鍛錬・一
ヴェスタスと別れた後も――
ヴェスピナの“視察”は続いていた。
「ふっ……」
腕を組み、ネクトフラムの街を歩く。
復旧作業に励むミツバチたち。
その傍らでは、スズメバチたちが瓦礫を運んでいる。
「おい! そっち持て!」
「分かってる! 引っ張るぞ!」
「せーのっ!!」
ズズズ……。
巨大な瓦礫が持ち上がる。
「…………」
ヴェスピナは満足そうに頷いた。
(うむうむ……)
(民が力を合わせて国を立て直す……)
(いい国じゃねぇか)
別に――
ヴェスピナが何かしたわけではない。
「へへっ……」
それでも、なぜか誇らしげだった。
(やっぱ女王ってのは、こうやって民を見守るもんなんだな)
完全に自惚れていた。
その時――
ガキィィン!!!
「――あ?」
甲高い金属音。
続けて――
ガンッ!!
ギィン!!
ドゴォッ!!
「なんだなんだ?」
音のする方へ歩いていく。
そこは――
王国騎士団の訓練場だった。
「はぁぁぁッ!!」
ブンッ!!
ミツバチ兵の槍が鋭く突き出される。
だが――
ガキン!!
「遅ぇ!!」
スズメバチ兵が、それを力任せに弾き飛ばした。
「ぐっ……!」
ミツバチ兵が数歩後ずさる。
「なんだその突きは!」
「……あぁ!?」
「そんな腰の引けた槍で、よく戦場に立てたな!」
ミツバチ兵のこめかみが、ぴくりと動く。
「お前らみたいに、何も考えず真正面から突っ込む方がおかしいんだよ!!」
「なんだと!?」
「あぁ!?」
二匹が額を突き合わせる。
「…………」
「…………」
ギリギリギリ……。
少し離れた場所から――
ヴェスピナが腕を組んで眺めていた。
「おーおー……」
つい一週間前まで。
本当に殺し合っていた二つの種族。
さすがに――
すぐ仲良く、とはいかないらしい。
「もう一回だ!!」
「望むところだ!!」
二匹は再び距離を取り――
武器を構えた。
「…………」
ヴェスピナの口元が、僅かに緩む。
「……悪くねぇな」
喧嘩はしている。
気に入らないところもあるのだろう。
それでも。
もう――
相手を殺すために、武器を向けているわけではない。
「行くぞ!!」
「来い!!」
ガキィン!!
再び武器がぶつかる。
その周囲でも――
ミツバチとスズメバチが入り混じり、思い思いに稽古を続けていた。
「…………へへっ」
ヴェスピナは腰に手を当てる。
(いいじゃねぇか)
(これも――ウチの民ってやつか)
「…………」
その言葉に――
自分で少し気分が良くなる。
(女王として……)
(こういうのを見守るのも大事な仕事ってやつだな)
うんうん。
一人で頷く。
その時。
「あっ!!」
「ん?」
一匹のスズメバチ兵が――
ヴェスピナを指差した。
「ヴェスピナ様だ!!」
「げっ」
一斉に視線が集まる。
「ヴェスピナ様!!」
「騎士隊長!!」
「騎士隊長!!」
「…………」
ヴェスピナの眉が、僅かに動いた。
(…………騎士隊長)
誰も――
“女王”とは呼ばなかった。
「…………まぁいい」
小さく呟く。
兵士たちが集まってくる。
「ヴェスピナ様!」
「どうか我々にも稽古をつけていただけませんか!?」
「稽古ぉ?」
「はい!」
「…………」
ヴェスピナは腕を組む。
ここは――
女王らしく。
威厳を持って。
民の願いに応えるべきだろう。
「ふっ……」
ニヤリ。
「いいぜ」
「おぉ!!」
「ただし――」
ヴェスピナは訓練場へ歩き出す。
「一匹ずつなんて、面倒くせぇ」
振り返る。
そして――
両腕を大きく広げた。
「ミツバチもスズメバチも――」
挑発するように、指先を曲げる。
「全員まとめてかかって来い!!」
「「「――ッ!!」」」
訓練場が静まり返った。
「…………」
「…………」
やがて。
一匹のミツバチ兵が、小さく呟いた。
「……女王っていうか」
隣のスズメバチ兵が頷く。
「……やっぱ騎士隊長だな」
「聞こえてんぞ!!!」




