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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第五章
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第百十七話 『平和を目指して』

 一族が全滅した翌日。

 

 少女は、目を覚ました。


 自分がいる場所はどこかの部屋のベッドの上。

 あの時のように、誰かに介抱されたようだった。


 「――――お目覚めですか。……スリーラ様」


 近くに立っていた男が彼女に声を掛ける。

 どうやら、自分を介抱したのはこの男だったようだ。


 しかし、スリーラは彼に感謝を伝えない。

 むしろ、激しい憎悪の感情を彼に向けた。


 「……あなたは……!!! くっ……!! ……なぜ……!! なぜわたくしを助けたのですか……!! わたくしにはもう、生きる意味なんて……!!」


 昨日のことが次々とスリーラに降りかかってくる。

 薄れていく意識の中、この男が自分を助けたことも、何となくだが覚えていた。


 だが、スリーラはもう決めていたのだ。


 もう死ぬと。

 

 言葉通り、スリーラにはもう生きる気力はなかった。


 「……そんなことはありませんよ。あなたは――――必要な存在です」


 「必要……!!? どこがですか……!! わたくしのせいで、スワナ様やノマナ様は死んでしまった……!! わたくしがいなければ、あの方たちが死ぬことはなかった……!!!」


 「……避けられぬ犠牲だったのですよ。彼らは。……いわば、あなたのための」


 「ふざけないで!!! わたくしはもう死にます!! さようなら!!!」


 この部屋は二階。

 スリーラは近くにあった窓を開けると、一瞬の迷いなくそこから飛び降りて行った。


 それを見ていたアボラも、彼女の後を追うように窓の外へ。

 そして、彼女が落下するよりも早く地面に足を着けると、スリーラをお姫様抱っこで受け止めた。


 「………どうして………」


 「……スリーラ様。あなたにやってもらいたいことがあります。命を絶つのは、せめてそれからにしていただきたい」


 アボラはスリーラを抱っこしたまま、元の部屋へと戻っていった。

 

