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星屑の記憶  作者: 橘晴紀
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第二ステージ

 愛莉はダメだったかと諦め扉のハンドルを回した。するとカチャっと音がしてそれが動いた。

 扉を開け笑いながら愛莉が言った。

「そうだよね!鍵を合わせると、何か音がして開いたって知らせてくれる。そう勝手に思い込んでいた」

 それを聞いて皆も一斉に笑った。それは息をひそめるほどの緊張と静けさの中、そこには何ひとつ音のない世界がつくりあげられ、鍵を開ける時は音のしるしがあると心理的に思い込んでしまう。考えてみれば、極めて単純なダイヤルを合わせるだけの鍵なので、そんな音がしないというのは分かるだろうが、そこにいる全員がある種の催眠術に掛ったような状態であった。

 中からヒヤっとした空気が流れ、それが長い間閉じられたままだというのを物語っていた。そんなに深さはないが本体が黒いのと、部屋の中も少し暗いので中身は分からない。皆が注目する中、愛莉は恐る恐るその中に手を入れた。

 まず封筒を手にして取りあえず紀子に渡した。それから次に緩衝材に包まれたものを手にした。そして次に手を入れ混ぜるようにしたが金属音だけがして、何もない様子だ。一旦、手を出して覗き込んでみる。

「あれぇ!もう何もない。これだけ?」

 そう言って愛莉は何重にも包まれた緩衝材を外すと、小さな布製の袋が現れた。鍵を開けるまでの間かなりの時間を要し、時には勉強も手につかず悩んだり、迷ってやめることさえ考えた。それだけの思いでこの数カ月取り組んできて、やっと今日ここまで取り付けられた。

 愛莉ひとりでは出来なかったことだ。それだけに期待した頑丈な金庫から出てきたものが、たった二つのものだったので拍子抜けした。愛莉と紀子は落ち着くため後ろに置いてあるイスに腰掛けた。

 菜穂子は片付けがあるからと隣の部屋に戻り、龍一も手伝いに行った。早く見たい気持ちと疲労感とが混じり、思うように手が動かない。いや、それよりも何ともいえない緊張感が上回っている。

 震える手で愛莉は封筒を開けた。便箋を開き文字を見た瞬間にそれが祖父権三の書いたものとすぐ理解できた。愛莉はゴクンと唾を飲み込み、一度紀子を見つめ深呼吸をした。いま手にしているのはすでにこの

世にいない大好きだった祖父との時空を超えた交流。

 それが手紙の良さだ。

〈愛莉へこの手紙を目にしているということは無事だったんだな?ほかの皆は大丈夫か?妹想いでひょうきんな望、頑固で聡明な里美、頼りないが何故か憎めない龍一くん。突然こんな便りですまない。もちろん、これを読んでいるということは私がこの世にいないということだ。それよりも皆はもとより、研究所や街の様子、社会はどうであるか?無事に機能しているか?相当規模の地震にも耐えるようにボールをつくり、しかるべき所に保管していたが愛莉がこれを読んでいるということはダメージがかなりあったのであろう。だが愛莉、油断するでないぞ!いつとは分からないが近くまたやってくる。この辺りが動いたとなると、きっとまた他も連動する。人間はどんなに科学が発達しても、どんなにシステムを構築しても、それを使う方法がまだ解っていない。もちろん長年研究してきた私でさえも・・・。その方法を知っているのは我々ではなく、太古の人々だ。彼らはどうし

てそれを知っていたか?それは親から子へ、子から孫へ・・・知っているものがそうやって継承していった。世界中にあるモニュメントにしたり、あるところに文書などを秘匿したり、また口伝や神話の中に織り交ぜたりした。それを全部知ることは不可能である。だが、その情報は世界中に散らばっているから、根気よく探せばきっと自分の身の回りにもあるはずと私は考えた。幸いなことに自分が物理学を生業としていたのでそこからアプローチを試みた。それなりの成果はあったが残念なことに人の寿命は八十年そこそこである。これはいつの時代もそうだが、ひとりの人間が続けるのは難しい。だから、代々その知識を渡していく。たとえそれが先送りになろうとも・・・。私はそれが生まれてきた意味で

あると考えている。もちろん、それを何人にも強制できない。だが愛莉なら、この私の気持ちを理解してくれると思って、こんなむちゃなことをしている。そして、解り難くしているのは、その知識を何と勘違いしているのか、まるで金銀財宝のように思うものが少なからずいる。それらをかわす為にもこのような暗号めいたことをしているのだが、そこは我が愛しい愛莉ならきっと解いてくれると信じている。きっと味方になってくれる人がいるはず。家族、友達その他にも・・・そして、それでも解らない時は星に訊け!壁に当たった時は全く違ったアプローチを試みよ!きっとそこにチャンスが潜んでいる。長くなったが愛莉、どうか元気で無理はするな!私はまもなく、お前のばあさんのところに行く。また会おう。おじいちゃんより〉

 読んでいる途中から愛莉がボロボロ涙をこぼしていたので間違いなく祖父の手紙であると、理解した紀子は読み終わっても静かに見守った。

 それからどれほど時間が経ったのか分からないぐらい長く感じられた。

「大丈夫?愛莉」

 少し落ち着いたようなので紀子は聞いた。

「うん。ありがとう!」

 愛莉は読み終えた手紙をたたみ、封筒に入れながら静かに言った。部屋の窓が少し開いていたので風が一瞬吹いてきて、愛莉と紀子の髪を揺らした。愛莉は紀子を見て微笑んだ。それに同じく答えた紀子は机に置いてあった、もうひとつの白い布製の袋を手にとって、それを包んである紐を解いた。

 袋を絞ってそれで包んでいたようだ。紀子は目で確認すると、愛莉が頷き、静かに中のものを取り出した。出てきたそのものは小さなキャンバスに油絵で描かれた風景画であった。ふたりが覗き込むと頭がぶつかるほどのサイズである。そこにはきれいな三角形をした山がひとつ描かれていた。

「どこの山かな?とても上手に描いているね。愛莉のおじいさんが描いたのかな?」

「どうかな?おじいちゃん絵を描くのは上手かったけど・・・でも、ここにサインあるよ!えっと・・・」

 絵の右下にサインがしてあり、そこにはアルファベットでこう書かれていた。

< H・Ere> そして、その山を展望台のような所から見ているのだろうか、絵の下部には柵が描かれ、真ん中辺りに案内図のようなものがあり、そこには< S・E・NUTS>と描かれている。

 左端には尖がった大きな岩があり、青空で雲ひとつなく、全体に壮大なイメージがある。

「第二ステージ突入だね!紀子。でも、すごく疲れた!今日はここまで!電池切れ~」

 愛莉は長い一日を早くも終えたようにイスにへたり込んだ。

「そうだね。愛莉ほどじゃないけど、すごく肩が凝った。お風呂に入りたい!」

 しばらくその場で休憩して、隣の部屋に向かうと、ほとんど片付けは終わっていて菜穂子がお茶を入れてくれた。それを飲んで少し談笑し、三人は研究所を後にした。

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