勇者たちを鍛える! ②
♢20♢
勇者たちが日々修羅場をくぐって、それなりの日数が過ぎた頃。その日の昼前に1人の男が訪ねてきた。
「こちらが魔王様のご自宅でよろしかったですかな?」
年老いた男。紳士的な態度。
着ている服は高価な物だと一目でわかる。
「…………」
「──もし? おや、間違えましたかな?」
男は家を間違えたのかと一旦外に出て表札を確認する。しかし、そんなものは無くやはり出てきた女に尋ねるしかないと思い再び玄関へと入る。
「あぁ……こちらが元・魔王様のご自宅でよろしかったですかな?」
言い直したのは忘れていたからだ。今はもう魔王ではないのだということを。
「……き、き……」
「き?」
き、から始まる応対を男は思いつかなかった。だってそんなのないから。
「きゃーーーーーー! ガイコツが喋ってるーーーー!」
そう、男はガイコツ。肉はなく、骨が服を着ているにすぎないのだ。
「──アン、どうした!? 敵襲か? それともしつこい勧誘か?」
女の大声に驚いたのか、口にクリームをつけた少女が襖を開け走ってくる。
「ガ、ガイコツが……」
「ガイコツ?」
玄関に立つ会釈するガイコツが視界に入る。
「おぉ、ホネ。久しぶりー、やっと来たか」
「お久しゅうございます。一目散に駆けつけたくはあったのですが、わたくしは不肖ながら界をひとつ預かる身。色々としがらみがありまして……」
「まぁまぁ、入れ入れ。無理を言って来てもらったんだから構わん。それに出世したな。今や魔王か?」
「まさか、わたくし如きがおこがましい。あくまで界の管理統制を請け負うだけでございます」
「へー、大変なんだねー」
あまり興味のない話だったようで、少女はスタスタと歩いて行ってしまう。
「お邪魔いたします」
そう言い、履物を自分で揃えてホネと呼ばれたガイコツは元・魔王の後を追う。
「……何あれ」
残された勇者の仲間。アンはそう言うしかなかった。
♢
来客があり全員が居間に集合させられた。来客とは見た目から不気味すぎるガイコツ。
そのガイコツは話し出されたお茶を飲んでいる。まさに衝撃的な光景だった。勇者たちには。
「紹介します。こちらはホネ。あー、昔は儂の配下でした。今は魔王くんに言われて界をひとつ預かる身だそうです。 ……って言うか、ホネ。お前は現在界を持ってんの? それくれない?」
「それが今日の御用向きでしょうか?」
「今、思いついただけだけど?」
「大変申し訳ないのですが、欲しいと言われましてもわたくしはただの管理者。所有者は魔王くんですので、彼に言っていただきませんと」
「それは思いつかなかった。こないだシメた時に思いついていれば……。なら、済んでしまったことはもういい。ホネを呼んだのは他でもない。こいつらを……」
こいつらと言われた元・魔王の背後の4人。彼らにギロリとガイコツの視線が向く。
「成る程。この人間たちを血祭りに上げればいいので?」
「実はそうなんだ」
「お任せください。直ぐにでも取り掛からせていただきます」
ガイコツは自分の隣に置いてある杖に手をかけ引き抜く。そこからは見るからに斬れそうな刃物が顔を出す。
「──ちょっとマオちゃん。何言ってるの? 俺たち血祭りに上げられるよ?!」
「と、言うのは冗談でこいつらを……」
「血祭りでないとすると口封じですかな。お任せください。人間を4人始末するくらい造作もありませんので」
「──話を最後まで聞けよ! 冗談を言って悪かったから。勇者たちがビクビクしてるから」
元・魔王は話を先走るガイコツにキレる。そしてガイコツはその単語に反応する。
「勇者? この人間が……。魔王様、勇者など何に使われるつもりで?」
「魔王様はやめろ。儂のことはマオちゃんと呼べ。こいつらを使って……ちょっと耳を貸せ」
どこが耳なのかは分からないが、ガイコツは頭を近づけヒソヒソ話が始まる。
「──というわけなんだ。それでこいつらを鍛えたい。しかし剣術は儂には教えられなくてなー、ヤロウたちには剣術を指南してほしい」
「無論構いませんが、その女性は?」
「アンは魔法使いにするから。儂が魔法教えるし!」
「魔王……マオちゃん。大変申し上げにくいのですが、マオちゃんの魔法は他者には扱えぬ魔法。いわば魔王のみの技。誰にも教えることはできないかと思います」
「えっ……マジで。みんな塵にしたり、世界を割ったり、天変地異を引き起こしたりできないの?」
できるわけないわー。
勇者たちは、そんな気持ちが顔に出ている。
おかしいとは思ってたんだ。誰も界を爆発させたりしないから……。
「儂は役に立たないのか。せっかくアンを最強の魔法使いにしてあげようと思ってたのに。勇者が空気だから……」
「魔法使いを軸にするのは良いですが、魔王の技は扱えないと思われます。魔法も別の者を呼び出し、指南させるのがよろしいかと思います」
「魔法使いの部下なんて思いつかない……。ホネ、そんなのいたか?」
「……自分で言ってあれですが、全く思いつかないですな。純粋な魔法使いなどいなかった……かも」
だよな。覚えがない。魔法なんて、勇者と仲間たちくらいしか使ってこなかったしな。
魔法……魔法か。しかし、最近見た気がする。
「あぁ、忘れていましたがこれを」
「──お土産か! その箱は何かなー」
「最初に渡すつもりだったのを忘れていました」
「どら焼きだー、どっかの魔王よりわかってる! クリームもいいが餡子が一番。 ──そうか思い出した!」
いたわ、魔法使い。将来の夢は魔王になりたいというラスボス気質が。
♢
これでコーチは決定したな。
ただ、勇者と同じくらい儂は空気だな。
直接指導ができない!
だから、他のところで役に立ちます。サポートに徹します。
簡単に言うとお母さんみたいなことをします。
教えられることは教えるが、技術指導はコーチに任せるしかない。
儂に出来る事は、先を見据えて行動するくらいか。こればかりはホネにも頼めん。自分でやるしかない。
今のうちから覚悟しておかなくては。嫌だわーー。




