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星屑の記憶  作者: 橘晴紀
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危なくなったら、とにかく逃げろ!

 森の中にある中世ヨーロッパの古城を思わせる建物。映画で見たのか、それとも幼い頃おとぎ話の絵本で見たのか。まさか、ほんの数時間でヨーロッパに来られるはずはない。しかも、学校を出て車にしか乗っていないのだから。警備員がいるゲートを通ってから、山道を昇り、城の正面に車が停まった。

 控えていたドアマンが後部座席の扉を開ける。ここはどこかのホテルなのか。どうして、こんなところに連れてこられたのか。しかも、ひとりで・・・。

 ここに来る途中も車の中で随分考えたが、どうも分からない。ハンドルを握る運転手に聞いても、知らないとしか答えず同乗者はいない。

 数時間前、愛莉は理事長から今朝の騒動の事で協力してほしいと言われ車に乗った。なぜ自分なのかと尋ねたが、理事長はある人から依頼され詳しいことは知らないという。ただひとつ、愛莉が柴田元教授の孫なのでそれが理由だという。愛莉は思った。

 これは間違いなく、今朝の騒動はもとより、祖父から託された謎に関係があると。そして、祖父が手紙に書き、先日省吾が言っていた< 変なヤツ> が絡んでいることは間違いない。不安はあるがこれは避けては通れない。愛莉は心の中で省吾の言葉を思い出していた。

「危なくなったら、とにかく逃げろ」しかし、この城から果たしてそんな事が出来るのか。

 悩んでも仕方がない。とにかく、心の準備だけはしておこうと思った。愛莉は広い応接間で待たされていた。 しばらくして男が入ってきた。

「お待たせして申し訳ありません。まもなく主が参りますので、いましばらくお待ちください」

 そう言って男は紅茶を注いだ。

「ここはどこですか?」

「はい。こちらは志賀実篤様の屋敷でございます」

 その後、男は簡単に志賀について説明した。それを聞いて愛莉は不思議に思った。日本を代表する会社の会長がなぜ、今朝の騒動と関係があるのか。てっきり、国の施設などに連れていかれるのかと思ったからだ。

 まもなく、志賀実篤が現れた。年は取っているが、いかにも高そうなスーツを着こなして、オーラを放っている。

「北山愛莉くんだね?」

 その言葉は短いが明瞭かつ威厳ある口調で愛莉は思わず背筋が伸びた。こちらも反射的にかしこまって返事をせざるを得ない。

「すまなかったね。若い娘さんにこんな思いをさせて、外川くんに粗相はなかったかね。なにしろ君は大事なゲストでこれからビジネスの話をするのだからね」

 名前を忘れていたが学園理事長のことを言っているのだと理解した。

「はい。お話はすぐに終わりましたから」

「しかし君は気丈な娘さんだね。さすがに柴田の孫だ」

「えっ!祖父をご存じなのですか?」

 驚いて愛莉が聞くと、志賀の後ろにずっと控えている男が出発を告げている。志賀は愛莉に手のひらを見せ待たす仕草をして、後ろの男に耳打ちして退席させた。

 志賀は対面のイスに腰掛けて言った。

「失礼した。彼は外川くんの長男で私の秘書をしてもらっているのだが、まだまだ勉強不足で困るのだよ。君はゲストだと言っているのに気がきかない。だから、その父親の君への態度が心配になってね。そうそう、柴田の話だったね」

 志賀は話始めた。彼と愛莉の祖父柴田権三は大学時代の友人で、よく将来を語り合った仲だったという。物理を専攻していた祖父とロケット工学を専攻していた志賀は、ともに宇宙を学ぶ者同士友情を深めたという。

 祖父はそのまま大学で研究を続け、教授にまでなった。一方、志賀はロケット分野で会社を起こし世界的企業へと発展させたという。

「愛莉くん。柴田との昔話は尽きないが、ご覧の通り時間があまりない。本題に入らせてもらうよ。君はどこまで柴田から聞いているのだね?彼が亡くなって五年になるから、まだ小学生ぐらいだったのかな?」

