勇者たちを鍛える!
♢19♢
畑を耕す作業は終了した。肥料も入れたし、植えるのも昨日終わった。
水やりは雨の振り方を見てやらないとダメらしい。毎日、水をかけるもんかと思っていたが違った。雨が降ればだいたいは十分らしい。
勇者力と魔王力の話は、もう1ヶ月以上前の話になるな。
魔王もサクヤもあれから姿は見せない。
サクヤはかなり参っていたのか帰り際ずいぶん荒れてる様子だったが、勝負に手は抜かんし、もしもがあってはならん。魔王の立場がないし、あの小娘に魔王は早すぎる。
あんなラスボスを世に放つのは気が引ける。
伸び代はあるし、ゆくゆくは儂も追い越されるかもとちょっぴり恐れている。サクヤにはナイショじゃがな。
さて、勇者たちじゃが。一ヶ月足らずの労働では無いものを埋めるには至らない。
チームワークは手に入ってきたが、体力面は全然足りんなぁ。こればかりは時間を掛けんと手に入らないか……。
「──マオちゃん。もう、無理だから! 死んじゃうから。ポチを止めてーー!」
勇者が何か言ってるが無視しよう。
これは罰であり、明日からの新メニューでもあるんだからな。
「いきなりこんなのと戦えるわけないじゃない」
「「食べられるーー」」
ちゃんと言ってあるから食べられん。ポチは遊び感覚だしな。ゴミ勇者の仲間たちは苦労するわー。
「もうサボったりしないから。ちゃんとやるから。だから助けてーー」
「ふーん」
「あれはかなり怒ってる。勇者がサボるから連帯責任なのよ! あんたが何とかしなさいよ!」
「「そうだ! そうだ!」」
見るに耐えんな。少しの窮地でこれではな。
ポチを倒すのは無理だとしても、チームワークで乗り切るくらいはできんとな。
……アンの言うように何とかしなくてはな。
「儂、なんか眠くなってきたからお昼寝してくるね。みんな頑張って!」
「「ふざけんなーー!!」」
「ポチ、もっとそいつらに遊んでもらえ。畑作業がないから勇者たちは暇なようだからな!」
人はいかんな。慣れてくると手を抜くし、サボることを覚える。
少しキツめの罰が必要。ポチの遊び相手がちょうどいいくらい。
それはそれとしてちょっと思いついたことがある。えーと、番号は……。
プルプルと音がして相手はすぐにでる。
「あっ、魔王くん? 久しぶりー。ちょっと聞きたいんだけど……」
そろそろ本腰を入れようと思う。畑も作ったしな。
あとは日々のお世話をしていけば収穫までいく。その間に何とかなるかな?
♢
夕方になりボロボロの勇者たちが帰ってきた。
見るに耐えん有様じゃし、舐めまわされたのかベタベタしてる。
「おかえりー、お風呂は沸いてるからベタベタを落としてこい」
「……結局、あれから1度も外に出てこなかった。ポチが飽きるまで続いたんですけど……」
「あれは新メニューだから。ちなみに明日もやるし。ポチとタマを1日交代で使っていくから」
「ううっ……犬くさい。あれが明日からも続くなんて」
「慣れろ。舐めまわされるのが嫌なら強くなれ。必要なことは教えてやるが、最終的には自分たちで何とかしなくてはならん。ポチとは本来ならエンカウントしたら全滅だぞ。それを相手に立ち回るのが無茶なのは分かってる。しかし、あのくらいどうにかできなくては魔王なんて倒せん」
甘い顔ばかりもしてられん。締めるところは締めなくては。
「私が最初にお風呂にいくから……全員覗きにくんなよ……」
明らかに覇気のないアンは風呂場へと向かっていく。女子には堪えるようだ。いろんな意味で。
「アンの風呂は長い。お前らは外の水道でベタベタだけでも落としてこい」
「「……はい」」
勇者たちも大差ないか。
このあと晩飯の支度をするのは酷か……。今日は儂が作ります!
♢
早朝。朝の畑作業はやることがなくなったので、走り込みです。
決められたコースを勇者たち全員で一周してくる。
……儂は必要ないからやりません。ほら、たりてるから。体力とか。
「──もうすぐゴールだ! 逃げ切れー、追いつかれたら終わりだーー!!」
勇者の声が聞こえてきた。どうやら戻ってきたらしい。今日も無事に。
「いやー、毎日、毎日、なんで死にかけなくちゃならないのよーー」
「「そこまで来てるーー」」
どうしたのか?
忘れてる人たちのために説明しよう。
ここは不毛な大地です。理由は辺りのモンスターが強すぎるから。
人里もありません。人間もいません。いるのは出会ったら即死級のモンスターたち。
家の周りと儂の側を離れれば、あーなる。
死にものぐるいでモンスターたちから逃げるよ、マラソンに参加することになる。
「おかえりー、いきなり止まるのは良くないから畑の周りを一周歩いて息を整えてこい。アレは返しておくから」
「「……はい」」
美味しそうな人間を追いかけてきたモンスターたち。放っておいても帰らないので散らしにいきます。
排除はしません。それもいずれ勇者たちにやらせるから。
「ほら、散れ散れ! 自分たちの住処に帰れ。さもないとポチとタマを召喚して追い回すぞ?」
モンスターたちは一目散に帰っていく。
朝ごはんのあとは自由時間です。詰め込みは良くない。
それに修羅場は1日2回あるから。午後からはタマとのバトルだから。
♢
タマはポチと違い舐め回したりはしない。ネコだから。
それにツンデレ。ネコだから。
あと神速のネコパンチを放つ。ネコだから。
「タマ、そのネコパンチを連続で繰り出すのやめて! 気づいた時には地面に手がついてるとか避けられないし、躱せないからーー」
タマは勇者がお気に入り。執拗に勇者を狙う。
そして勇者は、口ではああ言っているがネコパンチは当たっていない。あいつは逃げることに関しては右に出る者がいないな。
「タマは勇者を狙うから楽でいいわ。気まぐれに、こっちに攻撃してくるのにだけ注意してればいいから」
気まぐれなのもネコだから。
「お前らも見てないでタマと戦えよ! タマの日はずっと俺が狙われてるよ?!」
「「愛されてるんだよ」」
ツンデレのツンの部分だね。今のところデレの部分は見たことないけどね。
「確かに勇者ばかり逃げ足を鍛えても意味がない。タマ、残りの3人ともちゃんと遊ばないとおやつはやらんぞ?」
「──ニャ?!」
「「えっ……まさか……」」
遊び相手が出来ておやつまで貰える。ポチとタマにはいい仕事。
しかし、おやつ抜きと言われればマジになるよねー。
「ニャ、ニャニャー!」
訳すると、おやつのためにぬっころす! だ。
「こっち見てる!」「やめてーー」
「タマ、やりすぎるなよ。儂は飽きたから帰るわ。タマは時間になったら終わっていいからね。おやつは取りに来て」
「「また放置?!」」
と、こんな具合に勇者たちは日々修羅場をくぐっている。
畑に植えた野菜が成長するように、日々成長している。
分かってると思うがポチもタマもまるっきり本気ではない。あくまで遊び相手。
しかし、勇者たちにとっては限りなく実戦に近いだろう。
ちまちま鍛えるだけではダメなんだ。実戦に勝るものは無い。
儂が直接相手をするのは今のところ無理だからな。せめてサクヤくらいには強くないとな。
……そろそろ来ると思うんだけどな?




