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ヴェルソレクト  作者: 高野翌
第五章
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第百三話 『記憶魔法』

 「――――死んでねえんだろうな……」


 レランカが前に出て、ワーラス妻に尋ねた。

 彼女の姿を見た妻は、目を見開きながら、


 「……レランカさん……!!」


 と、彼女の名前を呼んだ。


 翔英は驚いた様子で二人を交互に見るが、空気を読んで声を出すことはしない。


 「悪いが今は、長話している暇はねェんだ。それだけ聞かせてくれ」


 「ええ、命に別条はないと思います」


 ワーラスの無事を聞き、安堵するレランカと翔英。

 だがまだ喜ぶのは早い。


 目的を果たすべく、二人は医療室を後にしようとする。

 しかし、


 「レランカさん!! 私たちにはスリーラ様が付いていますから、心配なんて全くありません!!」


 「……ちょっと待ってろよ、今、助けてやるから」


 レランカはそう告げると、翔英と共に再び探し物に赴いた。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 もちろん、ワーラスを襲った痛みの正体は、スリーラから送られてきたものである。


 つい先ほど、ケバローが彼女の顔面を殴った時に生まれた痛みだ。

 スリーラの力の向かった先は、ワーラスだった。


 ケバローがレランカの呼ぶ声に反応したことで、少しだけ拳を緩めることに繋がり、命までは影響が及ばなかったこと。

 そして、その向かう先が比較的丈夫な若い男だったことは、不幸中の幸いだろう。


 ケバローにとっても、あの一撃で死人が出なかったことは喜ばしいことだ。


 だが、レランカは激しい怒りを胸で燃やしていた。


 傷ついた兄の姿を見て。

 義姉の言葉を聞いて。

 

 そもそもレランカがこの町を訪れたきっかけは兄の存在である。

 

 彼女の故郷は、このメデュンの隣町、『レッドブラン』。

 メデュンに着く前、翔英らもレッドブランに立ち寄っている。


 そこで翔英たちは、あるおじさんに話しかけられた。

 『息子と娘の様子を見てきてくれないか』と。

 その娘こそが、レランカである。


 ――――数ヶ月前、レランカは帰郷していた。


 その際に父親から聞かされる。

 「ワーラスが隣町から戻って来ない」と。

 足腰を悪くしていた父親に代わり、レランカはメデュンへと向かった。


 兄と再会するレランカ。

 彼がひっそりと婚約していたことを知る。


 彼の無事に安堵するも、メデュンに滞在しているうちに兄の違和感に感づく。

 そして、町のそのものの違和感にも。


 彼女は特殊な力を使って調査を進める中で、あの洞窟に辿り着く。

 そこにスリーラとアボラが現れる。


 スリーラの能力の前に手数を失ったレランカは捕らえられ、洞窟奥深くの牢へと入れられてしまった。


 そんなレランカだ。

 当然、スリーラに対する怒りは強い。


 だが、今。

 ワーラスの姿を目の当たりにしたことで、彼女の思いにさらに火が廻る。


 「――――で、レランカさん! どこを探すんだ!?」


 「……やっぱ、あそこだろ」


 剣の行方を探すレランカと翔英。

 彼らはある場所に目を着けた。


 ――――スリーラ宅である。


 「………開かないですよ……」


 「しょうがねえ。窓から入るぞ」


 二人はスリーラ宅の裏へと周り、そこに窓ガラスを見つける。

 運のいいことに、スリーラの家は町の一番外側に立っているので、家の後ろに周ったとしても、そう簡単に誰かに姿は見られない。


 レランカは魔法で窓をこじ開けると、スリーラ宅へと足を踏み入れた。


 「……どんな特徴なんでしたっけ……?」


 「銀色に輝く剣だ。まあ、特に特徴はねえ。……だが、近くにあれば、その気配を感じるはずだ。あの剣には、アタシのマナが込められているからな」


 とりあえず一階を探す二人。

 コソ泥になった気分だ。

 だが見つからず、二人は二階へと上っていく。


 そこでも見つからない。

 だが、


 「…………近くにあるぞ。……間違いねえ、ドスベセスがアタシを呼んでるのを感じる」


 おもむろに辺りを見渡し始めるレランカ。

 彼女が立ち止まった先には、鍵が掛かった大きな箱。


 「……間違いねえ。こん中に入ってる……だが……」


 開かない。

 レランカと翔英の力では壊すこともできなそうだ。

 