 愛莉はこの時点で身の危険は感じていなかったが、ここから先はどうなるかわからない。しかし、かつて祖父の親友で今は世界的企業の会長である男が自分のような小娘に危害を加えるのか。愛莉は考えた。

 その返答しだいでこの紳士的老人が鬼にも仏にもなると。その愛莉の心を見透かすかの如く志賀は言った。

「愛莉くん。君は私が思っている以上に賢明な娘だね。知らなくて黙っているのじゃなくて、私にどこまで話そうかを考えているのだね。心配しなくてもいい。私はただ君を親友の孫娘として見ているだけだよ」

 それを聞いて愛莉は肩の力が抜けた。幸い志賀の時間が限られていることを理由に掻い摘んで話することにした。

「大筋はそんなところだ。ヒントをやろう。うお座は君の言う通り時代のこと。あとは自分たちで調べたまえ。まだまだ辿り着くには時間がかかるな。そうそう、棚機神社で思い出した。宮司の四宮、彼も仲が良くてな、三人でいつも謎解きをしていた。アイツは昨晩、亡くなったよ」

「えっ、宮司さんが?」

 愛莉は驚いた。まさかここでその訃報を聞かされるとは夢にも思わなかった。

「あと数時間生きておれば、謎解きのひとつが証明されたのを確認できたものを・・・非常に残念だ」

 つい先日、元気そうだった宮司の死は愛莉にとってかなりショックであった。祖父亡き後、久しぶりに祖父の匂いを感じ、短い間だったが色々教えてもらった。

 そんな宮司の死をこの状況で知らされるのはとてもツライ。

「ところで愛莉くん、柴田から何か数字のようなものを聞いてないかね?」

 愛莉はドキっとした。おそらく志賀が知りたいのは金庫を開けた時に入れた四つの数字であろう。だが、あの数字は金庫が開いてそれで終わりのはず。それ以上、何か意味があるのか。祖父が決して口外してはいけないと言っていたのはこういう時のことか。

 あの数字に何が隠されているのか。おそらく志賀は金庫の存在を知らない。知っていれば、開けた者を知るだろうから、必ずその存在を明かしたうえで聞き出すだろう。

「何も聞いていないです」

 愛莉はそう答えたが志賀の顔が一瞬、変わったのを見逃さなかった。この男には嘘が通用しないのか。それとも自分がバレバレの態度をしているのか。

 少し沈黙が続いた。

「時間がきたようだ。悪いが愛莉くん、次の場所に移動してもらわなければならない」

「えっ、まだ帰れないのですか?」

「先ほども言ったが私は君の話を聞きたかっただけで、これからがビジネスの話だ。私は今からパリに出発するからここまでだ」

「わたしはどこへ行くのですか?」

「車であるところへ行ってもらう。そこに担当者がいるから、そこの者が説明する。心配しなくていい。それが終われば、ちゃんと家まで送るように手筈は整えている」

 愛莉はこの時初めて知った。本当の身の危険はここからだと・・・。城を出ると正面玄関前に、来た時とは違う、車体の長いリムジンが停まっており、すかさずドアマンが扉を開け愛莉を車内へと誘う。

 少し先の広い場所にヘリポートがあり、待っていたヘリコプターに志賀が乗り込み、轟音と共に飛び去っていった。リムジンの中は自分の部屋と同じぐらいの長さがあり、テレビや棚の中にお酒、本が置かれシンクまで付いており、本当に部屋のようで何泊かできるほどである。静かにリムジンは発車し、ハンドルを握っているのは先ほど紅茶を入れていた男である。

 もの静かな面持ちで、この屋敷で会った内、一番優しそうな男である。

「北山様、お疲れ様でした。一時間ほどで目的地に到着いたしますので、ごゆっくりくつろいで下さい」

「あの~どこへ向かっているのですか?」

 愛莉はダメもとで男に聞いた。

「申し訳ございません。お答えしかねます。北山様、喉がお渇きになられましたら、備え付けの冷蔵庫にお飲み物がございますので、どうぞ、ご遠慮なくお飲みください」

 やはりダメであった。見た目の優しさとこれは別なようである。愛莉は朝から何も口にしていない。もちろん、こんな状況でお腹が空くわけはない。しかし、喉はカラカラだ。冷蔵庫を開けると、ジュース、ビール、ワインなどが入っている。

