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再びのアクマート……。

♢21♢


 2人コーチが出来たことにより、ポチとタマの出番は減った。そのコーチの都合が悪い時だけ、勇者たちの相手をしてもらっている。


 2匹は暇な儂と一緒で、日向ぼっこくらいしかすることがない。あとは、お母さんみたいな作業しかすることがない。掃除して、洗濯して、ご飯を作って。


「ポチ、その洗濯かごも取って。晴れてる日に全部干さないとな。雨続きなのは畑にはいいが、洗濯は乾かないしお母さん的には最悪じゃな」


 今日は、ホネが剣とかを教えています。

 今の勇者たちの気持ちを代弁すると、ポチとタマの方がマシだったーー! だ。


 あの見かけ紳士は、昔はそれはもうヤバイやつでした。魔王の部下に相応しいヤツだったんだ。


「ギャーー、これならポチとタマの方がマシだったーー! 教えるならもっと丁寧に教えてくれーー」


 骨を付け足すことでいくらでも手足とか増やせるし、頭蓋を使うとその生き物も再現できたりする。


 龍の骨があったとする。その頭部分を付け足すと、あんなふうに火とかも吹ける。


「火吹いたーー。どういう仕組みなの? ちょっと、たんま!」


 腕の数を増やすと、持てる武器の数もその分増えて大変便利。儂の知る限りホネが敗北した記憶は無い。

 本人は謙遜していたが、魔王を名乗っても何ら不思議はない。あれも魔王力(まおうりょく)とか要らないタイプだな。


「どうした小童ども。そんなことでは魔王の手下は名乗れんぞ! それに生きて明日を迎えることもできん! 貴様らに休んでいる暇などない!」


「もう魔王だよね? こんな部下いないよね?!」


「何を言う。この程度で魔王など名乗れるか! マオちゃんはそれはもう凄い魔王だった。いくつもの界を手に入れ、その大半を癇癪を起こし粉々にし、あるときには全てを塵に変え、またあるときは気に入らないという理由壊し、恐怖と絶望を振りまいていたのだ!」


 ……ちょっと大げさすぎるかな。界を壊したと言っても、たった10個くらいだよ?

 それに恐怖なんて振りまいてないよ? そんなヤツ本当に魔王じゃん。


「恐れをなした勇者たちは挑むことすら諦め放置状態。当然、暇を持て余し部下に八つ当たりするしまつ。神が現れては機嫌が悪くなり、神の話をしても機嫌が悪くなる。我々の主な仕事はご機嫌取りと言っても過言ではなかった……」


「黙って聞いてれば言いたい放題だな。尊敬の念とか感じられないんだけど……。ホネ、おまえもあれか? 1回シメとくか?」


「いえ、尊敬しているからこそ……」


「全く感じられなかった。ご機嫌取りしてたらしいじゃん。知らなかったわー、そんなふうに思ってたんだー」


「あれっ、なんだか俺たちも巻き込まれる空気だ」


 よくわかってる。目の前のヤロウたちに区別など無い。


「全員に指導が入ります。それなりに厳しめにいくよー」


 もう少し言葉を選ぶことを覚えろ! 次は無い。


 ♢


 魔法のコーチは優秀ではあったが致命的な欠陥があった。


「何でわかんないの? こう、バーーってなって、グワァーーってなるんだって! 簡単でしょ?」


 コーチことサクヤは、身振り手振りを交え魔法を説明しているつもりらしい。


「全然わからない。そんな感覚の話をされても分かるわけないじゃん」


 アンの言うことは最もである。儂も分からん。


「アン、あなたセンスないわね。そんなんじゃ魔法なんて使えないわよ?」


 あれを理解できるヤツにしか使えるようにならないよ。そう言ってはダメなんだろうか。本当のことだし言ってもいいかな?


「サクヤー、ちょっといい」


 儂の方にサクヤが振り返る。すると、何を言わんとするのかアンが察したのか言うなと手を振る。


「何? 私、忙しいんだけど……。もう、おやつの時間?」


「……おやつはまだだよ。それに忙しいみたいだからまたにする」


 アンが言うなと言ってるのでやめとく。

 サクヤが悪いわけではない。天才と凡人には感覚の違いがある。ただ、この件は何とかしないといけなくなった。


「おやつは冷蔵庫に入ってるから。儂は買い出しに行ってくるね」


 あそこならあるかもしれない。魔法を使えるようになる道具とか。


「えっ……なら私も行く。サクヤちゃんごめんね。今日はありがとう」


 ──うっ、アンも行くのか?

 黙ってサクヤに魔法を習っていてほしいんじゃが……。


「あら、それじゃあ仕方ないわね。今日は帰るわ。おやつは明日食べるから取っておいて」


 サクヤ、引くなーー。もっと粘れ。アンを止めておいてくれ。


「またねー」


 期待とは裏腹にあっさりと引き下がり、サクヤはそそくさと退散していく。あー、逃げやがった。


「昨日はいつの間にか1人で買い物に行ってたし。私も気晴らしにいきたいなー」


「……今日は服もアクセも買わないからな。ウインドウショッピングも無しで」


「それでいいから行きましょう! 早く!」


 再びのアクマート。

 アンと一緒にお出掛けです……。


 ♢


「いいか。余計はフロアには行かない。余計な物は買わない。守れるならついてこい。守れないならお留守番してろ」


「大丈夫だって」


 絶対に向こうに行ったら、あれが見たいこれが欲しいって言うよ? 間違いない!