 壊せたとしても、中の物を傷つけてしまうかもしれない。


 「ケバローを連れてくればよかった」と、レランカは思った。


 「……しょうがねえ」


 レランカは箱に手を置いて目を閉じた。

 彼女の固有魔法の発動だ。


 『記憶魔法』

 ヒナノですら使用することができない、レランカのみが使用できる力である。

 レランカは、触れた物体に宿る記憶を読み取ることができる。

 

 彼女はこの力を人々のために使ってきた。


 「………くそ……!! どこにあるかまでは分からねえ……!!」


 しかし、箱が持つ記憶だけでは、中身と鍵の形を知ることができるくらいだ。

 鍵は、スリーラしか知らない場所に保管されている。


 「……ちっ……! 鍵の場所を聞きに戻るしかねえか……!! あいつが教えてくれるとは思えねえが………おい!! ここにいても意味がねえ!! 一旦、戻るぞ!!」

 

 と、レランカは鍵の在りかを聞きに戻ろうと、翔英に呼びかける。


 しかし、翔英はその場から動かず、ある提案を彼女に持ち掛けた。


 「……ちょっと待ってレランカさん。もしかしたら……これの鍵を作れるかもしれない」


 「何言ってんだこいつ」という表情を浮かべるレランカの前で、鍵穴をのぞき込む翔英。

 そして、それをじっくり観察しながら、ネックレスに祈り始めた。


 出来上がったのは、小さな赤い鍵。


 「……なに!? 鍵になりやがった!?」


 驚くレランカを他所に、翔英は箱の鍵穴に手作りの鍵を差し込む。


 しかし、


 「……くそ……やっぱりダメか………そりゃそうだよな……」


 鍵ははまらない。

 翔英はゴミと化した鍵を元に戻した。


 「……ごめんなさい……レランカさん……行きましょう……」


 「いや、ちょっと待て。その宝石、形を変えられんだな……!! もう少し試してみようぜ。あの女に聞くよりはよっぽどいい……!!」


 「……いや、無理ですよ。鍵穴だけじゃ……」


 「分かってるよ……だから………!!」


 レランカは翔英の頭にポンと手を置いた。

 急にいい子いい子したわけではない。

 そして、反対の手をもう一度箱へと置く。


 「こいつで、もっとじっくり見やがれ!!!」


 レランカが使用する記憶魔法は、頭に手をかざせば共有することができる。

 彼女は箱の記憶の共有を始めたのだ。

 

 いろんな角度で、箱の鍵の形を翔英へと送り続けるレランカ。


 翔英も最初は驚いたものの、すぐに理解して鍵の製作に取り掛かる。


 そして――――七度の失敗を繰り返した後。


 「――――あ、開いた!!!」


 なんと、鍵の複製に成功し、閉ざされた箱を開けることができた。

 その箱の中には、レランカの読み通りに、彼女愛用の剣『ドスベセス』が入っていた。


 「――――しゃあ!! でかしたぞ、ショウエイ!!! こいつがあれば、上手くいくはずだぜ!!!」


 剣を取り返したレランカは解放の準備を始める。

 しかし、成功に気が抜けたからか、翔英の正気も限界に達しようとしていた。


※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 そしてこちらは、ケバローサイド。

 相も変わらず、二人の静戦が続いている。


 しかし、その沈黙を破らんと、一人の影が牢屋へと近づいていた。

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