 スリーラの方も、何も言わずに助けてくれるアボラに思うことがあったのか。

 それとも、かつての上司と部下という記憶か、同じ人間の姿をした魔物であるという親近感を少し覚えたからか、無駄な抵抗をせずにいる。


 アボラは、再びスリーラをベッドに寝かすと、先の話の続きを始めた。


 「……スリーラ様。今、この町では新種の病が流行っているのです。ゴアナ族も、その病に侵されていることになっています」


 「……? どういうことですか……?」


 「まあ聞いてください。今からあなたには、彼らの病気を治すための薬を作っていただきたい。必要と思われる素材は全て集めております」


 「……わたくしには、そんなことはできませんわ。あの人たちではありませんから」


 アボラが提示する要求を拒むスリーラ。


 当たり前だ。

 ずっと「薬を作れたら」とは思っていたが、その力が余所者の自分に宿ることはなかったのだ。


 「……いいえ。今のあなたなら、できます。まあ、とりあえずやってみてください。そちらの方が早い。――――少々お待ちを」


 スリーラが納得する前に、アボラは部屋を出て行った。

 一分後、戻ってくるアボラ。 


 だが、彼の腕には、苦しそうな子供が一人いる。


 「な……!? どなたですか……!! その方は……!!」


 「先程お伝えした病気を患ったこの町の子供です。……失礼……」


 スリーラが居座っているのとは反対側のベッドに子供を寝かせるアボラ。

 子どもの方は相当きついようで、この状況に全くリアクションを返さない。


 「スリーラ様。この子供の頭に手をやってみてください」


 「……え? ……手を……?」


 頷くアボラ。

 全然意味が分からないスリーラだが、言われるがままに手を頭へ。


 「……噂が本当ならば、見えるはずですよ。この病気を治すための薬の詳細が」


 アボラが声を掛けるより早く、スリーラはそれを感じ取った。


 ――――確かに見える。


 この病気を倒すために必要なものが。


 スリーラの顔つきが変わったのを感じ取ったアボラは、次のステップを紹介する。


 頷いたスリーラは、アボラが持ってきていた大量の素材の中から、四つを手に取った。


 そして、それに祈るようにすると……


 スリーラの手元に、『薬』が生み出された。


 「……!! これは……!!!」


 「おめでとうございますスリーラ様。一応、それをその子に飲ませて上げて下さい」


 これが何なのかわかっているスリーラは、横たわる子供の口に放り込んだ。

 すると、苦しそうだった子供の表情は、安らぎの顔へと変化していった。


 「……完全に成功ですね」


 「……いったいどういうことですか……? 今のは……彼らの力……」


 念願の力を手に入れたスリーラ。

 しかしその表情はまだ暗い。

 

 意味が解らなすぎるから。


 そんなスリーラの疑念を砕こうと、アボラは口を動かす。


 「……スリーラ様。それは、あなたが神に選ばれたお人であるからです」


 「……神に……」


 「ええ。ゴアナ族が持っていた特殊な力は、あなたへと受け継がれた。彼らに代わって、あなたが人々を助けていけるように。それは、あなたが特別だからですよ」


 「…………特別……」


 「あなたは『必要』です。世界のために、平和のために、あなたは必要なのです。いわばあなたは、希望そのもの。ゴアナ族の犠牲は、更なる平和のために仕方なかったのです。ですから、あなたが思い詰めることはありません。……それよりも、これからはあなたのその力で、苦しんでいる人々を救っていきませんか」


 アボラの言葉は、スリーラに少なくない影響を与えていく。

 だがしかし、まだ心の傷は塞がり切らない。


 「……でも……でも……!! わたくしにそんな資格なんて……!!」


 「……まだまだこの町には、先程の病気に苦しんでいる人がいます。あなたの力があれば、彼らを助けられる」


 「…………うう……」


 悩んだ末、スリーラは特効薬を量産した。

 そして、アボラと共に一軒一軒家を訪ね、人々に薬を無償で届けて行った。

 その際に、アボラはこっそり子供を自宅に届けていた。


 数時間かけて全部回った後、スリーラはもといた部屋へと戻った。


 「――――これで……!! これで、わたくしの役目はお終いですわ……!! やっぱりわたくしに彼らの力を使う資格なんてありません」


 「まだ言いますか。スリーラ様」


 またスリーラの説得を始めようとするアボラ。

 しかし、その必要はなかった。


 彼女がいる場所へ、人影が一つ、二つ、三つ。


 スリーラの薬で助かった町人たちだ。


 スリーラにお礼を伝えるべく、彼女の元を訪ねたのだった。


 次々と笑顔とセットでお礼を受け取っていくスリーラ。


 始めは動揺を隠せなかったが、感謝が重なるに連れて少しずつ彼女にも笑顔が戻っていった。


 そして――――


 「……辛いことが多すぎて、忘れていましたわ。誰かにお礼を言って頂けるのって、こんなに嬉しいことでしたのね……」


 「……スリーラ様……」


 「――――わたくし、決めました。あの方たちから授かった力を平和のために使っていくと。あの方たちが遺してくださったものを、わたくしが消し去ってはいけませんものね」


 アボラの全肯定。

 ゴアナ族の意思。

 メデュンの感謝。


 これらを見たスリーラは、決断した。


 「……スリーラ様。……私にできることがあれば、何でも言ってください」


 「……ありがとうございますわ。えっと…………」


 「アボラです」


 「よろしくお願いしますわ、アボラ様!!」


 笑顔で、挨拶を交わすスリーラとアボラ。


 その後、アボラの計らいによりメデュンのトップとなったスリーラ。

 スリーラは、『薬』を生み出し続けながら、理想の平和を目指していった。


 しかし、スリーラの心には激しい『歪み』ができてしまっていた。

 その歪みは時が経つにつれ、彼女自身を滅ぼすほどの大きなものとなっていく。

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