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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第五章
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第百十三話 『近づく終焉』

 ――――現れたその男。

 

 一見すると、普通の人に見える。

 服装も、背丈も、顔立ちも。


 何一つ、印象に残らない。

 どこかで会っていたとしても、視界にすら入ることはないだろう。

 

 だがそれは――――『見て』いればの話。

 実際に話してみると、関わってみると、その男の存在は嫌でも脳裏にこびりつく。

 

 ――――『不快』という感情とともに。

 

 彼と話していると、何故だが不快な気持ちになる。

 おちょくられているような、馬鹿にされているような。

 

 何よりこの男は、話す相手を『見ていない』。

 

 全てが虚。

 喋る言葉にも話す表情にも、心が乗っていない。


 だから不快なのだ。


 誰かと喋っているような気がしないから。

 

 「――――話は聞いたよう。コレールをどうしようかって話だったよね?」


 その男、『ジャーザンス』は話し始めた。


 話し掛けられたのはラスドラーゴだ。

 ラスドラーゴは彼の姿を確認すると、一瞬苦い顔を見せる。


 咳払いを一つ挟むと、ラスドラーゴも口を開いた。


 「ジャーザンス。来ていたのか」


 「そーんなことはどうでもいいでしょ。い・ま・は」


 アボラと顔を合わせるラスドラーゴ。

 確かに今は、『コレール』の件が重要か。


 「……そうだな。では聞こうか。その『いい考え』とやらを」


 ジャーザンスはニタリと笑うと、彼の作戦について提案した。

 

 しかし、


 「――――なんだと…………」


 その提案はアボラはおろか、極悪人であるラスドラーゴですら躊躇うほど、『非人道的』なものだった。

 それをジャーザンスは、無邪気な子供が新しい遊びを提案するようなテンションで伝えた。


 「――――君も言っていたではないかあ? ゴアナ族の力は貴重だっっって。それを頂く、絶好の機会じゃないですか」


 「……確かにそうだな。あの一族の力は欲しい。……しかし、そんなことをして、コレールが使い物にならなくなったらどうするんだ……」


 「大丈夫ですよお!! 私知ってます。人間の心ってのは頑丈でね。ちょっとやそっとじゃ壊れないようになってるんですよ!!!」

 

 大げさな身振り手振りを入れながら説明するジャーザンス。

 だが、彼の言っていることに説得力など皆無だ。

 

 「……いや、今のコレールは不安定だ。下手に刺激するのはダメだ。今はまだ様子をみよう」


 ラスドラーゴはジャーザンスの案を却下する。

 アボラも彼に同調している。

 これ以上、あの人に辛い思いをさせたくない。


 だが、


 「いつから、僕の上司になったんだいラスドラーゴ。お前に、止める権利はないんだよ。私がやると言ってるんだから」


 ジャーザンスはそう言い放った。


 ラスドラーゴは、焦りを隠しながら頭を悩ませる。


 そして、


 「――――やむを得ない…………分かった。お前の好きにしろ」


 と、ジャーザンスにゴーサインを出した。


 するとジャーザンスは笑いながら乗って来た黒いポッドにのり、彼らの元を後にした。


 「ラスドラーゴ様!! なぜですか!!?」


 再び二人になった一室で、アボラはラスドラーゴに詰め寄った。

 アボラからすれば理解できない。


 「……あの男を敵に回してはならない。……それほど、危険な男なのだ。……コレールは、何事もないことを祈ろう……」


 「…………なんですか、それは……」


 ジャーザンス。

 彼は、『魔凰軍』ではない。

 魔物ではあるのだが、軍に所属してはいないのだ。


 ジャーザンスは誰かの下に付けるような男ではないから。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一方、スリーラは――――


