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目撃者

『──おーいっ!!二人とも遅かったじゃん!!』


突然、甲高い男の子の声が屋根の上から降ってきた。


ビックリして思わず叫びそうになるのをこらえ、恵一は公衆トイレの入り口の陰から覗かせていた顔と片足をサッと引っ込めた。

フラ付きそうになる身体を、普段なら触れたくもないトイレの壁に預け、落っことしそうになったヘルメットを慌てて両手で抱きしめる。立ってる感覚がしない。


──なんか来た!上からなんか来たっ……!!


『どこ行ってたのよっ!!』


──あれはきっとメリッサの声。


『どうせ、木の上でうたた寝でもしてたんでしょ!』


──あの声は、ビ……ビ……ビスクドール?


『バ、バカ!そんな訳ないだろう!偵察だよ、偵察!危険がないか、ちゃんと見張ってたんだ!!』


──あの声は……だ……誰……?


『……ふんっ!どうだかね!毛並み、乱れてるよ!』


『えっ、ヤバッ!しっかし、ここの木、寝そべるのにちょうどいい──い、いや……ちが……』


『ほら!やっぱり寝てたん──』


『あー!!メリッサ!明日もここで公演するんだろ?』


『もうっ!すーぐごまかすんだから!メリッサも言ってやって、ケビンは今回何の役割もないんだから、別に来なくてい──』


『ハイハイ!おしまい、おしまい!荷物積み終わったから帰るよ!!』


2人の会話を遮るメリッサの声の直ぐ後にエンジン音がして、赤い車は何事もなかったかのように駐車場を出ていった。


呆然と立ち尽くす恵一の周りだけが、急に無音になったかのように辺りはシーンと静まり返った。

次の日の日曜日、恵一は昨日と同じ公衆トイレにいた。ここに潜んでかれこれ30分以上になるだろうか。これから起こる事に気もそぞろで、設置された洗面台の鏡を何度も見てしまう。


──マジで、目の下のクマひどいな……


恵一は、洗面台に手をついて鏡に顔を近づけ、鼻から息を吸って思いっ切り息を吐き出した。公衆トイレ独特の臭いに顔をしかめ、繰り返しみた昨夜の悪夢を思い出す。


黒いマントのメリッサが後ろを向いている。クルッと振り向き微笑むとそれはベス大叔母さん。手招きする彼女に近づくと、急に顔がビスクドールに変わり「見たな~」と恐ろしい形相で追いかけてくる……という悪夢。


昨日、あれからどうやって家に帰ったのか、恵一はまったく覚えていない。意識がハッキリ浮上したのは今日の昼頃だったろうか。ガレージにはバイクがちゃんとあった。夕ご飯を食べた事、風呂に入った記憶も薄っすらある。


──メリッサは、普通じゃない……ハハハ……まさか、ホントに……?夢でも見たんじゃ……でも、あのビスクドール……ま、魔法使い?


恵一は無理やり思考を停止して頭をブルブル振ると、端っこに止められたメリッサの赤いミニバンを睨みつけた。


──いいさ!!もう一度確かめればいいだけさ!!今度はしっかり……


トイレに籠る前にチラッと確認した赤いミニバンが、まるで新車のようにキレイになっていたことは記憶の片隅に追いやって、恵一は彼女たちがやって来るのを待った。


思っていたよりも早く、待ち望んでいた声が聞こえた。


『──ほんとう?ダッドが今日戻るって?』

『ああ、伝書鳩が知らせて来た。』


『昨日みたいに女の子達に囲まれる前に抜け出せて良かった!ワタシ、早くジョンに会いたい!』


『仕方ないじゃん!昨日は変身を解く前に捕まったから、ローズだっていつもより──』


『いいから早く帰ろう!ジョンだったらサッと──』


『仕方ないでしょ!こんな距離まだ飛べない(・・・・)んだから!』


『まあまあ二人とも!早く行こうぜ。あ、でもメリッサ、スピード出し過ぎて事故ったり、捕まったりするなよ!』


メリッサたちの車が駐車場を出ようとする頃、恵一はバイクのエンジンをかけていた。絶対逃がさないと赤いミニバンを見据える恵一の目は、寝不足とは思えないほどランランと輝いていた。


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