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第5章:君と出会えた奇跡と終焉

年が明けて、彼は小学校に通うようになった。


ランドセルを背負って、毎朝、彼が小学校に行くのを玄関からお母さんと見送った。

彼が出かけた後は、1匹で、庭の中をグルグル歩いたり、和室にあるクッションか、彼のベッドの上で眠っていた。


彼の部屋には、沢山の漫画本がある。たまに、僕はその漫画本を、口で開いて、よだれで汚さないように、読んでいた。


彼が小学校から帰ると「ただいまぁ。」と大きな声を出して、自分の部屋に一直線に帰ってくる。


僕の名前を呼んで、思いっきり抱きしめてくれる。僕は、彼に抱きしめられて、彼の匂いを嗅ぐのが大好きだった。

僕は彼の顔をペロペロ舐めてやると、彼も「くすぐったいよ。あれ?今日も漫画を読んでたの?」といつもの会話をする。

その後、彼はおやつを食べて少し休憩をした後、僕にリードをつけて15分ほど歩いて、いつもの原っぱに行って、季節にもよるが、1時間程度一緒に遊ぶ。


最初の頃は、夕日が落ちる頃に、家に帰り、夕食を食べて、お風呂から出た後、彼の部屋に一緒に行き、彼は漫画を読みながら、僕に朗読をしてくれた。


しかし、成長するにつれて、彼は宿題というものをし始めた。算数や国語、英語などを勉強していた。


どうやら彼は、人間の中では、優秀と言われるものに分類されるらしく、大量の宿題が毎日あったが、すぐに終わらせていた。


優秀と言えど、まだ小学生だ。彼は、自分の頭の良さを誰かに披露したかったのだろう。


彼は、いつも横でお座りをしている僕に宿題の内容を全部教えてくれた。


「ほら、この問題はこうやって解くんだよ。」

「この漢字はこうやって読むんだよ。」

「今話した英語は、日本語にすると、こういう風に訳すんだよ。」


彼が優秀で色々な知識を僕に教えてくれたおかげで、僕はスムーズに人間の生活に入れたのだと思う。


彼が成長する一方、当然、僕も成長していく。


僕がこの家族3人と住み始めて、4年が過ぎた。


ある日曜日。僕の顔をじっと見つめて、お父さんが尋ねてきた。

『お前は本当に犬なのか?』


『いえ、違います。』

『僕は、狼です。』

本当は、僕はお父さんにそう言いたかったのだが、かつての生みの親や仲間たちから、人間は狼を殺す習性があると聞いていた。


そのため、僕は顔を横に倒して、何を言っているのか良く分かりません。というような格好をしながら、舌を出してヘラヘラしておいた。


さらに1年が経ち、彼が5年生になる頃、さすがに僕が犬ではないということを家族3人が受け入れ始めた。


『こいつは、犬ではなく狼だね。でも、狼でも何の種類なんだろうな?』


お父さんが言い、お母さんと彼も考え始める。


一応、僕は、彼の部屋にあった図鑑と言われる本を見ていた時に、エゾオオカミというものであると認識をしていた。


『あ、はい。僕は、エゾオオカミです。』


と言いたい衝動に駆られたが、口に出したら、この家族といえど、大変なことになりそうな気がしたので、一応、再度、顔を横に倒して、僕も分かりかねますというような格好をして、舌を出してヘラヘラしておいた。


しかし、結局、お父さんがインターネットというもので調べて、僕がエゾオオカミであるということが速攻でバレた。


僕は、正直、この時には、既に狼としての戦闘本能は失っており、恐らく、この3人は、僕が狼だと分かったとしても、襲ってはこないだろうと安心しきっていた。


しかし、次のお父さんの言葉に胸がギクっとした。


『あれ?狼ってペットとして飼っていいんだっけ?』


『え?ダメなんですか?』


僕は、お父さんに聞きたくなったが、当然、そんなことは言えない。


狼と犬は、全く別の動物ではあるが、一応、同じイヌ科に分類されるので、まぁ犬と大して変わらないと思うのだが、当時の僕には、そんな細かいことはよく分からなかった。


しかし、この家族は、優しいのか、大らかなのか、はたまたいい加減なのか、分からないが『まぁ、ご近所さんに何か言われたら、シベリアンハスキーです。と言ってごまかしましょう。』とお母さんが提案をして、『それもそうだな。』とお父さんが同意し、「うん。そうしよう。」と彼も賛同した。


まぁ僕は、この家に拾われた時から、犬として生きていくことで、この家族が幸せになれるのであればそれでイイと思っていた。


闘争本能だけでなく、狼としてのプライドも失っていたので、今日から僕は、シベリアンハスキーだと思うことにした。


しかし、お父さんは『一応、ご近所さんに狼だとバレると危険だから、犬らしくきちんとしつけないとな。』と言った。


いや、僕は、ドッグフードを毎日食べてるし、リードで散歩してもらって、原っぱ駆け回ってるし、ご近所さんも僕のことを犬だと思っているし、というかご近所さんに会ったら会釈をして『ワン』と挨拶をするようにしているので、しつけは、もう大丈夫です。と思ったが、言葉にはしなかった。


最近、自分でも気がついたのだが、人間の言葉が、ほとんど全て分かるようになっていた。

そして、自分も人間の言葉が喋れるような気がしてきた。


きっとこの優秀な子が、毎晩、宿題というものの内容を教えてくれたことや、彼がいない時に、僕も自分で、漫画や図鑑や、彼が部屋に置いていった教科書などを読んでいたので、文字まで分かるようになったのだろう。


でも、狼だとバレてしまった上に、人間の言葉まで理解ができると知られてしまったら、今のこの幸せが崩れてしまう。


そう思って、僕はずっと黙っていたし、この先もそれをバラすことはせず、シベリアンハスキーとして生きていこうと決めた。


年が明け、彼は6年生になった。来年からは中学校というところに行くらしく、もっと難しい勉強をするようだ。


彼は、誰に対しても優しくて、頭も良くて、人間という動物が自然界の頂点に立っているということを証明するような存在だった。


6年生になっても、彼は学校から家に帰ると、自分の部屋に一目散に入ってきて、最初に僕のことを抱きしめてくれる。


僕は、彼の愛情がすごく嬉しかった。彼と一緒にいれることがとても幸せだった。

彼の顔を舐めるのが一番大好きな味だった。


こんな生活がずっと続けばいい。そう思っていた。

しかし、別れは突然にやってきた。


第6章に続く。

(第6章は4月29日(水)21時00分に投稿いたします。)

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