説教
――女王私室。
コン、コン……。
「……失礼しまーす……」
ヴェスピナは、これ以上ないほど小さな声で扉を開けた。
部屋の中は――
やけに静かで。
やけに上品だった。
ふかふかの絨毯。
整然と並ぶ調度品。
中央のテーブルには、優雅なティーセット。
(うわぁ……静かすぎて逆に怖ぇ……)
その奥。
背筋を伸ばして座るアピスが――
ゆっくりとカップを置いた。
コト……。
「来たのね、ヴェスピナ」
にこり。
――笑っている。
(終わったわ、ウチ)
ヴェスピナの背中を、つーっと冷や汗が流れる。
「え、えーっと……姉貴?」
「なにかしら?」
「ウチ、今日は結構頑張ったと思うんだけどなー……なんて……」
アピスは静かに首を傾げた。
「ええ」
「!」
「とても勇敢で――美しかったわ」
「だ、だよな!? だよな!?」
ヴェスピナの顔が、一気に明るくなる。
「だからこそ――」
スッ……。
アピスの瞳が――
細くなる。
「どうしてあなたは、あの場でネクトリアを止めきれなかったのかしら?」
ビキッ。
ヴェスピナの笑顔が凍った。
「いや!! あれは止めた!!」
「…………」
「むしろ超高速で止めた!!」
「“言いかけた”わよね?」
「…………」
「“より、よっ……”って」
「…………」
すぅぅぅ……。
部屋の空気が――
冷えていく。
ヴェスピナの視線が、スイーッと横へ流れる。
(逃げ道……どこ……?)
扉。
窓。
姉。
(…………)
ない。
完全包囲。
アピスは何事もなかったかのように、紅茶を一口。
「ヴェスピナちゃん」
「は、はい」
(ちゃ……ちゃん……?)
「わたくし――」
カップを置く。
コトン。
「年齢の話題には――」
にっこり。
「少し、敏感なの」
(知ってるーーーーー!!!)
ヴェスピナの心の叫びが――
無音で響き渡った。
その時――
――ガチャ。
「お姉様ー!」
「!?」
扉が開く。
「イレアと一緒に、はちみつクッキー焼いたよー!」
満面の笑み。
ネクトリア――
乱入。
(バカ来たーーーーー!!!)
アピスのこめかみが――
ぴくり。
「……?」
ネクトリアは、きょとんと首を傾げる。
「あれ? どうしたの、二人とも?」
「…………ッ!!」
ヴェスピナ、必死のジェスチャー。
(帰れ!!)
ブンブン。
(今すぐ帰れ!!)
ブンブンブンブン。
そして――
ネクトリアの後ろに立つイレアを見る。
(イレア!!)
必死の視線。
(なんとかしろ!!)
「…………」
イレアはアピスを見る。
ヴェスピナを見る。
ネクトリアを見る。
「…………」
一礼。
「まだ仕事が残っておりますので……失礼します」
――ガチャ。
扉が閉まった。
(イレアーーーーー!!!)
「?」
そして――
残されたネクトリア。
無邪気――
100%。
「あ、そうだお姉様!」
「…………」
「さっきの続きなんだけど――」
「やめろォォォォォ!!!!」
ガバッ!!
「むぐぅ!?」
歴代最速。
本日二度目の――
ネクトリア口封じ。
「むぐぐぐー!?」
「頼む!! 何も喋るな!!」
「むぐー!?」
「命がかかってんだ!!」
「…………」
しばしの沈黙。
そして――
コト。
アピスがカップを置いた。
ゆっくりと――
立ち上がる。
「……二人とも」
「…………」
「…………」
にこり。
「正座」
「「はい!!!」」
こうして――
戦争を勝利へ導いた英雄二名は。
女王私室にて――
きっちり四時間半にも及ぶ、お説教を受けたのであった。
なお。
ネクトリアは――
“薬草”の採取を禁じられた。




