終戦
そんな中――
ネクトリアが、誇らしげに胸を張った。
「けど……やっぱり!」
満面の笑みを浮かべる。
「一番の“女王蜂”は、アピスお姉様だね!!」
「…………」
ヴェスピナは一瞬きょとんとして――
すぐに、ニヤッと口元を歪めた。
「――だな!」
その一言が。
戦場の空気を――塗り替えた。
ざわ……
ざわざわ……!!
「……?」
アピスが顔を上げる。
次の瞬間――
ドサッ!!
ドサドサドサッ!!
「――――ッ!?」
スズメバチ兵が。
そして――
ミツバチ兵までもが。
まるで見えない力に押されたかのように――
次々と、アピスの前へ膝をついていく。
「な……」
アピスの目が見開かれる。
そして。
種族の違う兵士たちの声が――
初めて、一つになった。
「「女王アピス様に――忠誠を!!」」
「…………」
戦況は――
完全に、ひっくり返った。
アピスはしばらく何も言わなかった。
ただ――
目の前に広がる光景を見つめる。
ミツバチ。
スズメバチ。
先ほどまで殺し合っていた二つの種族が――
今、同じ場所で膝をついている。
「…………はぁ」
やがて。
呆れたように、小さく息を吐いた。
(……まったく、この子たちは)
けれど――
その瞳には。
確かな安堵が、宿っていた。
アピスは扇を閉じる。
そして――
静かに。
しかし、戦場の隅々まで届く声で告げた。
「――戦争は、終わりました」
「…………」
戦場が。
水を打ったように――静まり返る。
「双方――これ以上、争う理由はありません」
誰も動かない。
誰も武器を振るわない。
ただ――
女王の言葉を聞いている。
「今日、この時をもって――」
アピスはスズメバチたちを見渡した。
「種族の因果を断ち切り――我々は、同盟国としてスズメバチを迎え入れます」
「…………」
思わぬ結末。
だが――
確かな、終局だった。
「ネクトリア」
「……はい」
アピスの声色が変わった。
先ほどまでの女王の声ではない。
姉として――
静かに、妹へ語りかける声。
「見なさい」
「……?」
「これが――戦争です」
ネクトリアが周囲を見渡す。
焼け焦げた大地。
折れた武器。
傷つき、肩を貸し合う兵士たち。
動かなくなった者の傍らで――
ただ俯く者。
「大地は焼かれ――兵たちは息も絶え絶え」
アピスの声が静かに続く。
「家族を失った者も……少なくありません」
「…………」
ネクトリアの表情が曇る。
「ですが――」
アピスが扇を開いた。
「……あそこを見なさい」
扇の先。
「…………あ」
その方角だけが――
まるで別の世界だった。
焼けた戦場の中。
そこには――
命に溢れた大地が、広がっていた。
草木が芽吹き。
花が咲き。
風に揺れている。
「あれは……」
ネクトリアは涙を浮かべながら――
その光景を見つめた。
「そう」
アピスが微笑む。
「あなたが――ヴェスピナを引き戻した場所」
「…………」
「あなたの“生命”が――最も輝いた場所です」
ネクトリアが、自分の手を見る。
「今のあなたなら――」
アピスの声が、優しくなる。
「この惨状を――巻き戻せるはず」
「わたしが……?」
「ええ」
アピスは頷いた。
「強く――」
一拍。
「ただ、強く願いなさい」
ネクトリアの手が、胸元へ添えられる。
「あなたの大好きな姉を――呼び戻した時のように」
「…………」
ネクトリアは、もう一度戦場を見渡した。
傷ついたミツバチ。
傷ついたスズメバチ。
種族なんて――
今のネクトリアには、関係なかった。
「みんな……」
ぎゅっと胸元を握る。
「……苦しそう」
「…………終わったのか?」
一人のミツバチ兵が、ぽつりと呟いた。
「嘘だろ……ついさっきまで殺し合ってたんだぞ……」
隣を見る。
そこには――
一人のスズメバチ兵。
「…………」
「…………」
気まずい。
ものすごく、気まずい。
「……おい」
「……なんだ」
「その……」
ミツバチ兵が目を逸らす。
「さっき槍で突いたの……俺だ」
「知ってる」
「…………」
「肋骨、まだ痛ぇ」
「…………」
沈黙。
「……悪かった」
「…………」
スズメバチ兵は、自分の脇腹を押さえた。
「……まあいい」
小さく息を吐く。
「生きてるしな」
「……そうか」
二人は、少し気まずそうに視線を逸らした。
やがて――
「しかしよ……」
スズメバチ兵が、小さく笑った。
「……なんだ?」
「あんな女王がいるとは思わなかったな……」
「…………」
二人は同時に――
遠くに立つヴェスピナを見る。
「…………」
真紅の槍。
傷だらけの身体。
そして――
相変わらず、やたらと偉そうな立ち姿。
「……あれは女王っていうより」
「…………」
「……戦王だろ」
「…………確かに」




