血縁・一
あの戦争から――一週間が経った。
焔蜂国家ネクトフラム。
焼け焦げていた大地には再び草花が芽吹き、
崩れた建物の修復も少しずつ進んでいた。
ミツバチとスズメバチ。
つい先日まで殺し合っていた二つの種族も、
未だぎこちなさを残しながら――同じ国で生活を始めている。
そして。
「ふっ……」
そんな国を見下ろしながら――
一匹の蜂が、腕を組んでいた。
ヴェスピナである。
「なるほどな……」
行き交う兵士たち。
復旧に励む民。
空を飛び交うミツバチとスズメバチ。
ヴェスピナは、満足そうに頷いた。
「これが……国ってやつか」
別に初めて見たわけではない。
「…………」
だが。
今のヴェスピナには――
以前とは少し違って見えていた。
何しろ。
自分は――
“女王蜂”。
らしい。
「…………ふっ」
口元が緩む。
あの戦場。
自分が命令を下せば、
敵だったはずのスズメバチたちまで一斉に従った。
女王の魔力。
女王の器。
「…………」
ヴェスピナは腕を組み直す。
「まぁ……?」
誰に聞かせるでもなく呟く。
「ウチほどの器ともなりゃあ……?」
ちらり。
「国の様子くらい、見て回らねぇとな」
――完全に調子に乗っていた。
アピスから命じられたわけではない。
騎士隊長としての巡回でもない。
ただ――
女王っぽいことがしたかった。
「よし!」
バサッ!!
勢いよく羽を広げる。
「民の視察だ!!」
こうして――
誰にも頼まれていない、
女王ヴェスピナ(自称)の視察が始まった。
しばらくして――
「…………ん?」
川沿いを飛んでいたヴェスピナが、
ふと速度を落とした。
川辺に――
誰かいる。
「…………」
大柄なスズメバチ。
川岸にしゃがみ込み、
水面をじっと見つめている。
ヴェスタスだった。
「…………」
じぃぃぃ……。
「何してんだ、あいつ……」
ヴェスピナは静かに降り立つ。
ザッ。
だが――
ヴェスタスは気づかない。
「…………」
川面に映る自分の顔を、
ただひたすら見つめている。
眉間に力を入れる。
「…………」
少し緩める。
「…………」
口角を上げてみる。
「…………」
戻す。
「……何してんだ?」
「いや……」
返事はした。
だが――
振り返らない。
「…………」
ヴェスピナも川面を覗き込む。
そこには――
恐ろしく真剣な顔で自分自身を見つめるヴェスタス。
「相変わらず、おっかねぇツラだなお前」
「……やはりそうか」
「自覚あったのかよ」
「あぁ……」
ヴェスタスは深刻そうに眉間へ手を当てる。
「これでは……駄目だな」
「何が?」
「…………」
しばらく黙った後。
ヴェスタスは、川面に映る自分へ向かって呟いた。
「……あんなことがあった後だ」
「おう」
「妹に――どのような面を下げて会えばいいのか分からんのだ」
「…………」
ヴェスピナが瞬きをする。
「いや、別にウチなんとも思ってねーぞ」
「そうか」
「おう」
「…………」
「…………」
さらさらと――
川が流れる。
「…………」
「…………」
ヴェスタスが、ふと。
川面の端へ視線を移した。
自分。
その隣。
「…………」
見覚えのある女。
「…………」
ゆっくりと。
本当にゆっくりと――
ヴェスタスが振り返る。
「よっ」
ヴェスピナが片手を上げた。
「…………」
ヴェスタスは川面を見る。
もう一度――
ヴェスピナを見る。
「…………」
川面。
「…………」
ヴェスピナ。
「……なんだよ」
「ぬぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
ヴェスピナが飛び退いた。
「お前だったのか!?」
「今気づいたのかよ!!」
「いや、お前もっとあるだろ……!!」
「何がだよ!!」
「こう……兄妹の何というか!!」
ヴェスタスが両手をわなわなと震わせる。
「溝というか!!」
「知らねぇよ!!」
「わだかまりとか!!」
「ねぇよ!!」
「気まずさとか!!」
「だからねぇって!!」
「実の兄だぞ!?」
「実感ねぇよ!!」
「なぜだ!?」
「一週間前まで敵だったんだぞ!!」




