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星屑の記憶  作者: 橘晴紀
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肝試し

 宴会場に戻るとイスに座って動けない者や、まもなく終了というのにまだ皿を持って歩いている者がいた。

 三人は一番近い席に腰を下ろし、ホッと息をついた。思いのほか疲れていたのだ。

「オマエらどこに行っていたんだよ。始まってすぐ出て、終わる頃に帰ってきて」

 皿に盛ったカレーを食べながら駆が言った。いつもなら愛莉が相手をするがそれどころではない。

 紀子も咲も手で追い払うような仕草で駆に答えた。

駆は黄色い舌を見せ、アカンベーをしながら去って行った。

「疲れたねぇ。この先はどうするの?愛莉、すぐ肝試しも始まるし、そのあと天観だし」

 ぐったりして紀子が言った。

「わたし先に行くね。肝試しの準備しなきゃいけないから・・・。疲れたけど楽しかったね。続きも呼んで」

 そう言って咲は宴会場を出て行った。

「あとで確認しよう!天の矢印が何か教えてくれるかもよ。何か飲もう紀子」

 夜八時になり定刻通り肝試しが始まった。宿泊棟から出てすぐ近くにテニスコートがあり、一旦そこに集合し出発するという段取りである。

 それぞれ手に懐中電灯を持ち、夏とはいえ夜は少し冷えるので上から一枚羽織った。体の震えを寒さのせいにして強がる男子もいた。肝試しを始めるにあたって、サッカー部顧問の井尻が怪談をし、皆のモチベーションを上げた。愛莉、紀子、咲の三人は体をくっつけ寄り添いお互いの腕をさすっている。

 他の女子も一年生、二年生とそれぞれ固まりキャーキャーと声を出している。中でも二年生の武田江美理は堤翔子、渡辺はるかを連れて隣にいる憧れの先輩、野上勇人に近づき怖い怖いとわざとらしく言っている。

 いま言っておかなければ、これで最後とばかりに江美理は野上の腕を掴んだ。というのも、テニスコートに集まる前にロビーで肝試しの順番が発表され、抽選の結果大いに期待したが野上と組むことは叶わなかった。

 いつもサッカー部の肝試しは女子マネージャー数人を取りあう形で抽選を行う。だが今年は女子の多い天文部と合同で行うということで断然盛り上がり気合いの入れようも尋常ではなかった。

 それはサッカー部だけではなく、天文部女子もそうであった。特に江美理は他の女子よりも張りきって、本来の目的天体観測会どこ吹く風とばかりに、この肝試しに期待していた。そんな江美理は井尻のする怪談を全然聞く気も無く、隣の野上にいろいろ話しかけるが頷くばかりで話してくれないと拗ねた。

 まもなく井尻の怪談が終わり、その場はひんやりとした風が吹き、一段と盛り上がった。

 先だってペアを抽選で決めていたので、井尻はその順番に並ぶように言い、幹事のサッカー部木村が前に出てきた。今いるテニスコートからキャンプ場を通り、少し山を登ったところにある神社が目的地。

 境内にあらかじめサッカー部員が箱を置いてきており、その中に入れてあるカードを各ペアが一枚ずつ取ってくるということである。まだ木村が説明中でみんな静かに聞いていたが愛莉の横に江美理が来て言った。

「愛莉先輩、交代してくれませんか?」

 唐突な申し出に愛莉は驚いた。

「エミリ何言ってるの?決まったことじゃない!ちゃんと公正に抽選したでしょ!」

「やっぱり先輩も野上先輩がイイんですね。沢口先輩とは仲がいいから、代わってくれるかなぁって、思ったんですけど・・・」

「アンタはほんとにハンターね!代わってどうするの?告白でもする気?それにアイツとは別に仲よくなんてないよ!」

 愛莉はあまりにも江美理の真っすぐで行動力あるところを羨ましく思いつつ、笑わずにはいられなかった。

「ダメですかぁ?愛莉先輩。こんなチャンスもうないかもしれないです」

 愛莉は悲痛な江美理の思いに同情した。

「よくわかったわ。代わるのは無理だけど、終わったら彼にすぐ行くように言っておくから、エミリは怖がりのアイツをリードしてあげて!」

 納得したのか、していないのか分からないが、江美理は自分のところに戻った。

「どうかしたのか?武田。何の相談?」

 駆は懐中電灯の光を江美理に当て聞いた。

「別に何でもないですよ!愛莉先輩に沢口先輩の取り扱いを聞きにいっただけです!」

 少し怒り口調で江美理が答えた。

「何だよ!それは!オレは電化製品かよ?それでアイツ何て言ってた?」

「なんか沢口先輩のことを心配していましたよ。怖がりなんですか?先輩」

 江美理はそう言うと、今度はお返しに駆の顔に懐中電灯の光を当てた。

「そんなこと言ってたのか?アイツ!怖いことなんかあるもんかぁ!」

 そう息巻いた駆であったが、一瞬顔が強張った。

ゆっくり後ろを振り返ると紀子が懐中電灯の持ち手部分を駆の背中に当てていた。

「おい!村田なにするんだよ!」

 真剣に怒る駆。言ったあと自分でも気づき、何もなかったように前を向いた。

「ね!」

 紀子が江美理に笑って言った。江美理もクスっと笑って駆を見ると懐中電灯をカチカチさせて空に当てたり地面に当てたりしていた。

 ようやく木村の説明が終わり、肝試し大会が始まった。一番手は幹事の木村とパートナーの不思議少女の二年生堤翔子である。幹事ではあるがそれほどしっかりしていない木村は初めての女子との肝試しでテンションが上がっているが、少し怖いのかそれとも緊張しているのか言葉が出ない。一方、翔子は不思議な世界が好きで幽霊とかは全然怖くなく、むしろ歓迎といった感じである。続いて出発するのは紀子と野々宮。

 くじを引いた瞬間、紀子は大きな声でイヤだと言い、

なぜ同じ部のしかも野々宮なのかと、木村に詰め寄り、言われた木村もたじろぐほどであった。

 当然、野々宮のほうも不満で部でも一番の天敵紀子とペアを組むことだけは避けたかったところだ。

 しかも、すぐ後ろに続くのがお気に入りの渡辺はるかであり、ペアが決まった瞬間「惜しい」と小声で言っていた。その、はるかとペアになったのはサッカー部で木村とコンビの設楽である。そして、その後ろに設楽が思いを寄せる愛莉と野上。その後に咲と天文部二年で次期部長候補のイケメン須田隆也。

 じつは今回の抽選で一番喜んだのが咲である。

いつも見慣れたサッカー部の男子ではなく、その連中と混ぜても一番人気の野上といい勝負の須田と組むことになったから、当然のことである。そして何組かそのあとに続き、江美理と駆が出発。はじめから江美理が先に歩き、駆を引っ張るカタチになっている。

 そして、しんがりを務めるのが天文部顧問の志賀と菅原である。この二人は当初予定になかったが、招待側ですることがないからと、急きょ井尻の提案で決まった。両方とも断ったが皆が怖いからかと、からかわれたのでそれを払拭するために参加した。

 そこかしこで悲鳴が上がり、肝試しらしくなってきた。その声は甲高い声だけではなく、時折低い声も聞こえ、始まる前の威勢のよかった体育会系の男は何人も減った。

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