菜穂子の推理
日曜日、愛莉は菜穂子の住む街とちょうど中間にある、棚機神社最寄りの駅で待ち合わ
せをしていた。菜穂子にモニュメントを見てもらいたかったのと、先日宮司から見せたいものがあると連絡があったからだ。神社に到着すると、早速丘へ登り菜穂子に目の前の大パノラマを見てもらった。
「すごい!想像したより、しっかりつくられているわね。まさしく夏の大三角よ」
天文学者の菜穂子が感心するほど、そのモニュメントは精巧につくられていた。
「菜穂子さん、どう?他に何か気になったとこない?」
デジカメで撮りながら菜穂子は周りを見渡し、コンパスを手に方角を定めている。
「思った通りだわ」
菜穂子の言葉に愛莉はワクワクしている。
「なになに?教えて!」
「愛莉ちゃん見て。このモニュメントからちょうど真東に恵夢山があるの。あれはWの形通りにカシオペヤ。それから西に行くと、夏の大三角。夜空と同じ配置ね」
「ほんとだ。すごい!」
大興奮の愛莉は目がキラキラしている。
菜穂子は話を続けた。恵夢山から西に行くと棚機神社のモニュメント。さらにここから西に行けば愛莉たちの街がある。菜穂子は恵夢山から続く、太陽の通り道に石のモニュメントがあり、星空にそれらを当てそれが何らかの意味を成していると考えた。
恵夢山と槍ヶ岩、棚機神社と夏の大三角。この先にも、何かのモニュメントがあるはずだと、いまの菜穂子は科学者を忘れて、愛莉と紀子のように探偵女子になっていた。
「ねぇ、愛莉ちゃんの街とか、近くで石のモニュメントみたいなもの見たり、聞いたりしたことない?」
「聞いたことないなぁ!私が知らないだけで、あるかも知れない。探してみる。どうして私たちの街なの?」
「そうねぇ。恵夢山からここまでの距離と愛莉ちゃんの街がちょうど同じくらいだから、きっと何かあるはず」
「そうかぁ!この間、紀子たちと来た時は曇っていて恵夢山の方は見えなかった。晴れていても私には解らなかったと思う。やっぱり、菜穂子さんに来てもらってよかった」
またひとつ進展があって、大喜びの愛莉であった。
それからふたりで宮司のいる社務所に向かった。宮司は所用があるので少し待つことになり、神社を探索することにした。愛莉は金庫を持ち出した人物に会ったことや、駆のことなどを菜穂子に話し、少しでも気を紛らわせたかった。
「菜穂子さん、彼氏は?」
「ご覧の通り、こんな星オタクを相手にする男はそういないわ」
「ウソ~!菜穂子さん、そんなに美人なのに、モテモテでしょう?」
「もう何年になるかな?恋人いない歴。前に付き合っていた人が、変わった人だったから。愛莉ちゃんは?」
「え~!わたし?今はそれどころじゃないよ。菜穂子さんと同じで星オタクだから」
そう言って、笑うふたりであった。木陰のベンチに座っていると、宮司がやってきた。ふたりとも立って挨拶をし、愛莉が菜穂子を紹介しようとすると、宮司は菜穂子を見つめ固まっている。愛莉はいくら菜穂子が美人だとはいえ、そこまで露骨な態度をしなくてもいいと思った。だが、宮司の次の言葉でそれは誤解だとわかった。
「まさか、あんたはあの時の方では・・・。いや!そんなはずはない。二十年以上前のことだからのぉ」
菜穂子はポカ~ンとしている。宮司によると、愛莉たちが以前聞いた、二十数年前に棚機神社のモニュメントを見に来た、男女の内の女性と菜穂子がよく似ていたので、驚いたということであった。
「失礼じゃが、親御さんは?」
宮司は聞きながら、まだ首を傾げている。
「両親とも亡くなっています」
「そうかぁ。それはすまぬことを聞いた」
それほど、菜穂子がその女性に似ているということだろうか。二十年以上も前の事をそこまで憶えているほど、インパクトがあったのか。愛莉は不思議に思い宮司に聞くと、神職として充実した日々を過ごす中、頂点を極めたと錯覚した時に出会った若い男女。
そのふたりに自ら働く、この場所に自分の知らない世界があって、それを教えてもらい、その面白さに傾倒し、今でも続けている。年下ではあるが、そのふたりは言わば恩人のような人なので、その出来事は昨日のことのように鮮明に憶えている。
だから、目の前に現れた女性がその時の人にソックリなので、ビックリしたと同時に時間の感覚が狂ってしまうほど驚き、それほど似ているという。
宮司の話を聞いて愛莉と菜穂子が、何だか自分たちも疑似体験をしているような錯覚に陥った。それは神聖なこの領域特有の現象なのか。ここでは、時がいたずらをするようだ。
「お嬢ちゃん、見せたいものとはこれのことなんじゃが・・・」
宮司はそう言うと、愛莉に古めかしい古文書と一緒にメモ用紙を見せた。古文書にある文を解り易く書き直したものがメモに書いてあった。メモを書いたのは祖父権三で、生前よくふたりで解読しようとしたが、その前に権三が亡くなって、そのままにしてあるとい
う。そのメモにはこう書いてあった。
< かつて冷たいダイヤの中にベテルギウスがいた>
「何これ?全然わかんない!宮司さん、祖父はどこまでこれを解いていましたか?」
「そういや何か言うとったのぉ!なんせ、難しいのはいつも権三に任せとったから」
宮司の言葉に愛莉は少し笑った。愛莉が菜穂子を見ると、腕組みをして何かを考えている。
「菜穂子さん。どう?」
「う~ん。この名前どこかで聞いたことあるような・・・」
宮司はもう自分には必要ないからと、そのメモを愛莉に渡し、謎解きも一緒に託した。
愛莉と菜穂子は新たな謎を抱えて、お互い頑張ろうと励まし合い、神社をあとにした。