 愛莉は思った。できれば、こんな状況でなく、家族や友達とワイワイ言いながら、このような車で冷えた飲み物を飲みたい。そう思うと涙がこぼれてきた。

 今頃みんなはどうしているだろう。きっと心配しているだろう。ケータイはカバンの中にあって電源も切って

あり、なにより学校に置いてある。かと言って、行き先も秘密な車の中での連絡手段はない。早く用が終わって帰ればいい。そんなふうに愛莉は思ったが、もし戻れなかったら、万が一危険な事が起きたら・・・やはり省吾の言う通りに逃げなければならない。

 でも、もしそれも叶わなかったら・・・より死という文字が近づいてくる。そう考えると愛莉は急に恐ろしくなり、震えが止まらない。ようやく山道が終わり、リムジンがゲートを通過しようと速度が落ちた。

 ふと横を見ると、受付の前で男が警備員と話している。角度が変わり一瞬だけ男の顔が見えた。

「あっ・・・」

 愛莉は思わず声が出て、慌てて備え付けのコップを落として誤魔化した。運転手は気がついていないようだ。 受付にいたのは教師の志賀であった。間違いなく志賀は自分を探しにきてくれた。少しホッとしたが、いまリムジンが横を通り過ぎて、そこに自分が乗っているのをわかっているだろうか。

 何とか伝えたいがどうしたらいいか。ドアウインドのスイッチを押しても、もちろん動かない。もうゲートも見えない所までリムジンは進んでいる。

 こんなに近くにいるのに、もどかしさだけが残り、喉が渇いた。冷蔵庫を開け、ペットボトルのミネラルウォーターのフタを開け、ゴクゴクと飲み干した。

 愛莉は一番後ろの座席に移動して、流れていく道路を眺めていた。それは電車の最後尾に乗って流れていくレールを見るのと同じである。前を向いている時より、景色が消えていくのが早く感じる。

 そう、小さい頃によく祖父に連れて行ってもらった天体観測。遠くに行く時は電車の最後尾に乗って、よく流れる景色を見ていた。祖父からよく、お前は変わった子だと言われた。皆は電車の先頭に乗りたがるが、愛莉はいつも最後尾に乗っていた。

「だって~、前だったら踏切閉まっていて、みんな通れないけど、後ろだったら、みんな通れるもん。それに前に乗ったら、みんな前を向いているけど、後ろは車掌さんがこっち向いているもん!」

