魔王に説明させる!
♢17♢
初めに勇者力と魔王力の話をしようと思う。
勇者の力が勇者力。魔王の力が魔王力。以上。
「「…………」」
「それで理解しろっていうのは無理がある。雑を通り越してるし、教える気がそもそもないな……」
──めんどくさい! 魔王くんやっておいて。
「どうして勇者なんかに説明しなくちゃならないのか分からないが、さっきのはウチの部下に非がある。これでチャラにしてもらうからな?」
じゃあ、よろしく!
儂とサクヤは、外のグラサンたちを使って畑を再建するから。こき使うけどいいよね?
「いいよ。私もつまんない話を聞いてるよりいいから、外にいるね? 終わったら呼んで」
つまり、久しぶりに勝負だな……。
「望むところだよ! 今日こそは私が勝つからね」
小娘に遅れはとらん! サクヤ、行くぞ!
──ダダダダッ
「完全に遊びに行くつもり満々だったな。すでに外から話してたし……しかし、やかましいのがいなくなった。勇者力と魔王力だったな」
完全にその道の人にしか見えない、魔王だという男が静まり返る室内で話を始める。
この部屋にいる勇者と仲間たちは、生きた心地のしない針のむしろ状態を、魔王の話の続く限り味わうことになる。
「テメェは勇者らしいから勇者力の話からしてやる。これを持ってるのが勇者と呼ばれる人間だ。勇者力は分け与えられる。最大値を100だとすると、1人に1づつ割り振れば100人勇者を生み出せる。これは例えであり1以上の勇者力を持つ勇者なんて、今現在いるのか定かでない」
始まりの勇者は100の勇者力を持っていた。その力をもってして魔王を倒す。
これがいつかは知らないが、勇者と魔王の戦いの最初だ。
……問題はそのあとだ。第2、第3の魔王が現れる。
勇者はこれらとも戦うが、そこで問題が生じる。
単純に寿命が足りない。勇者は、ただの人間だからな。いくら勇者といえど、流れ作業で魔王は倒せなかった。
ゲームでいうなら最初から冒険を始めなくちゃいけない。
魔王は手下を使うし、勇者は知らなかったんだろうが魔王は強くなっていくんだ。倒されるたび永遠とな。
勇者は自分を継ぐ者。同じ志を持つ者に力を託す。
これは100パーセントの力を譲渡できる。
何代かこれが続くが、どこかで勇者は2人に半分づつ勇者力を分けた。これはまだ、魔王を倒すのに100の勇者力は必要無かったからだな。
そのあとは、ねずみ算式に勇者が増える。
もはや勇者力を計れないくらいに微力しか力を持たない勇者擬たちが生まれる。それがオマエだ。
ざっくりだが勇者力とはそんなもんだ。職業屋には常設の勇者がいる。
そいつが勇者になりたいと言ってきたヤツに力を譲渡するんだ。小数点以下の勇者力をな。
こうして勇者は増え続けている。ただ、今の時代に勇者なろうなんてヤツは稀だ。
勇者力に期待できない以上、地力で魔王を倒さなくちゃいけないんだからな。
「そんな……勇者になれば楽に魔王を倒せると思ってたのに。道理で全然強くなってる気がしなかったわけだ……」
「風貌からも思ってたが、テメェは中々のクズだな。見たとこ遊び人ってところか。ひとつ言えんのはテメェはもう引き返せないってことだ。勇者になったからには戦わなくちゃならない。最低でも魔王1人を倒すまでな」
「──最低と言ったか? 最低でも1人?! 最高じゃなくて?」
「界ひとつに1人魔王がいるんだ。現在も魔王がいる界は8割くらいだな。今の勇者は、勇者とは名ばかりの兵隊たちに過ぎないからな」
「ぐぬぬぬぬ……」
「寄って集まってなんとか魔王を倒せるかどうかだな。魔王の討伐金は分配されるのが前提だ。単独で魔王を討てば報酬は丸々手に入るが、話の限り不可能だろ?」
