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星屑の記憶  作者: 橘晴紀
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棚機神社

 夏休みも終盤を迎え、ここ数日愛莉も紀子も受験勉強に精を出していた。受験生にとって最大の山場である夏休みを一日も無駄にはできない。だが、たまには息抜きも必要である。そんな受験勉強休日を使って、謎解きに勤しみ、短い夏を満喫している。

 そして、愛莉は久しぶりに紀子と会うことになった。今回は愛莉が野上の家で見た本に書かれていた棚機神社の探索に向かうことになった。

 父の休みに合わせて車を出してもらうことにした。東都大学に三人で行って以来であるが、今回はもうひとり増えて四人でドライブを兼ねて出発することになった。父龍一は家の前でスタンバイして待っていて、愛莉が車に乗り込みイライラしている。

「もう、だからイヤなのよ!お姉ちゃん。誘ってもないし、神社に興味もないのに出しゃばって・・・その上、遅刻」

 ふたりは用意も済んであとは出発するだけであったが、出しなに望が髪にカールをかけるといって、ドライヤーと格闘していた。

「ゴメン!お待たせ。新しいドライヤーが必要ね。これは時間がかかるわ」

「何言ってるのよ!ドライヤーのせいにして、お姉ちゃんがわがままなだけよ」

 朝から姉妹ゲンカが勃発しそうになったので龍一は慌てて車を出した。今日龍一にとってはパラダイスかもしれない。娘二人にその友達、女性三人に囲まれてのドライブ。しかも、親バカというのか、自慢の美人姉妹と言う龍一。大学で教鞭を執って、いつも若い女性に接する機会が多いにもかかわらず、それとは違うようである。

 実は龍一には密かに楽しみにしていることがあった。それは紀子のファッションスタイル。東都大学に行った時は娘愛莉に注意され、この間家で鍋をした時は妻里美に怒られ、それを引いても割に合うと自分では思っているようで、顔の筋肉が緩んでいる。

 そして、紀子との待ち合わせ場所に近づくと心なしかウキウキしているようにも見える。

 龍一は車を停めたがまだ、紀子の姿はない。

「まだなのかな?紀子」

 愛莉がそう言って、車を降りた。

「おはよう!」

 目の前にいたのが紀子だった。

「えっ、紀子ずっと、ここにいたの?」

 愛莉はそう言って麦わら帽子を取った紀子を見て驚いた。ロングヘアーの紀子が短く髪を切っていたからだ。それよりも、今日の紀子は服装が地味で肌の露出が極めて少ない。そんな紀子が車に乗り込んで、龍一と望に挨拶をした。気のせいか、龍一の顔があまり冴えないように見える。

「どうしたの?ノリちゃん、イメチェンしたの?いつもの格好とまるで違うね?」

 望がそう言うと、龍一も頷いた。

「そうなんです。今日は神社に行くから、なるべく肌は出さないでおこうと思ったので、こういう服装になりました」

「やっぱり神社ではあまり肌を出してはいけないのかな?神聖な処だからね」

 ヘンな質問をする龍一。

「まぁ、それもありますけど、神社って木や森が多くて蚊や虫がたくさんいるから」

 紀子の答えにもっともだと愛莉、望は頷き、龍一は少し恥ずかしそうにしていた。

「お父さん、残念ね」

意味ありげな愛莉の言葉に龍一の羞恥は、倍々に増した。そんな龍一だが、満更でもなく若い娘三人と同様、楽しんでいるようだ。

「ところで今日はどこに行くの?」

 ただついてきただけの望が聞いた。

「棚機神社」

「そこに何かあるの?」

「まだわからないけど、きっとたぶん。でもお姉ちゃんにはわからないと思う」

 ふくれる望だが勝手についてきたから仕方がないと自分で言って自分で笑っている。夏休みで道も少し混んでいたが、ようやく目的地に着き、車を降りて参道を歩いた。境内へと延びる参道は舗装されておらず、道の両側に高い樹が、奥に見える鳥居までずっしり植えられて、樹のプロムナードが参拝客を誘う。

