表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第五章
105/156

第百四話 『愛の奇跡』

 「――――今頃、レランカ様はお困りでしょうね。剣を取り出すことができなくて」


 「……そうか。……でも、それは君もだろう。君にも、レランカを止める方法がない。僕を倒さない限りね」


 せまい密室の中で、対峙するケバローとスリーラ。

 お互い、攻撃をすることができないという戦いが続いていた。

 

 ケバローはうかつにスリーラに手を出せない。

 スリーラはケバローへの有効打がない。


 ――――そんな均衡を破るように、一人の男が牢屋に姿を現した。


 その男は、黒髪を携えた若い男だ。

 しかし、かなりの重症を負っているようで、身体を起こすのに精一杯という感じだ。


 彼の姿を見た二人は、驚きの表情を浮かべた。

 スリーラの方は驚きと同時に、待ち望んだ彼が来てくれた喜びと、重症を負っていることへの心配も感じている。

 

 「――――アボラ様……!!!」


 そう、この男の名は、アボラ。

 スリーラに絶対服従している、彼女の副官である。


 翔英とケバローがこの場所に来る少し前、アボラはケバローと対峙した。

 しかし、力量の差は圧倒的で、ケバローの前に瞬く間に敗北した。


 そんな男が再び、ケバローの前に姿を現した。


 「……驚いたよ。まだ生きていたんだね。僕の『三撃』を受けているというのに……」


 「はっ……!! やはりアボラ様の傷は、あなたが付けたものだったんですね……!! 大丈夫ですか、アボラ様!!!」


 スリーラは近くの大男に何度目か分からない怒りを滲ませると、重症を負っているアボラの前に飛び出していった。

 

 スリーラは回復する術を持っていない。

 ただ、アボラを抱き寄せることしかできない。


 ケバローもスリーラを止めようとしたが、その様子を静かに傍観し始めた。


 「……スリーラ様……ご無事ですか……?」


 「もちろんですわ……!! それより、あなたの方が心配です……!! 急いで本部に戻りましょう……!! マイヤール様ならばきっと……!!!」


 「いえ……その必要はありません……私はもう、死ぬでしょう」


 「な……!? 何を言うのですか、アボラ様!! いくらあなたでも、そのような冗談は許しませんわ……!!!」


 スリーラは涙を零しながら、胸の中の男の顔をじっと見つめる。

 心では否定したいものの、彼の言葉が嘘ではないと、その表情から感じとった。

 

 「……泣かないでくださいスリーラ様……あなたには……涙よりも笑顔が似合います……笑ってください………いつものように………最後に見せてください………あなたの素敵な笑顔を……」


 アボラがケバローの『必殺攻撃』を喰らっても尚、生きていた理由。

 

 それは――――もう一度、スリーラの笑顔を見たかったからだった。

 彼の強い思いが寿命をわずかに伸ばし、朽ちていく身体をスリーラの元へと運んだ。


 紛れもない『愛の奇跡』である。


 アボラの思いが伝わったスリーラは、溢れ出る涙に抗い、微かな笑顔を彼に見せた。

 彼の決死の思いに答えんと。


 「そ……そうです……やはり、あなたの笑顔は美しい……最後に目に映せたのが……あなたでよかった…………スリーラ様………あなたならば、必ず世界を平和に導くことができます……心優しいあなたならば………」


 「……アボラ様……」


 愛するものへの言葉を言い残すアボラ。

 やがて、彼の生気が消えていき、彼は冷たくなっていく。


 スリーラでなくても、『死』を感じ取れるくらいに。


 そんな中、スリーラは思い出す。

 翔英との会話を。


 「(……今……分かりましたわ、ショウエイ様。わたくしとアボラ様のご関係。なぜ……今まで気付かなかったのでしょう………この方は……アボラ様は……『私自身』だと……)」


