう』『どうしよう』『どうしよう』


 今は、それしか出てこない。


 あの男が言っていることは本当だろう。

 冗談でそんなことを言うような奴には見えなかった。

 冗談であって欲しい限りだが。


 つまり、明日までに最低でも『一人』はこの家から消える。


 『あの男を倒せば』


 スリーラはそう思った。

 あいつさえいなくなれば、誰も死なずに済むかもしれない。

 だが――――


 『消えない』。

 あの男への恐怖が。


 スリーラの脳裏に刻み込まれている記憶によるものなのか。

 あの男の会話の中で、スリーラは圧倒的な力を感じ取っていた。


 『あの男に逆らってはいけない』


 自分でも知らない自分が、無意識にそう言い聞かせてくるのだ。

 そしてその声に、スリーラは強く納得してしまった。


 『怖い』という感情が高まっていく。


 スリーラは、ジャーザンスを倒す決心ができなかった。


 ならばどうするか――――


 答えは一つ。


 スリーラの一番大切なもの、それは、ノマナ。


 彼女だけは、何としても絶対に護りたい。

 このまま何もしなければ、あいつにノマナは殺されてしまう。


 あいつが提示してきた、唯一のノマナを助ける方法。

 それは、『一人』殺すこと。

 そうすれば、他の人は見逃してくれるとあいつは言っていた。


 普通ならば、その提案を真に受け、家族を手に掛けるなどということはしないだろう。


 しかし、あまりの恐怖に、スリーラは錯乱状態へと陥っていた。


 『もうそれしかない』

 そう思うようになってしまっていたのだ。


 スリーラはいつの間にかナイフを手に持っていた。

 その手はガタガタと震えている。

 手だけではない。全身が同じように。


 そして思い出す。


 あの男、この命令を出す際に条件を出していた。

 『親しい者』にしろと。


 彼女は決心した。


 一番大切な人を護るために、二番目に大切な人を殺すことを。


 そして、少し経った頃、スリーラは『スワナ』の元へと向かった。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ――――いた。


 スワナの部屋に、背を向けている、彼が。


 まだ気づいていない。

 スリーラは凶器を後ろに隠しながら、スワナにそっと近づいていく。

 そして、ナイフを振り下ろそうとした。


 しかし――――


 スリーラが振り下ろした手は止まった。

 目から涙があふれた。


 『できない』


 『できるわけがない』


 『そんなこと』


 「――――来てくれたのか、スリーラ」


 スワナが言う。

 震えながらナイフを持った彼女に対して。


 スリーラは顔を引きつらせながらスワナとの距離を置く。


 『どうしよう』『なんて言えば』


 そう思いながら。


 「……やっぱり、そうだよな、スリーラ」


 「…………え…………?」


 「俺、今朝のスリーラとあの男との話、聞いてたんだ」


 「……!! そ………そんな………」


 「俺を殺しに来たんだろ? みんなの……ノマナのために」


 ナイフを見ながらそう口にするスワナ。

 しかし、彼からは動揺や焦りは感じられない。


 「――――でもな、スリーラ。何もお前が、こんなことをする必要なんてない。……優しいお前が、こんなことしちゃいけないよ」


 「………で、でも………あの人、一人殺さなかったら、みんな殺すって………」


 「うん。そう言ってたな。あれが嘘じゃないってことも分かったよ」


 スワナも分かっていた。


 ゴアナ族は特別な力を持ってはいるが、戦闘能力はほとんど持たない。

 武器を手に取り戦いを挑んだところで、全滅することは間違いない。


 『聖鳳軍に助けを求める』

 それもおそらく無理だ。


 明日までに、彼らがここに来るのは難しい。

 間に合ったとしても、犠牲者が増えるだけかもしれない。


 だから、スワナが選んだ、ノマナたちを助ける方法。


 それは――――


 「――――だから、こうすればいい……」


 「いっ……!! いやああああ!!!」


 スワナは、スリーラが持っていたナイフに自ら飛び込んだ。


 自分『一人』が犠牲になることで、一族の未来を護ることを選んだ。

 そして、愛娘の手は汚させないと、自決を選択した。


 スリーラは持っていたナイフを手放す。

 当然、ノマナは血を流しながら地に伏した。


 「(……ごめんな、スリーラ………こんなところを見せちまって…………でも……『親しい人』に俺を選んでくれて嬉しかったよ…………お前は……ノマナと一緒に……生き延びてくれ…………)」


 スワナは死んだ。


 妻と娘の幸せを祈りながら。


 そして、これならジャーザンスの言った条件を満たせただろう。


 一人、『スリーラの手』によって死亡している。

 彼女にその意思はなけれど、ナイフを持っていたのはスリーラだ。


 「…………ス、スワナ様あ……!!!」


 泣き崩れるスリーラの元へ駆けつける影があった。

 彼女の悲鳴も響いていたのだ。

 人が呼び寄せられるのも当然だろう。


 駆け付けたのは、三人の男たち。

 彼らは、血まみれのスワナを発見すると、声を張り上げた。


 「な……!! ス、スワナ……!!」


 一人はスワナに駆け寄り、彼が死んでいることを確認した。


 「助けてくださいスワナ様を!! 皆様!!!」


 スリーラは当初の目的を完全に忘れ、男たちに助けを求める。


 しかし、


 「やはり……スリーラ……お前は『魔物』だったのだな……!!?」


 「…………え……」


 「とうとう本性を出しやがったか!! 我らの殲滅が目的か!!」


 「な……何を……ああっ!!」


 密室に少女と血を流して倒れる男。

 傍から見ればこの状況、少女が男を刺したと捉えられてしまってもおかしくない。


 しかも彼らは、この少女が『魔物』だと知ったばかりだ。

 魔物の言い分は、彼らの耳に入らない。


 ゴアナ族たちはスリーラの言葉を聞く前に、彼女の胸に武器を振り下ろした。

 勢いよく斬られ、スリーラは倒れる。

 

 だが、スリーラは『無傷』だった。


 「……な……なに……!? バカな……!!」


 ノーダメージで立ち上がるスリーラに動揺するゴアナ族。

 そして、より一層、この女は人間ではないという確信を強めた。


 「……や……やめてください皆様!!! それに、なぜそのことを……!!?」


 「うるさい……!! スワナの仇を……討たせてもらうぞ……!!!」

  

 「や……やめて………やめてえええ!!!」


 スリーラは数発攻撃をもらいながらも、何とか部屋を出ることに成功する。

 そして、追ってくる彼らから必死に逃げ回る。


 スリーラは逃げながら考える。


 『何故彼らまでもが、自分が魔物であることを知っていたのか』


 『何故自分は斬られても大丈夫なのか』


 『何故、こんなことになってしまったのか』


 みんなを護るために、スワナは一人犠牲になったというのに。

 これで、ノマナたちみんなは助かるはずなのに。


 そんなスリーラは逃げる中、ある場所に辿り着いた。


 そこは――――


 「ノ……ノマナ様……!!」


 ノマナが首を痛めて寝込んでいた、治療室だった。

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