 信心深くないものも、その空気と言い知れぬ雰囲気に思わず背筋が伸びる。

「涼しいね。蝉もよく鳴いているけど、あまり気にならない。ねっ、パパ」

「そうだな。一句捻れそうな場所だね」

「おじさん俳句するんですか?」

「昔ね。業務上、いろいろとしないといけないから・・・紀子ちゃんは俳句するの?」

「自分で詠むほどではないですけど、古典が好きなので少しかじっています」

 そう言っている間に手水舎に着き、手を清め、口を濯いで境内へと向かった。境内に入ると正面に朱色の本殿がそびえ立ち、見る者を圧倒する。皆で賽銭を投げ、手を合わせる。愛莉は合格祈願とみんなの健康、そして祖父から受け取った謎の解明への道標を祈った。

「ねぇねぇ。こっち、こっち」

 早々に祈願を終えていた望が、おみくじ売場から皆を呼び、早速くじを引いている。

 愛莉はくじに興味はなく、何かを探しているようだ。

「あった、あった。紀子、これ見て」

 愛莉は由緒書の立て札の前に立っていた。そこには棚機神社の歴史が書かれてあり、創建はかなり古く、はっきりとした年代はわからないと書いてある。

「ここ見て紀子。∧ タナキ∨ 神社だと思ってたけど、∧ タナバタ∨ だって!< 機> って書

いて< バタ> と読むんだぁ?」

「へぇ。七夕と同じ意味かな?」

「そうだよ!」

 後ろから龍一が言った。

「でもお父さん、私が話をした時にタナキって言っても何も言わなかったじゃない」

「ここに着て思い出した」

「え~、ホントかなぁ?」

 愛莉の疑いの目は紀子の苦笑を誘い、龍一は分が悪そうに口笛を吹いて誤魔化した。

「パパ~。ねぇ、こっちに来て~」

 望の助け船に素早く乗船した龍一は、軽やかに走り去った。父と姉が離れたおかげで、かえって動きやすくなった愛莉と紀子は、詳しい話を聞くため社務所を訪ねた。ちょうど宮司がいて話を聞かせてくれることになった。まず愛莉は恵夢山から見えていた巨石群がこの辺りなのか聞き、持ってきた『謎の巨石群』の本を見せ、そこに書かれている棚機神社の記述箇所を確認してもらった。宮司によると、巨石群の由来は神社と同様詳しいことはわからないという。おそらく、石は恵夢山の噴火とともに飛来したであろうということだけであった。神社名の「タナバタ」は「七夕」と同じで、古くはこちらの「棚機」の字を用いていたらしい。

 タナバタというだけあって星に関係しているらしく、それについては興味深いものがここ棚機神社にあり、案内してくれるという。

「お嬢さん方は高校生かね?今時の娘さんにしては珍しいのぉ。ここの石に興味がある人がいてくれて、この先も安泰じゃ」

 宮司は心なしか、嬉しそうである。

「はい。特に石が好きってわけではなく、いろいろ調べているうちに、こちらにたどり着いたというわけです。スイマセン」

 恐縮しながら愛莉は宮司が最後に言った、安泰という言葉が気になった。どうして、そんな事を言うのか。なにか意味があるのかと考えた。

「それではわしの後についてきて下され」

 そう言うと宮司は神社の裏手にある小高い丘を指した。愛莉と紀子はなんだかワクワクしてきて、鼻歌まじりに昇り始めた。丘の頂上に着くと、ちょうど愛莉たちが来た逆方向が一望でき、巨石群を上から見下ろす高さである。

「わ~!すごい!よく見える」

 愛莉も紀子もご満悦だ。

「お嬢さん方、あれは何に見えるかな?」

 そう言われて、ふたりともよく目を凝らして見てみると、なんだかそこは庭園のように見え、石もランダムに並んでいるようだ。どうやら宮司は愛莉と紀子を試しているみたいだ。なぜ、そのようなことが必要なのか、愛莉はその風景を見ながら、よく考えた。

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