第6章:人狼誕生
小学校では、卒業直前に修学旅行というものに行くらしい。
それは、卒業する前の仲間同士の最後の思い出作りのようなものらしい。
彼はクラスメートたちと京都という場所に行った。
そこは、お寺や神社が沢山あるところで、北海道と違って雪がそんなにない場所らしい。
彼は、人生で初めて、北海道から出ることに興奮をして楽しみにしていた。
しかし、京都で移動するバスの中で、交通事故に遭った。
軽傷や無事に済んだ児童もいたが、不運なことに、ぶつかった場所が、彼が座っていた席の近くであり、彼を含めて5名の児童が亡くなった。
彼が家に戻ってきた時、彼は骨壺と呼ばれる小さな壺に入った小さな骨になっていた。
両親は、ずっと泣いていた。
特に、お母さんは泣き続け、泣いたと思ったら怒りだし、今度は泣き始め、また今度は怒り始めた。
最早、いつもの優しいお母さんではなくなっていた。
お父さんも、お母さんをなだめようと必死に頑張っていたが、だんだんお父さんも顔色が悪くなっていった。
そして何より、僕も彼を失った喪失感で、気力がなくなっていった。
彼のベッドの上で丸まり、彼の残り香を嗅ぐと、涙が止まらない。
あの吹雪の中、仲間の群れから見捨てられて、死の直前まで追い込まれた時も、涙は出なかった。
しかし、今は、彼がいないという現実が受け入れられず、僕はベッドの上で、泣いては吠えていた。
彼が亡くなって、1週間ほど経った。
両親は、リビングでグッタリした顔のまま座っていた。
僕は、彼の部屋から出て、両親がいるリビングに向かった。
「お父さん、お母さん。」
2人は驚いて顔を上げた。
そこには彼と同じ姿をした僕がいた。
「驚かせてごめんなさい。僕は狼です。」
「狼は人間に化けられるんです。」
もしかしたら殺されるかもしれない。
群れの時と同じように捨てられるかもしれない。
そんな不安もあったけれども、殺されるのであれば、それでも良いと思った。
彼がいないこの世界ならば、僕も死んで向こうの世界に行って、彼とまた出会って、一緒に向こうの世界の原っぱで遊びたいと思った。
しかし、2人は驚いたが、涙を流して、僕に抱きついた。
両親は泣きながら『ありがとう。ありがとう。』と何度も言ってくれた。
「僕が彼の代わりになります。」と僕は言った。
お母さんは、彼を失って精神が壊れかけていた。
『ありがとう。ありがとう。あなたのことを大切に育てるわ。』そう言って、泣きながら、とても強く抱きしめてくれた。
お父さんは、それを見て、お母さんの心が安定するのであれば、その方がいいと思ったのだろう。
両親は、人間として生きていくことを決心した僕を育ててくれることになった。
しかし、近所の人たちの目もあることもあり、僕たちは、釧路という場所から室蘭という場所に引っ越した。
何故、室蘭かというと、お父さんの生まれ育った場所であり、土地勘がある一方で、親戚も知り合いもいないので、新しい家庭を築いていくのに適した環境だからとの両親の考えだった。
お父さんは、小さい頃に両親が亡くなり、いわゆる施設で育った。
一時期、荒れ果てていた時期もあったみたいだ。
『お前、ここで人生諦めたら、一生を棒に振るぞ。』
『このまま、社会の負け犬として、お前は生きていくのか。』
酒を飲んで酔っ払って、不良仲間と夜中のコンビニで、誰が一番高い商品を万引きできるかという遊びをしていたら、お父さんだけが店員にバレて警察に補導された。
警察が電話をしたが、施設の人が気が付かず、次に電話をして気が付いた当時の中学校の担任の先生が、警察署にお父さんを引き取りに来てくれて、その帰り道に発破をかけられたそうだ。
その後、不良仲間からは足を洗い、想像を絶するほどの苦労をしながらも、大学まで自力で卒業したそうだ。
一方のお母さんは、北見市の生まれで、それなりのお嬢様だったらしい。
上品で、優しく、穏やかで、それでいて成績も優秀だったことから、両親は高校を卒業した後、すぐに花嫁修業をさせて、どこかの良家に嫁がせたかったそうだ。
しかし、札幌に本部を置く国立大学に合格できたため、札幌に1人で移った。
そして、大学を卒業した後、2人とも札幌市に本店がある同じ地元の銀行に就職をした。
お父さんが1歳年上で、お母さんの指導担当だったらしい。その時に、お互いに、恋に落ちた。
しかし、その時は銀行員とはいえ、お父さんは、施設育ちであり、素行が悪かった過去もあることから、お母さんの親族一同は全員、結婚に反対だった。
そのため、ほとんど駆け落ちのような形で2人は結婚をしたそうだ。
そして、結婚して数年後、1人息子が生まれた。
彼が生きている時は、僕も知らなかったのだが、彼はひどい喘息を患っていたらしく、両親は彼のために、もっと自然が多い場所に住もうということで、釧路に引っ越した。
まぁ、僕から言わせれば、札幌でも充分に自然は多いと思うのだが、それだけ彼の喘息はひどかったのだろう。
投薬も継続していたが、より自然が多い場所に移ったため、彼の喘息は落ち着いたそうだ。
そして今後、僕が彼の代わりとして生きていくにあたり、あまり知り合いが多くなく、それでいて、土地勘がある場所という所で、室蘭に引っ越すことになった。
お父さんとお母さんは、僕を人間と同じように、愛情を注いで育ててくれた。
僕もまた、人間と同じように生きていきたいと思い、必死で勉強も運動も頑張った。
そして、自分でも気がついたのだが、成長するにつれて、人間でいられる時間がどんどん長くなっていった。
最初の頃は、学校から帰って、家に戻ると、すぐに狼の姿に戻ってしまっていたのだが、高校生ぐらいになると、肉体的にも精神的にも強くなり、狼に戻らなくても1日中ずっと人間の姿でいられるようになっていた。
しかし、満月やスーパームーンの夜は、どうしても体が疼いてしまう。その時は、無意識のうちに、尻尾が出てしまったり、鼻が黒くなって前に出てしまったり、頭の上から耳が出てきてしまうことがあった。
日中は問題ないのだが、やはり夜に近づくにつれて、満月やスーパームーンが出てくると、自分でもコントロールができなくなる時があった。
そんな、僕の状況を心配して、両親は出来る限り一緒にいた方が良いと判断し、僕もそれに賛同した。
室蘭市内にある国立大学で情報システムを学び、このまま地元で就職をして、ずっと両親と一緒に、室蘭で生きていくものだと考えていた。
しかし、不幸というものは続く。
第7章に続く。
(第7章は5月10日(日)21時00分に投稿いたします。)




