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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第五章
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第百十四話 『破格の取引』

 ゴアナ族の住処に現れた男は言う。

 満面の笑みを浮かべながら。


 彼に話し掛けられたのは、ゴアナ族の一人、『ユマナ』。

 スリーラとはあまり関わっていないおじさんだ。


 「――――青髪のお嬢さん? ああ、『スリーラ』のことですか?」


 「そうそうそうそうそう!! スリーラ!! いますか!!?」


 「……失礼ですが、スリーラに何の用ですか? ――――それに、あなたは?」


 異様なテンションで喋るジャーザンス。

 彼に警戒を抱くのは人として当然か。

 

 「いやいやいやいや~そんな警戒しないでくださいよお。…………実は私、あの子の『友人』なんです。あの子が、『記憶』を無くす前のね」


 ジャーザンスは平然と嘘を吐きまくる。

 しかし、ユワナは彼の発言に表情を変える。


 あの子の『記憶がない』ことを知っていることに。


 「……そうなんですか……!? あの子の……!!」


 「はい。そうですよ!! スリーラ……いや、『コレール』のことはなんでも知っています!!」


 「コレール……?」


 その後もジャーザンスはウソとホントを喋りまくった。

 

 スリーラの本名。

 スリーラが住んでいた場所。

 スリーラの家族。

 スリーラの好きな物。

 スリーラとの思い出エピソード。


 ノンストップでベラベラベラベラ喋りまくった。


 「――――な……なるほど。分かりました。では、連れてきますね」


 「はい!!! ありがとうございます!!!!」


 あまりにも詳しく話をするジャーザンス。

 もう『友人』というラインを越えているんじゃないかと思うが、信じない方が難しいくらいだ。


 「――――と、言いたいところなんですが、今あの子は外に出てるんです……」


 「はあ!! そうなんですねえ…………今!! あの子はどこに?」


 「ここから少し先にある、メデュンという町へ行っています。まあ、そのうち戻ってきますから、ここで待っていたらどうですか?」


 「いやあ、そうですねえ。…………そうさせてもらいますかな。いやっ!!!!! そういえば俺、メデュンで買い物したいと思ってたんだあ。ってことなので、僕行きますね」


 「ああはい……分かりました……」


 ユワナが返事をする前に、ジャーザンスはメデュンへと掛けて行った。

 ユワナは「少しおかしな人」だと思っていたが、彼を止めることはできなかった。


 なぜなら、あの男。

 スリーラの話をする際に、ものすごく楽しそうだったのだ。

 彼女との思い出を振り返りながら、時には懐かしさに涙を流してもいた。


 彼の話振りだけで、ジャーザンスとスリーラの仲の良さをノマナは感じ取った。


 全部嘘だが。 


 「――――ユマナさん、さっきの方は?」


 ユマナがジャーザンスと話していた様子を見ていた『スワナ』。

 彼は、奇妙な走り方で去って行った男について尋ねる。


 「おお、スワナ、聞いてくれよ。スリーラの『前の』知り合いだってさ。今、あの子に会いにいったよ」


 『前の知り合い』

 スワナの表情が一変する。

 嫌な『汗』が吹き出し始める。


 「……本当ですか……? ユマナさん……」


 「ああ、そうらしいよ。あの子の前の事、めちゃめちゃ詳しかったし。スリーラ、本当の名前はコレールって言うんだってさ。…………ん? どうした? スワナ」


 衝撃で感覚が失っているのか。

 スワナは手に持っていた荷物を落とした。

 ユマナもまた、彼の異変に驚いている。


 「………………あ、ああすいません。ユマナさん。その人は……メデュンに行ったんですよね」


 「ああ、そうだよ」


 「……分かりました。……では、俺も行ってきます」


 ノマナもジャーザンスの後を追い、メデュンへとダッシュする。

 ユマナは、そんなノマナの後ろ姿を怪訝そうに見つめていた。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 メデュンへと急ぐノマナ。