「──それでも俺は魔王を倒す! そして討伐金を手に入れ、俺たちの故郷ドヴァイにカジノを作り、毎日遊んで不労所得で生活する!」
「……こんなヤツが現れないように、カジノを規制したんだが手遅れだったか。先代が興味ないのをいいことに、ここはギャンブルが栄え過ぎた。マジメに働かなくちゃいけないと思い知らせる必要があるか」
そう言って魔王は立ち上がる。
思い知らせるにどんな意味があるのかは分からないが、無事では済まないと勇者たちは理解する。
だから助けを呼ぶ。
「「マオちゃん、助けてー! 魔王に────される!」」
「テメェら……」
その叫びは、魔王の部下たちに畑を再建させる傍らで魔王の娘とハイレベルな、じゃれ合いという名のガチバトルを繰り広げている元・魔王の耳にも届く。
「儂の目の届かんところでアンに何をするつもりだー! ヤロウたちが大勢でナニをするつもりだー!」
「パパ……さいてい。ママに言いつけるし、私も怒るよ?」
勘違いは魔王を追い詰める。元・魔王と現魔王の娘によって、魔王は追い詰められる。
「誤解だ。オレがそんなことするわけないだろ!」
「嘘つき。私、知ってるんだよ? パパがその女の人を操って、マオちゃんにいやらしいことをさせてたの」
「「おかしいと思ってたんだ……」」
何故、アンが元・魔王にぱふぱふしたのか。急に態度を変えたのか。その理由は魔王が世界を救うためにやったのである。
「あんたが私にあんなことさせたのね! ぶっ殺してやる!」
「そんなこと出来るんならもっと早く言えよ! 全然知らんかったし!」
これこそ誰にも止めることなどできやしない。
「先代は何に怒ってんだ?! アンタは怒る理由なくない?」
魔王の言うことは最もであるが、怒れる女の耳には届かない。
「「──問答無用!」」
そしてこれは魔王の娘の策略である。
この娘は文武両道であり、それ以外にも才覚を発揮する。彼女は状況を瞬時に読みとり、父親すら利用し勝ちを取りにいったのだ。
「──隙あり。油断したなマオちゃん!」
「なっ、しまった……──と言うと思ったか。そんなもん見なくても防げるわ!」
背後を見ずにサクヤの攻撃を掴み、遠心力を使い元いた畑の方向に投げ飛ばす。
「ちょ……今のでもダメなの?」
間違いなく不意を突いた攻撃だったのに、一瞬で跳ね返された。少女はそれなりにショックを受ける。
「出直してこい。さて魔王くん、そしてヤロウたち。覚悟はいいな?」
「「俺たちは関係ない!」」
ヤロウたちは揃って無実を主張する。
しかし、疑わしきは罰するが彼女の信条。つまり無駄であり無意味である。
「全員、生首の刑に処す。地面に埋まって反省しやがれ!」
これは誤解から生じた悲劇であり、彼らは思い知った。この元・魔王が一番強いと。
魔王力という力を残らず譲渡した彼女に、魔王力はない。あるのは地力。魔王を辞めたあとも、彼女の力にはなんら変化がなかった。
生まれてからずっと魔王だった彼女は、それを辞めてもその輪廻から逃れられない。
魔王とは生まれた時から魔王として生まれてくる。親も兄妹も存在しない。
どうやって生まれてくるのかは分からない。
役割は人間の排除。その数を減らすこと。
魔王とは世界が送り出す代理であり、神と勇者も同じもの。ただその役割が逆なだけで。
かたや繁栄を。かたや衰退を。それぞれもたらすために存在する。果てない争いは続く。
だけど、その始まりはただの勘違いだったのかもしれない。
今のような些細なことで、誰かと誰かが始めた喧嘩がきっかけなのかもしれない。




