喫茶店
日曜日の午後、愛莉、紀子、咲の三人は久しぶりにショッピングに出かけていた。洋服や雑貨などを買い、疲れたのでお茶でも飲もうと喫茶店に入った。
そこは落ち着いた雰囲気の店で、愛莉たちは滅多にこういった感じの店には縁がなく、値もそれなりに高いがたまには社会勉強にと席に着いた。
四人がけの席に紀子と咲が隣同士に座り、愛莉の横には三人の荷物を置いた。しばらく店の雰囲気を味わっていると、愛莉が何度か目を凝らして店内奥を見ている。
「愛莉。どうかしたの?」
「うん。俯いているから、よく分からないけど、たぶん川上先生だと思う」
紀子と咲が振り返った。愛莉たちが座る窓際の席から離れた一番奥の席に、美術教師の川上マリが男性と向かい合わせで座っていた。
「そうだよ。川上先生だよ!泣いてるよ、先生。別れ話かな?カッコイイね。彼氏」
「またぁ!咲はああいったワイルドな人、好みだもんね」
紀子がそう言うと、愛莉も頷いている。横顔だが確かに川上である。三人は自分たちの話そっちのけで奥の席に集中した。咲は開いていた愛莉の横に移動して、振り返らないと見えない紀子に実況しながら楽しんだ。
「ねぇねぇ。この後どうなるのかな?まさか川上先生、水とか掛けないよね?彼氏に」
「ドラマの見過ぎ!」
咲の妄想に、愛莉と紀子がすかさず突っ込んだ。
だが、愛莉は何か違和感を持っていた。川上がどう見ても別れ話で泣いているように見えないからだ。
それから、店内で一番離れたところに位置する、愛莉たちの席と川上の席ではもちろん会話など聞こえるはずもないのに、時折川上と同席の男性がこちらの方を、まるで確認するかのように見ている。
愛莉は何か引っかかっていた。
「出るみたいだよ。どうする?」
咲が言うと、愛莉と紀子は共に頷いて自分たちも出る用意をした。やがて川上たちが外に出て、ちょうど愛莉たちの席の前あたりで立ち止まったので、注意しながら席を立った。三人が外に出た時、立ち話が終わったようで男性は愛莉たちの反対側に歩いて行った。
ハンカチを握りしめた川上が見送っている。三人がホッとしたのも束の間、男性がクルっと振り返りまた川上のもとに引き返してきた。静かに三人が見ていると、男性が川上に何か言って、こちらを指差した。
川上が振り返ってしばらく目を凝らしたあと三人に手を振り、手招きをした。三人は驚いてお互い顔を見合わせ、愛莉が川上の方へ歩き出したので紀子と咲も続いた。
「先生こんにちは!」
三人で同時に挨拶した。
「こんにちは。ヘンなとこ見られたね」
少し恥ずかしそうな川上。
「先生、彼氏ですか?紹介して下さい」
ズバリ咲が聞くと、愛莉と紀子は咲を嗜め、川上は笑いながら答えた。
「彼氏?そう見えたのかな?兄よ、兄」
「え~!お兄さんだったの?」
同時に声を上げる三人。
「だって、先生ずっと泣いていたじゃないですか?」
「えっ!見ていたの?お店で?」
驚く川上。咲をまた嗜める愛莉と紀子。
川上は亡くなった兄妹の母の事で話し合っていたという。長らく入院をしていて、先頃亡くなり、法要の帰りに喫茶店で話しているところを愛莉たちが見たということだ。そんなしめやかな中、三人が現れ和ませてくれたと、礼を言われ恐縮する愛莉たち。
「紹介するわね。兄の省吾です。見た通り愛想は悪いけど、すごく優しい兄なの」
妹に紹介された兄は背が高く細身で無精ヒゲにクシャクシャのタバコを吸っていて、黒いスーツに緩めたネクタイで軽く頭を下げた。
「こんにちは!」
黄色い声の女子高生たちに挨拶されて少し照れているようだ。
「あ~!そうそう、北山さん。兄は画商をしていて、この間絵の事で話した時、相談をしたっていうのは彼の事なの」
「それでかぁ。思い出した!お兄さん、その説はお世話になりました」
愛莉の言葉に紀子、咲、マリは驚いた。
「えっ、知っているの?兄のこと」
「いいえ。正確には知っているというより、一度お見かけした程度です」
愛莉の意味深な言葉に更なる驚きを隠せない女性陣三人であった。川上たちと別れて三人は歩き出した。
「ねぇ、愛莉教えてよ!先生のお兄さんとどこで会ったの?彼女とかいるのかな?」
「またぁ!咲は何言ってるの?紀子、体育館で川上先生と話した時のこと憶えてる?」
「うん。絵のことで先生に聞かれたよね。あの時やけに慌てていたよね。先生」
「そう。あの時、体育館の物陰で見かけたのがあの人。その後、家に帰ってそれから、出かけて戻ったら絵を入れた金庫がなくなっていたよね?」
少し考えて紀子は叫んだ。
「え~!まさか、あのお兄さんが犯人?」
「たぶん。画商って言ってたけど、本当は何者なのかな?あのお兄さん。興味あるな」
「え~!愛莉もお兄さん狙い?」
「咲と違います!わたしは!」
キッパリ否定する愛莉。一方、愛莉たちと別れた川上兄妹は三人を見送っていた。
「面白いな!あの娘。北山愛莉」
「えっ、お兄ちゃんどうして彼女の名前知っているの?」
「さっきお前が言ったじゃないか!」
マリは思った。あの時、名字しか言っていなかったのになぜ兄は下の名前を知っているのかと。




