越冬
一方、焔蜂国家ネクトフラム。
ネクトリアが遠く海の上で、
ウミガエルと壮絶な戦いを繰り広げていた頃。
王国には――
今年も越冬の季節が訪れていた。
ネクトフラム地下研究施設。
「急げー!」
「次の焔石を回せ!」
「こっちは魔力充填に入るぞ!」
研究員達が、
慌ただしく施設内を飛び回っていた。
机の上には――
山のように積み上げられた石。
《焔石》。
ネクトフラム近郊の山岳地帯で採取される、
特殊な鉱石である。
それ自体は――
ただの石。
しかし。
魔力を注ぎ込むことで、
その性質は大きく変化する。
淡い光を帯び――
《焔晶》と呼ばれる結晶へと変異するのだ。
そして。
焔晶には、
もう一つ大きな特徴がある。
振動。
魔力を蓄えた焔晶は、
振動を与えることで熱を生み出す。
さらに――
焔晶同士は魔力を介して、
生み出した熱を共有する性質を持っていた。
一つが熱を生めば、
別の焔晶へ。
さらに別の焔晶へ。
熱は次々と伝わっていく。
ただし――
当然、限界はある。
許容量を超えた焔晶は――
パキッ。
「おい! 離れろ!」
パァン!!
粉々に砕け散った。
「また一個逝ったぞ!」
「回収しろ! 次!」
蓄えられる魔力と、
耐えられる熱量は――
焔晶の大きさに比例する。
そのため。
城下町の中央広場には――
巨大な焔晶が設置されていた。
その名も。
《焔蜂球》。
何世代にも渡り、
ネクトフラムの冬を支えてきた巨大結晶。
その許容量は凄まじく――
王国の越冬に必要な程度の熱量では、
まず壊れることはない。
そして――
今年も。
ブゥゥゥゥゥン――
ブゥゥゥゥゥン――
城下町の至るところから、
羽音が響いていた。
「もっと羽ばたけー!」
「寒ぃぃぃ!!」
「止まるな! 余計寒くなるぞ!」
国民達の翅には――
小さな焔晶。
ブゥゥゥゥン!!
羽ばたく。
焔晶が振動する。
熱が生まれる。
そして――
生み出された熱が、
中央広場の《焔蜂球》へと集められていく。
ゴォォォ……。
淡く輝く巨大な結晶。
そこから放たれる熱が――
城下町へと広がっていく。
これが。
焔蜂国家ネクトフラムにおける――
伝統的な越冬だった。
「…………」
その様子を――
ヴェスピナが見ていた。
「…………」
ブゥゥゥゥン。
民が飛ぶ。
焔晶が熱を生む。
「…………」
ブゥゥゥゥン。
「…………なぁ」
隣にいた兵士が振り返る。
「はい?」
「これさ」
ヴェスピナが、
民の翅に取り付けられた焔晶を見る。
「振動すりゃいいんだよな?」
「え?」
「まあ……はい」
「…………」
ヴェスピナは考えた。
翅。
焔晶。
振動。
そして。
自分の腰にある武器。
「…………」
何かが――
繋がった。
「武器に付けてもよくね?」
「…………はい?」
「だからよ」
ヴェスピナは拳を握った。
ブンッ。
「武器に焔晶くっつけて――」
ブンッ!
「こうやって――」
ブォンッ!!
「殴り合ったら」
兵士を見る。
「めちゃくちゃ熱出るんじゃね?」
「…………」
「…………」
兵士は――
嫌な予感がした。
そして。
ヴェスピナの顔を見て――
その予感が確信に変わった。
「祭りしようぜ!!!」
「なんでそうなるんですか!?」
バァン!!!
地下研究施設の扉が――
勢いよく開いた。
「邪魔するぞー!!!」
「騎士隊長!?」
「何事ですか!?」
研究員達が一斉に振り返る。
その中央へ――
ヴェスピナが堂々と入ってくる。
「お前ら!!」
ビシッ!
山積みになった焔晶を指差す。
「これ武器に付けろ!!」
「…………」
「…………」
「…………は?」
「祭りするぞ!!!」
「何の!?」
「喧嘩祭り!!!」
「帰ってください!!!」
即答だった。
「なんでだよ!!」
「冬だぞ!?」
「寒いだろ!?」
「だから焔晶を作ってるんです!!」
「だからその焔晶付けて殴り合うんだよ!!」
「話聞いてました!?」
ヴェスピナは近くにあった紙を引き寄せる。
ガリガリガリ。
何かを書き始めた。
「ほら!」
バン!
机に叩きつける。
そこには――
『三人一組』
『武器あり』
『魔力あり』
『いっぱい殴る』
『いっぱい熱出る』
『国あったかい』
『優勝したらなんかやる』
「完璧だろ!!」
「最後決まってないじゃないですか!!」
その時。
「――面白そうだな」
低い声。
「!」
ヴェスピナが振り返る。
入口には――
ヴェスタス。
「兄貴!!」
ヴェスタスは、
ヴェスピナが書いた紙を見る。
「三人一組か」
「ああ!」
「俺も出よう」
「よっしゃ!!」
「よっしゃ、じゃない!!」
研究員の悲鳴。
そして――
「三人一組?」
もう一つ。
女の声。
ヴェスヴィが、
ひょいと顔を覗かせた。
「なんだ、喧嘩か?」
「祭りだ!!」
「喧嘩祭り?」
「おう!!」
「…………」
ヴェスヴィが紙を見る。
数秒。
「出る」
「姉貴もか!!」
「暇だし」
「決まりだな!!!」
「何も決まってません!!!」
こうして。
ヴェスピナ。
ヴェスタス。
ヴェスヴィ。
スズメバチ三兄弟による――
最悪のチームが、
誰よりも早く結成された。
なお。
祭りの開催許可は――
まだ下りていない。




