1-3(4)偽黒蜥蜴の正体②
「…………………」
森にいる妖魔の気配を感じられないこと? 違うな。人間相手にノコノコ出てくるわけがない。先に出た来栖サナがあっさり見つかったことか? これも否、いや不自然か。
(そもそも、ハルトを攫った妖魔に追いつけるのか……?)
偽黒蜥蜴がゆっくりハイキングでもやればサナが追いつくことも可能か。にしても出来過ぎ。まるでサナが到着することを待っていたかのような。
「うーむ」
形だけ思案してみるものの、状況証拠しかないままでは憶測の域を出ない。傷ついたサナに何かを問い詰めたところで、周囲から顰蹙を買うだけだしな。
(……アホくさ)
いつもの言葉で思考を止める。
十分ほど経ってサナの手当てが終わり、支部と連絡を繋ぐ。
『そのままサナさんを含めての戦闘は危険ね………じゃあ、サナさんは何人かと下山。白神さんと漆葉君、あと残りは引き続き作戦を遂行して』
「あたしはこのまま行けます!」
『負傷者を抱えて黒蜥蜴を討伐なんて無謀です。勝手に行動して迷惑をかけのだから、素直にいうことを聞きなさい』
「サナさん、後は任せてください!」
「………了解しました」
苦虫を噛み潰したような顔で、サナは職員数人と歩きはじめた。見送る白神をよそに、俺とすれ違う寸前、こちらを一瞥した。
「……」
特に言い交わすでもなく、視線を向けた後、サナの口角はわずかに上がっていた。
一人勝手に飛び出して痛い目を見たから大人しく引き下がった、にしてはできすぎているような。肉親のことを想って飛び出したなら、無理にでも同行しそうだがなぁ。
「流石に疑いが過ぎるか?」
自虐気味に呟く。今まで誰かを疑う、なんてことしなかったものだから深読みになっている。
「うーん」
「さっきからどうしたんですか、漆葉さん」
腕組みして見た目だけ悩んでいると、白神が寄ってきた。
「サナはそのまま一緒でも良かったんじゃないかなーと」
「だ、ダメですよ! 負傷している上もしものことがあったらハルトさんが悲しみます! それに──」
「それに?」
「サナさんは、大切な友達で仲間ですから!」
その友達を疑っているとは言うまい。
「健気だねぇ」
「というより、何で漆葉さんはサナさんやハルトさんは下の名前で呼ぶのに私は苗字なんですか?」
「こんな時に何言ってんだ。単純にあいつらは来栖で呼ぶと紛らわしいだろ。お前は白神でいいんだよ」
「むぅ……全然信頼されてる感じがしないです」
兜で表情は汲み取れないが、おそらくムスッとしているのだろうか。知らないとはいえ、真の黒蜥蜴である俺を容赦なくぶった斬る存在を信頼などできようか、いやできない。
「アホらし。ちゃんと頼りにしてるから安心しろ、土地神様」
兜を小突いて適当に流す。
偽物退治が終われば本格的に刀を奪わなければならない。結果として、こいつを裏切ることになる。人間の小娘一人の心情なんてほんっとうにどうでも良いが、何か胸につっかえている。
「先急ぐぞ、ハルトを見つけなきゃな」
「は、はい!」
小休止を終え、再び森の奥へ進む。日は完全に暮れ、街の喧騒や光も届かなくなるほど翠山の奥へ入っている。しかし山奥へ進むにつれて、胸に引っかかったものがより気になる。
「結構来るとこまで来たような気がするんだけどな。支部長、ハルトはどの辺にいるんですか?」
『それがおかしいの。反応している地点はあなた達の今いる場所とほぼ同じよ』
そもそも翠山という漠然とした指定が曖昧だった。山頂か、とりあえず行き止まりまでなのか。GPSの反応がここで途切れてるということは……
「土地神様! ハルトさんの通信機が落ちていました!」
職員の一人が白神に見せる。見るも無残に壊れてはいるが、GPSの機能は生きていたようだ。
「どうするんだ? 妖魔の言う通りに従ってこのまま山登るか?」
手がかりがなくなった以上、あとは妖魔の言葉をどう解釈するかによってどこを目指すか変わる。その間にもハルトの命は一刻の猶予を争う。暗闇の中、鬱蒼とした森が職員の不安を駆り立てる。ただのざわめきに慄く。
『とち、がみさま! ………きこえ』
サナから通信が入る。他には連続した銃声。
「サナさん! どうしたんですか、よく聞こえません!」
「ヤツが! 妖魔が出て────きゃぁっ────」
短い通信だったが、状況が悪い方向へ転がっていることは理解できた。
「う……うぅ……」
不意に道の先、暗闇から小さなうめき声と共に足音が迫る。後ろの職員達は銃器を構え、白神が剣を構えた。臨戦態勢の人間たちはさておき、俺はライトで前方を照らした。
「う、漆葉!」
目的のハルトだった。顔や体からは血が滲み左足を引きずっていた。