 彼は、先日のスリーラとの話を思い出していた。


 あの子は言っていた。

 『本当の名はコレール』と言われたと。

 そして『あなたは魔物』だと言われたと。


 彼がスリーラの元へ慌てて掛けて行くのは、致し方無いことだ。


 ――――何かを発見したノマナは、壁に身を隠した。

 奥には、いる。

 スリーラと、彼女と話す男が。


 スワナはスリーラのことを心から信じている。

 そのつもりだ。


 だが、スワナは壁に耳を立て、彼らの会話をそっと聞き始めた。


 「――――ではコレール。君に話があるんだ。といってもすぐに終わるヨ」


 「……!! ……コレール……」


 また『あの名前』を呼ばれたことで、スリーラは警戒心を最大地に高める。

 スワナもバクバクとなっている心臓の音を必死に抑えながら、身を隠している。


 「――――時間が惜しい。早速用件を伝える。この間のアボラの話を思い出しながら、よく聞いてくれ給え」


 「(……ということは……この方も『魔凰軍』…………それに、やはり……わたくしも………)


 心のどこかでは分かっていた。

 だが、彼女は決めたのだ。

 

 スワナとノマナと共に、『人間』としてこれから生きていくと。

 そんな矢先に、また来やがった。


 「――――君に、やって欲しいことがある。なあに、難しいことじゃあないから、安心しなさい」


 スリーラは黙って、彼の要望を聞いている。

 もちろん、断るつもりだ。


 だが、


 「今日までにゴアナ族を皆殺しにしといて」


 「……は…………?」


 「ああ安心して。もちろん、見返りもあるよ。これが終わったら、君は『魔凰軍』から脱退していい。破格の取引だ。こんなことで、君は自由になれる。その前にやってほしいことが――――」


 「………なにを………言っているのですか…………」


 「んんん? 何? 理解できないの? えええ!!? こんな簡単なことが分からないの!!!?」


 「……違う!!! そんなこと……できるわけないでしょ!!!」


 スリーラは声を張り上げる。

 あまりにも理不尽かつ残酷な要求に対して。


 対するジャーザンスは、不思議そうに首を傾げている。


 「……あら、そうなの。難しかったかあ。だったら……」


 そういいながら、ジャーザンスは急にスリーラをビンタした。


 スリーラは驚いている。

 急にビンタされたこともそうだが、『痛み』が感じられなかったことに対して。


 様子を見ていた『スワナ』も、男に怒りを滲ませた。


 ジャーザンスはニヤリと笑い、


 「条件を変えてあげよう」と言う。


 「『一人』でいいよ。殺すのは」


 「……ふざけないで………」


 「ふざけてない。僕は至ってまじめだ。――――だが、その代わり、君が親しい人間ね。それだったら、『一人』でいい」


 「何言ってるんですか……!!! そんなことさせませんよ……!!!」


 スリーラは勇気を振り絞って啖呵を切る。

 ふざけたことを言い続けるこの不届き者に対して。


 だが、ジャーザンスは――――動いた。

 邪悪な眼差しと共に。


 「いや無理だ!!! これ以上の変更はできないよ!!! 君らしくないじゃないか!! 以前の君なら、簡単に引き受けてくれただろうに!!!」


 「…………そんなことっ……!!!」


 「――――とにかく、『一人』殺せ。もし、明日までに一人も死んでいなかったら……

『全員』殺すから。逃げるなんて考えるなよ。私は常に、お前たちを見ている」


 「…………だからっ……」


 スリーラが言い切る前に、ジャーザンスは姿を消した。


 スリーラは膝から崩れ落ちた。

 そして、こらえ続けていた涙を流し始めた。


 スワナもそうだ。

 彼は、動けなかった。


 どんな顔をしてスリーラの前に出ればいいか、分からなかったから。


 しばらく涙を流した後、スリーラは自宅へと戻っていった。

 

 スワナも帰った。

 自身が取るべき行動について、頭を悩ませながら。

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