血縁・二
「いきなり兄貴ヅラされても困るわ!」
「……そう、だな」
「あ?」
先ほどまで騒いでいたヴェスタスが、
急に静かになった。
再び川へ視線を落とす。
「……それが、怖かったのだ」
「…………」
「お前が妹だと気付いた時――
正直、嬉しかった」
「……おう」
「生きていた。
それも、あれほど強くなって」
ヴェスタスは、自分の手を見る。
「だが俺には……
お前の兄を名乗れるような思い出が、何一つない」
「…………」
「共に育ったわけでもない。
守ってやったこともない」
拳を握る。
「それどころか――
再会した場所は、戦場だ」
ヴェスピナは黙って聞いていた。
「……だから考えていた」
「何を?」
「どうすれば、お前の兄になれるのか」
「…………」
「…………」
ヴェスピナが頭を掻く。
「んなもん、知らねぇよ」
「…………そうか」
「いや、そうじゃなくて」
「?」
ヴェスピナも川辺に腰を下ろした。
「ウチだって知らねぇんだよ」
「…………」
「お前を兄貴だと思ったことなんて、一度もねぇんだから」
「…………そうだな」
「だから――」
ヴェスピナは川面を眺めながら言った。
「これからでいいんじゃねぇの?」
「…………」
「兄妹なんだろ? ウチら」
ヴェスタスが目を見開く。
「だったら、これから兄妹になりゃいいじゃん」
「…………」
「姉貴やネクトリアと同じようになるかは知らねぇけどさ」
少しだけ笑う。
「別に急ぐ必要もねぇだろ」
「…………そうか」
「あぁ」
「…………」
「…………」
穏やかな川の音が流れる。
やがて――
ヴェスタスの口元が、ほんの僅かに緩んだ。
「では……まず何をすればいい?」
「は?」
「兄としてだ」
「知らねぇって言ってんだろ」
「そう言うな。何かあるだろう」
「ねぇよ」
「妹に菓子を買ってやる、とか」
「子供扱いすんな」
「頭を撫でる」
「ぶっ飛ばすぞ」
「抱き締め――」
「また腕ぶっ飛ばすぞ」
「…………」
「…………」
ヴェスタスが真剣な顔で考え込む。
「難しいな……妹というものは」
「お前が難しくしてんだよ」
「では――」
「まだあんのかよ」
ヴェスタスは少し迷ってから尋ねた。
「……兄と呼んではくれないのか?」
「…………」
「…………」
ヴェスピナは立ち上がった。
「帰るわ」
「待て」
「じゃーな、ヴェスタス」
「待て」
「元気でな」
「同じ国に住んでいるだろう」
ヴェスピナが歩き出す。
その背中を――
ヴェスタスが追いかける。
「一度くらい構わんだろう!」
「やだね!」
「兄だぞ!」
「知らねぇよ!」
「血が繋がっている!」
「それさっき聞いた!!」
二人の声が、川辺に響いていく。
「では“お兄ちゃん”でも――」
「絶ッ対イヤだ!!!」
――血は、最初から繋がっていた。
けれど。
兄妹になったのは――
きっと、今日からだった。