 スリーラは死にゆくアボラの姿を見て理解する。

 この男の存在の大きさを。


 そしてスリーラは、アボラの身体をさらに強く抱きしめた。

 一秒でも長く、この男のぬくもりを感じようと。


 ――――だが、


 スリーラの胸の中で、アボラが爆散したのだった。


 「……!!!!! ア…………ア………アボラ様ァ!!!!」


 普段の彼女には考えられないような叫び声を挙げるスリーラ。


 当然だ。

 最愛の人が突然、自分の胸の中で爆死したのだから。


 あまりの衝撃にパニックになるスリーラ。

 彼女の顔は恐怖に引きつっている。

 

 アボラの死を受け入れるのがやっとなのに、こんな死に方はあんまりだろう。


 そのままスリーラは泣き崩れてしまった。


 その原因となった張本人、ケバロー・ホサルトン。

 さすがの彼も、この状況にドン引きしていた。


 『三撃』の爆殺が襲い掛かるのは、だいたい一分以内。

 どんな実力者であっても、五分あれば発動するだろう。


 しかし、アボラはスリーラへの強い思いで限界を超えてしまった。


 そんな『愛の力』がこんな事態を招いてしまうとは。

 ケバロー、アボラ双方、想像がつかなかっただろう。


 「……ひ、ひどすぎる………あんまりです……い、いったい……わたくしは……どうしたら………」


 かつてないほどのショックを受けたスリーラは、その戦意を喪失してしまう。


 「思わぬ形で決着が着いた」

 申し訳なく思いながらも、そんな風に捉えるケバロー。


 だが、


 「(……スリーラ様……スリーラ様……)」


 と、スリーラの頭の中で、声が響き始めた。

 彼女は顔を上げると、辺りを見渡し始める。


 「(……スリーラ様……私はもうそこにはいません………)」


 「(……アボラ様……!! ……いったいどこから、語り掛けているのです……?)」


 「(……あなたの心の中でございます、スリーラ様……)」


 「(……心の……中………)」


 「(そうです……私の全ては今、あなたのものとなった………さあ……顔を上げてください……スリーラ様………私はあなたとともにあります……!!!)」

 

 「(……アボラ様……)」 


「(――――私たち二人で、この鬼を倒しましょう……!!! そして再び、あなたが目指す平和な世界へ……!!!)」


 声が止んだ。

 そして、スリーラは立ち上がった。


 先程まで泣きべそ掻いていたとは思えない、覚悟を決めた凛々しい顔と共に。


 その姿にケバローは驚きを見せる。

 もう彼女が立ち上がることはないと思っていたから。


 そして、彼女の『目』の変化にも驚きだ。

 この目は紛れもない、『戦士』の目。


 「……今のわたくしの使命が分かりましたわ。アボラ様の意思を継ぎ、あなたを倒すことだと。悲しみに暮れるのは、後回しですわ」


 「……そうか。アボラさんの最後には少し申し訳ないと思っているけど、君に倒されるわけにはいかないな。……むしろ、僕はまだ君を討たないといけないと思っているよ」


 そう言っているケバローだが、まだスリーラを倒す手段はない。

 翔英とレランカが戻って来なければ、攻撃を仕掛けることすらできない。


 それはスリーラも同じことだった。


 ――――ただしそれは、『これまで』の話。


 「……!!? なっ……!!?」


 ケバローがらしくない声を挙げた。

 そして、彼の背中に服越しの傷ができる。


 「……!! バカな……!!?」


 ケバローは慌てる。


 自分に傷ができたことにではない。

 確かに、傷を負うことなど現役時代以来数年ぶりだが、そんなことに驚いたのではない。


 では何に対して驚いたか。

 それは――――この細腕の小娘の手刀で、傷がついたことにだ。


 先程までのスリーラの攻撃では、逆に彼女の方にダメージが発生していた。

 ケバローの方はノーダメージだった。


 それなのにいきなり、彼女の攻撃によって目に見える傷が作られた。


 「……平和を乱す悪鬼よ。わたくしたちの手で、退治させてもらいますわ。『お覚悟』」


 これまでとは全く様子が異なるスリーラは、超格上に対して啖呵を切った。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