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星屑の記憶  作者: 橘晴紀
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志賀財閥

 広大な森の中に中世ヨーロッパの城のような建物がそびえ立っている。そこの敷地は塀などで周りと区切っているのではなく、原生林が来るものを拒む。

 その城に辿り着くには遥か遠くの国道から巨大なアーケードをくぐり、その先の正門でチェックを受けてからでないと、一般人は通ることができない。

「会長。正門から連絡がありました。お嬢様ご家族がいま通過されたそうです」

「そうか。ご苦労」

 正門から建物まで車で約三分、その間には牧場や草原が広がり、眼下に東都が見渡せ、後方には遠く恵夢山も拝見できる。ここは日本を代表する志賀財閥の聖地である。主は志賀実篤、一代で世界数十カ国に拠点を持つ志賀グループを築きあげた。

「お父様、ご無沙汰しております」

「早苗。元気にしておったか?おう、くるみちゃんも来たか?大きくなったのぉ。こっちへおいで!ジイのそばに・・・」

 そう言うと実篤は、孫娘を膝の上に乗せ、くるみが持ってきたぬいぐるみを手にして、一緒に遊んだ。

「お義父さん、お久しぶりです」

「うむ。君も変わりないようだな。どれ、くるみちゃんはあっちでママと遊んでおいで。ジイとはあとでな!」

「はい。おじいちゃま」

「じゃあ、我々はこちらのほうへ」

 そう言うと実篤は、娘婿を長い廊下奥にあるコレクションルームと呼ばれる、世界中の高級な品が並べられている部屋へと案内した。そこは部屋というよりはホールに近い。外観は西洋中世の城に見えるが、中に入ると日本庭園があり、ヨーロッパの古城の中に日本の城郭があるという趣だ。

「正樹くん。今日来てもらったのは他でもない。これを見てくれないか?」

 実篤は壁に掛けられた絵を指した。

「小さいがよくできた作品だ」

 正樹はその絵をよく観察した。

「まさか、お義父さん、これは・・・」

 正樹は目を大きく見開いて驚いた。

 その様子を見て実篤はニヤっとした。

「そうだ。君の想像通り、これは消えたあの絵だ。だが君は本当にこの絵の行方を知らなかったようだな。君の身近にあったのにもかかわらず」

「えっ、どういうことですか?」

 実篤はブランデーを注ぎ、話を続けた。

「君は黒い金属製の金庫を見たことがあるかね?絵はその中に収められていたのだよ」

「はい。その金庫は重かったですが、教授とふたりで天井裏に上げました」

「しかし、中身を知らされていなかった」

「はい。見ようにもダイヤル式の鍵がかかってあったので、まさか、あの中に・・・」

 正樹は実篤に断ってタバコに火をつけた。 

 吸いながら何かを考えている。

「お義父さん、これをどこで?」

 実篤はインターホンで秘書を呼んだ。しばらくして、外川卓哉が現れた。桜貴学園の理事長、外川正則の長男である。

「金庫は正樹さんもご存じの通り東都大学の研究所にありまして、その後柴田元教授の身内の方が引き取られたとのことです」

 外川は淡々と業務的に答えた。

「金庫はこちらにあるのですか?それと、他の中身や鍵はどうやって開けたのですか?ナンバーを知っていたのですね?」

 正樹は出来る限りの疑問を外川経由で、義父である実篤にぶつけた。

「残念ながら正樹さん、その辺りのことは私どもではお答できません」

 冷たく用件だけを告げると外川は実篤に一礼して部屋を出て行った。その直後、正樹は眉をしかめ、実篤を見て問うた。

「お義父さん、ひとつ聞いてもよろしいですか?」

「ああ、構わんよ」

「あなたにとって、この絵の価値とはどれくらいのものなのですか?」

「ワッハッハッハッ!面白いことを言うんだな!正樹くん。君はこの絵がどういうものか知っているのかね?」

 そう問われて正樹は正直わからなかった。ただの金持ちというレベルを超えている義父が、いまさら絵の値段や投機のために所有しているとは思えない。

 ミイラ取りがミイラになった瞬間であった。

 まさに返り討ち。

「優秀な物理学者の君が高校教師に転向したからには何か訳があるのだろう。私は早苗の父として君の考えを尊重する」

 正樹は完全に打ちのめされた。

 さらに実篤は追い打ちをかけた。

「君の質問に答えよう。この絵のタイトルは<ユダヤ> という。ここには過去、現在、未来が描かれている。これとタイトルの意味が解った時、初めて君もこの絵の価値が解るだろう」

 正樹は妻の父という間柄を外しても、この義父がなぜ一代でここまで富を増やせたか、ひとりの男としてのスケールの大きさをまざまざと見せつけられた。

「最後にひとつ君にプレゼントだ」

 そう言うと実篤は、壁に掛けてあった絵を外し、正樹に手渡した。

「お義父さん。どうしてですか?」

「いま説明した通り私にはもうこの絵は必要ない。君が持っていなさい。それにこれはもちろん本物だが縮小版で、拡大した展示用の大作があって、いま探させている」

「そうですか。それではお言葉に甘えさせていただきます。ありがとうございます」

 正樹は不敵な笑みを浮かべる実篤を背に、部屋をあとにした。

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