「そうかぁ!アイちゃんは優しい子なんだな。おじいちゃんは優しいアイちゃんが大好きだよ」

「アイちゃんもおじいちゃん大好き!」

 夢を見ているのか。先ほど志賀に祖父の話を聞いて、また懐かしさがこみあげてきた。

「おじいちゃん、おじいちゃん!」

 祖父が段々遠くに行く。愛莉から離れていく。小さく、小さくなって、そして消えた。

「おはようございます。北山様」

 目の前には運転手の男がいる。どうやら眠ってしまったようだ。でも、何かおかしい。身動きが取れない。

 愛莉は下を向くと、やっと状況が把握できた。手は後ろ手に、右足はイスの右脚に左足は左脚にそれぞれ縛られている。

「どういうことですか?あなたが?」

 愛莉は動揺して荒い口調で言い放つと、男は変わらず優しい口調で答えた。

「はい。北山様がおとなしくしていらっしゃるならば、これ以上手荒なマネはいたしません」

 先ほど現れた祖父は自分が記憶を戻したのではなく、たんに寝てしまって夢を見ていたのだ。そう言えば、急に眠たくなったのを思い出した。そうだ、水だ。 

 あの中に薬が入っていたのだ。新しいペットボトルだったので疑いもせず飲んだ。

「わたしが水を飲まなかったら、どうするつもりだったのですか?」

「お気づきになられましたか?。その時は他の方法で・・・」

 物腰とは逆に冷徹なセリフで、愛莉は他の方法に興味はあったが、想像すると恐ろしくなり、水を飲んでよかったとさえ思った。

「あなたが担当者なのですか?」

 愛莉は自分の置かれている状況も忘れて、次々に男を質問攻めにする。

「いえ、私は証人です。事の一部始終を主にお伝えするのが仕事です。少しお待ちを」

 そう言って男は冷たい部屋から出て行った。愛莉はこの時思った。人は見かけに騙されてはいけない。

 それが一番恐ろしいことだと。とりあえず愛莉は周りを見渡した。縛られているとはいえ、一応目と口は自由だ。冷たいその部屋は生活感が全く感じられず、普段は使われていない所だろうとすぐわかる。薄暗くてよく見えないが、天井はパイプがむき出しのまま、壁もコンクリートの打ちっぱなし、住居ではないようだ。

 窓もないから地下かもしれない。愛莉が座らされているイスは部屋のほぼ中央にあり、壁際に机がひとつ、その上にノートパソコンが置いているだけである。鍵を開ける音がして、重そうな鉄の扉が開いた。先ほどの運転手ではない。男が壁のスイッチを押すと電気が付いた。

「あっ、あなた東都大学の・・・」

「久しぶりだね。北山さん」

 東都大学で向井と交代で祖父の助手を務めた桑野弘二である。愛莉の家にも来た男だ。今度こそはと思い愛莉は聞いた。

「担当者って、あなたですか?」

「担当者?あ~、志賀会長がそうおっしゃったのかな?まぁ、そんなところかな?」

「北山さん、君みたいなカワイイ女子高生と話したいことは山ほどあるのだけど、少し我慢するよ。なにぶん時間がないのでね」

 意味ありげな不気味な笑みを浮かべ桑野は言った。

 前に会った時はこのような気持ち悪い男であったのか。愛莉は思い出すのも嫌になるほど、目の前の男が自分の知っている桑野ではないと感じた。

「ここはどこですか?」

「あ~、ゴメンね。愛莉ちゃん、今は言えないんだ。まぁ君の協力次第だけどね」

 愛莉の気持ち悪さは倍増した。呼び方が下の名前に変わった。しかも、ちゃん付けに。おもむろに桑野はパソコンの前に行き、電源を入れた。静かな室内に起動する音が自分の行く末をカウントしているような気がして、これは何とかして逃げなければならないと思った。

 いま目の前にいるのは桑野だけだ。運転手はどこに行ったのか。部屋を見渡すと天井に監視カメラらしきものがある。あの男は別部屋でモニターしているのか。

「よし、これでいい。愛莉ちゃん、もちろん今朝の騒動は知っているよね?」

 桑野はそう言いながら、パソコンの乗った机を愛莉に見えるように移動した。そして、話を続けた。

 今朝、テレビで報道されたのはほんの一部で肝心なところは伏せられていた。しかも愛莉が予想した通り、世界中に情報を求めるためにリスクがあるのをわかりつつ、公開したという。 

 世界中の政府機関と科学者には電波が送られてきた正確な場所などが伝えられていて、一般人にはただ、電波が送られてきたらしいとしか伝えられていない。つまり、完全に情報はコントロールされており、裏を返せばそれほどの衝撃的内容を秘めているかもしれないという。では、なぜ桑野がそれを知っていて、高校生の愛莉に話すのか。愛莉はいまひとつ要領が掴めない。

「愛莉ちゃんもおじいさんが科学者だったから分かるよね?これを見て僕たちがどれほど興奮したかを・・・」

 桑野はその時を再び思い出したのか、テンションが上がって持っていたペンを落とした。桑野は話を続けた。二日前、ヘルクレス座の球状星団M13方向から電波が送られてきたという。地球の自転の関係で最初に発見したのはオーストラリアのチームだった。

 初めは誤作動か勘違いかと思っていたらしいが、検証の結果どうやら間違いなくM13方向からの電波であった。初めての地球外からの交信でメンバーは極度の興奮状態に陥り、そこはお祭り騒ぎになったという。

