第11章:人狼とバレた狼の運命
見知らぬ部屋のソファの上で、目が覚めた僕は、全く状況が把握できていなかった。
ソファの横には、テーブルが置いてあり、その上には僕が着ていたスーツやワイシャツがきちんと畳まれていた。そして、その横に、僕の財布と腕時計、スマホとベルト、そしてバッグが置いてあった。
ここは、誰かの家みたいだ。
でも、僕の家ではないことは間違いない。僕は、最初、怖かったので動かないようにしていたが、だんだん暗闇にも目が慣れてきた。
僕は、自分の体が、狼に戻っていることに、気がついた。
マズイ。どこかで倒れて、狼であることがバレて、誰かに拾われたのか。最悪のケースかもしれない。
どうする?しかし、今となっては、どうしようもできない。
僕は、きちんと畳まれた僕のスーツの横に置いてある腕時計を見た。
時間は夜の10時を過ぎている。総武線に乗ったのが午後4時頃だったから、6時間もの間、記憶がないのか。
腕時計の隣には、財布が置いてあり、中身を確認したが、何かを取られた形跡はない。
さて、どうしたものか。
僕は、体が完全に狼に変わっているので、最早、体調は全快に戻っており、頭も冴え渡っている。
いずれにせよ、ここの家主には、バレてしまったのだろう。
ここの家主が誰かは分からないが、帰ってくる前までに、逃げ出してしまえば、僕だとバレないかもしれない。
これからは、髪型を変えて、髭を生やして、スーツも靴も買い替えよう。老眼になったと周りに言ってダテ眼鏡もかければ、それなりに見た目も変わるはずだ。
津田沼からも引っ越そう。新宿駅から逆側の埼玉方面に住んだ方が良いかもしれない。
ここの家主も、僕がいなくなれば、多分、忘れるだろう。
仮に、SNSで拡散されたとしても、実物の狼が、既にいなくなっていれば、世間はフェイク動画と思うかもしれない。
家主が帰ってくる前に、ここを早く抜け出そう。
いや、待てよ、もしかしたら、家主はいて、もう寝ているのかもしれない。
僕は、恐らく、部屋の真ん中と思われるリビングに今いる。
右側を見ると戸襖があり、恐らく、ここが寝室なのではないかと思った。
そして、目の前にはキッチンがあり、1人分の食事が手をつけられずに残されていた。
これから、同居人が、帰ってくるのかもしれない。
それならば、早くここを脱出した方がいいな。
僕は、左側を見ると玄関があることに気が付き、そっちの方に、そっと逃げようとしたのだが、今は狼の格好になっている。
二足歩行もできなくはないが、どうしても四足歩行になってしまう。
荷物をどうやって持ち帰ろう。
このまま、全部をここに置いて、僕だけが逃げても、さすがに、家主がSNSで拡散したら、僕の個人情報が完全にバレるだろう。
僕は、最低限、個人情報が割られそうな財布、携帯電話、腕時計はバッグの中に入れて、持ち帰ろうと思った。
洋服は置いていこう。これだけが残っていても、DNA鑑定か何か専門的なことでもしないかぎり、僕の痕跡は、見つからないだろうし、普通の人間は、さすがに、そこまでしないだろう。
バッグだけを口で挟み、何とか人にバレないように、家まで走って帰ろうと決心をした。
僕は、できる限り音を立てないように、財布、携帯電話、腕時計をバッグの中に入れようとしたが、どうしても狼の姿だと上手くできない。
そして、ジッパーを開ける音が聞こえてしまったのだろう。
右側の戸襖が、少しずつ開き始めた。
僕はマズイと思ったが、最早、この状況では何もできない。
運命から逃げられたと思ったのに、今度こそ受け入れるしかないのか。
僕は、リアル人狼ゲームに負けたんだ。
これから、人間によって、処刑される運命を受け入れるしかない。
お父さん、お母さん、ごめんなさい。僕は、彼の代わりとして、人生を全うすることができませんでした。
目をつぶって、怯えながら、そんなことを祈っていたら、見覚えのある声が聞こえてきた。
『課代、ようやく起きましたね。』
最終章に続く。