 しかし、魔法を使えるようにならなければいけないのはアン。当人を連れていくのは間違いではない。


「……じゃあ行ってみよう」


 いつものように鍵をさしドアノブを回す。すると今日も晴れらしいアクマートの屋上が見える。


「おかしいとは思ってたんだ。買い物に出掛けたふうがないのに、お菓子が増えていたのが……。毎日のようにおやつを食べている私の目は誤魔化せないよ!」


 屋根の上から声がした。不自然なほどあっさりと帰っていったサクヤの声が。

 背景にはドーンというエフェクトが見えそう。あと、スカートの中も見えそう。


「マオちゃん。それはなに? 扉の向こう側はどこなのかな? どこに買い出しに行くのかな? 教えて」


 こわっ。ぶりっ子モードではなく、目指すは魔王モードで話しかけてくる。


「屋根から飛び降りたらあぶないよ? それに女の子がスカートでそんなことしちゃダメなんだよ?」


「そういうのいいから……。アンがウキウキしていたのを見逃す私じゃないから」


「お土産を買ってくるから。今日は大人しく帰って、ね?」


 サクヤはヤバい! アン1人でも大変なのに。


「わ・た・し・も・い・く。からね?」


 最後だけぶりっ子モードで言われても……。


 こうして両手に花でアクマートへ向かう。

 何この嬉しくないイベント。勇者とか代わってくんないかなー。


 ♢


 やはり予想通りになってしまった。それも2倍姦しい。一緒になって騒ぐのはムリな儂は、ひたすら付き合わされている。


 もう、お前らだけで見て回れよ。そう言っても聞き入れてはもらえなかった。財布がいなくてはお買い物できないから。


 そんなにお小遣い貰ってんの? と言いたくなるサクヤは、今日は手持ちがないらしく儂が払っておくことになった。

 ちゃんと領収書もらわなくちゃ。今日の払いは全部魔王宛にしておこう。


「マオちゃん。こんな楽しそうな場所を隠してるなんて人が悪いよ。なんていうか文明が違うわね。 ──あれ、すごくかわいい!」


 会話の途中で洋服に興味が移ったらしいサクヤは服屋に駆けていく。

 すでにお買い物カートは洋服でいっぱいいっぱい。さっきから前が見えない。


 アンはアンで……。


「サクヤちゃん。見て見て、これも可愛い」


「ほんとだー、似合うかな。着てみていい?」


 サクヤに洋服をすすめる。

 2人はきゃっきゃしながら、ひたすらに洋服を買い漁る。そんなに着ないだろ? 一回着たら捨てんの? って思います。


「もう、カート置いて目的のフロアにいこう。そして買い物が終わったら1人で帰ろう」


 それしか、この女子たちから逃げる術はない。


「そこの店員さん。魔法関係の書物はどこで売ってる?」


「少々お待ちください。今、お調べしますので」


 近くを歩いていた店員さんを捕まえ聞いてみた。2人のせいでそれすら尋ねる暇がなかったんだ。


「3.5階の職業別の特設コーナーにありますね。現在当店では、今日から始める職業というフェアを開催しておりまして、その中に魔法使いも含まれております。是非この機会に魔法使いを始めてみてくださいね」


 途中から明らかに文章を読んでる感があったが、店員さんはそれが仕事。

 あのピコピコに文字やら画像やらが映るらしいな。アクマートはハイテクなものを使っている。


「ありがとう。ついでにもう一つ頼まれてくれ。あそこの2人は連れなんじゃが、儂は今教えてもらったフロアにいく。そのカートは全部あいつらの荷物でな。持っていくのめんどくさいから、あいつらのところに持っていって、儂は上にいったと伝えてくれ」


「かしこまりました」


「じゃ、お願いします」


 屋上からすぐの階じゃん! まったく必要ない洋服のフロアまで下りてきやがって……。


 ♢


 店員さんに教えられた特設コーナーとやらにやってきた。 ……なにこれ。そんな感想しかない。


「今日から始めるシリーズはずいぶん出てる! 魔法使いだけじゃなく勇者、戦士、僧侶もある! しかも内容もちゃんとしてる。心構えから必要な技術まで全部のってる……。4人分買っていこう」


 世界には今日から勇者始める人がいるのか。マジかー。このラインナップに装備も売ってるし、アクマート製の勇者パーティとかいそう。


 楽して強くなれる本。そんなタイトルの本もある。絶対に勇者辺りには見せられない。


「ヤベェな、アクマート。誰が買うのかは知らないが伝説の装備も売ってる。値段の0が多いのは仕方ないにしても……これ本物じゃん」


 普通ではないオーラを放っている。聖剣とあるから勇者とかが使ってたんだろう。


「今日から始めるシリーズと、あとは何が必要なんだろう?」


 困った。分からないな。全部いるようにも思えるし、要らないようにも思える。


「何かお探しでしょうか? この期に転職をお考えとか?」


 そう魔法使いの格好のお姉さんが話しかけてきた。なかなかにきわどい格好。


 このお姉さん、 ──できる!


「女の子を1人魔法使いにしたい。できれば怪我とかしてほしくないから最強の魔法使いにしたい。何が必要かな?」


「……そうなると、今日から始めるシリーズよりこっちの方がいいかな。呪文書に、高速詠唱できるアイテム、杖はそこそこの物理力のあるこれ。呪文書を丸暗記できれば最強の魔法使いになれる!」


「その……お姉さんの格好は売ってないの?」


「流石、お目が高い。だけどこれはオーダーメイドよ。売り物じゃないの。ごめんなさいね」


 残念。アンにもその格好をしてほしかった。


 しかし、服に装備か。いざとなってから用意しても間に合わないな。

 ここは魅力的だが仕立屋は最高のやつを知ってる。そっちに頼むとしよう。


 結局、今日から始めるシリーズも買いました。

 この機会に儂も普通の魔法を覚えようと思って。


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