 のちほどそれを聞いた世界中の科学者たちは、皆その

気持ちがよくわかった。早速、解読に掛ったが肝心なところは何かのファイルに圧縮されてあり、まずそれから融かさなければならなかった。

 さらにそれにはパスワードが掛ってあり、それは三桁の数字が四組の仕掛けになっていたという。手作業でその数字を当てはめても、その組み合わせは膨大な数になるので、暗号解読ソフトをセットアップした。

 すると突然、モニター画面がフリーズし、次の瞬間パソコンがクラッシュして、それきり二度と動かなくなった。そこでウイルスが混入したと判断し、世界中に注意を促した。それから、そのウイルスを駆除するために世界中のコンピューター関係の者が投入され、

果てはハッカーまで駆り出される始末だった。

 一方で各国の軍や情報部も事に当たっていて、その都度コンピューターが潰されては堪らないということで、違う方法を試みたらしい。これは人類が初めて地球外生命体から攻撃をされたと、軍関係者は色めき立ち戦闘態

勢に入る国も出たほどであったという。

 最終的にこれは未知のウイルスなどではなく、ワンタイム方式の暗号だと結論づけられた。

 それは文字通り、一回だけのチャンスで解かなければならなく、違っていたらそこで終わりという方式で、それを作った者か、もしくは知っている者だけしか解けないという古典的な手法である。しかし、そこは遠い彼方から送られて来ただけあって、違った場合にクラッシュさせるというやり方は、軍がいうようにある意味攻撃かもしれないという者もいた。 

 もちろん、もとのソースは電波なので世界のあらゆる所で誰でも拾えるが、ひとたびその中のファイルを開けるとなると、そういうわけにはいかず、勇気がある者か、かなり裕福な者しか挑戦しないだろうと皆は言ったらしい。話し終わると桑野はニタっと笑い言った。

「これで何故、愛莉ちゃんがここにいるかわかったよね?」

 愛莉も桑野が話している途中でそれに気づいた。そして何度も、まさか祖父の残したあの呪文のような数字が関係しているのか、考えた。確かめる方法はひとつしかない。この数字を知らない人はそれこそ、挑戦できる人が一人一回ずつしてもほとんど当たらない確率だが、もし愛莉の知っている数字ならば、二分の一の確率だ。

 愛莉がするか、しないか。ただそれだけだ。目の前にはその数字を入力する画面が映し出され、横で桑野がニタニタしている。愛莉は考えた。もし、数字を入れてパソコンに何らかの動きが出たとしても、そのあと自分が解放される保証はどこにもない。

 それどころか桑野はもっと卑劣な行動に出るかもしれない。逆にもし間違えていたらパソコンはクラッシュして、桑野は諦めて自分を解放するか。それも考えられない。愛莉にしてみれば、数字が自分の身を守る唯一の方法だ。

「トイレに行きたいのですけど・・・」

 まずはこの作戦から始めた。

「いいねぇ、愛莉ちゃん。答えはふたつ。数字を言って、この部屋を出る。それとも、そこでしちゃう?」

「サイテ~!変態!」

 愛莉は目一杯、桑野を睨んだ。

「怒った顔もカワイイね。こんな事だったらビデオカメラを持ってくるんだった」

 愛莉はこの変態男ひとりだったら、何とか逃げられるかと思い、後ろ手に縛られているロープを動かしたが緩むどころか逆に締まっていくようだ。足元はもっと無理だろう。

「どう?愛莉ちゃん、数字思いだした?頼むよ!ここで君が教えてくれて僕が発表する。そうすれば僕は一夜にして有名人だ。世界中の大学がオファーに来る。忙しくなるぞ!そしたら君は僕のフィアンセにしてあげる。一生贅沢な暮しができるよ」

 バカなヤツの相手をいつまでもしていられない。

 愛莉は首を横に何度も振った。

「超急いでいるけど、愛莉ちゃんのその姿もまだ見ていたいしなぁ!少し時間をあげるよ。その間に思いだして!」

 そう言うと桑野は部屋を出て行った。

 もちろん鍵を掛けて。

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