 やはり、自分の存在について頭を悩ませていた。


 『わたくしはみんなとは違う』


 『わたくしは『悪』』


 『わたくしは…………』


 何をするにしても、そればかりを考えてしまう。

 彼女から、『笑顔』が消えかけていた。


 「――――スリーラ様、少しお話しませんか……?」


 一人部屋でボーっとしていたスリーラに声を掛けたのは『ノマナ』だ。

 彼女の後ろには、『スワナ』が立っている。


 当然、スリーラの様子がおかしいことには、周りも気が付いていた。


 「――――スリーラ様、最近何かありましたか? ひどく疲れたような顔をしていますわ。もし悩みがあるなら、なんでも相談してくださいな」


 暖かい飲み物と言葉をスリーラに渡すノマナ。

 だがスリーラは、ノマナの顔を見ることができない。

 あんなに大好きだったノマナのことが。


 「………話せませんか。だったら、無理をして話さなくても大丈夫ですわ。……ただし、これだけは忘れないでください、スリーラ様。わたくしたちはどんなときだって、何があったって、あなたの味方です」


 ノマナは極めて穏やかな口調、しかし、安心を覚えるような声色でスリーラに告げる。

 スワナもまた、涙目で深く頷いている。


 誰にも言えない、溜まり続けていた『恐れ』が爆発したのか。

 やはり二人の優しさに動かされたのか。


 スリーラは、涙を流し始めた。


 そして、


 「――――ノマナ様!! スワナ様!! 聞いてください!!!」


 ノマナの温かさが壁を溶かし、スリーラは話す勇気を出した。


 「はいっ……!! 何でも言ってくださいな!!!」


 「……もし…………もしも……ですが。……わたくしが人間ではないと言ったら、どうしますか……?」


 「……え………」


 『なんだそれは』


 二人は最初にそう思った。

 だが、スリーラの顔を見れば、本気で悩んでいたことが伝わってくる。

 そして、スリーラに笑顔を戻してあげたいと、本気で思える。


 「……どうもしませんわ。あなたが『何者』であろうと。あなたはわたくしの『家族』です。人間かどうかなんて、関係ありませんわ」


 「……その通りだよ。君がなにであったって、俺たちの『娘』だ」


 ノマナは言った。

 怖いほど、強い口調で。

 

 スワナは言った。

 本心から出た、深い言葉で。

 

 スリーラにとってそれは、『感動』だった。


 「ノマナ様あ!!! スワナ様ああ!!!」


 スリーラはノマナに抱き着いた。


 ノマナも彼女を思いっきり抱き寄せた。

 

 スワナも二人を包んだ。


 スリーラの涙が引っ込むまで、三人の抱擁は続いた。


 その後、


 スリーラは先日起こった出来事を全て、スワナとノマナに伝えたのだった。


 当初は驚きを見せていたが二人だが、すぐにいつもの微笑みを取り戻し、スリーラの話を聞いてくれた。


 なによりスリーラが『何故悩んでいたのか』を知れたのは大きかった。


 スワナはアボラが言っていたことを『嘘』だとし、ノマナは『あなたは人間』だと言い続けた。


 スリーラも彼女に随分と元気づけられ、名前に相応しい人物へと戻った。


 「――――ノマナ様。スワナ様。わたくし、夢が出来ましたわ」


 「あら、いいですわね!! どのような?」


 「『笑顔が絶えない世界』を作ることです。……いいと思いますか? ノマナ様」


 「はいっ!!! もちろんですよ!! 素晴らしいですわスリーラ様!!! あなたなら、絶対に叶えられますよ!!!」


 「うんうん……!! その世界、俺も連れてって欲しいよ、スリーラ!!」


 「……!! ありがとうございますわ!!!」


 笑顔を取り戻した三人は、そこからずっと寝るのも忘れて語り合った。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


 ――――三日後。

 一人の男が、ゴアナ族の元を訪れた。


 一見すると、普通の人に見える。

 服装も、背丈も、顔立ちも。


 何一つ、印象に残らない。

 どこかで会っていたとしても、視界にすら入ることはないだろう。

 

 だがそれは――――


 「こんにちは!!!!!!!!! ここに住んでいるという、青髪のお嬢さんに用があるのですがあ………いらっしゃいますでしょうか」


 この男の来訪。


 それは、彼らの『終わり』を意味する。 

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