乱立
「勝手にウロチョロしてごめんなさい!」
ネクトリアは両手を合わせて、ぺこりと頭を下げた。
「さっき、迷子のアオムシを見つけたんだ!」
「アオムシ?」
「うん! 危なかったから、少し遠くまで避難させておいたよ!!」
「…………」
ヴェスピナの顔が――
ぱっと明るくなった。
「おぉ! 偉いなネクトリア!」
「えへへ……」
「こんな時でも民を大切にできてんだな!」
ヴェスピナは嬉しそうにネクトリアの頭を撫でる。
そして――
何の気なしに。
本当に、何の気なしに。
口をついて出た。
「お前も立派な“女王蜂”じゃねーか!!」
「…………」
「…………」
「…………」
――――。
ネクトリアの瞳が。
きらりと輝いた。
「えっ――」
その瞬間。
小さな身体が――
淡く。
白銀に、輝き始めた。
「…………」
アピスの顔が固まる。
「…………」
敵国の“元”女王の顔も固まる。
そして――
二人同時に。
青ざめた。
「ちょっ――」
ザザザザザッ!!!!
「は、はいぃ!?」
今度は――
全てのスズメバチが。
一斉に、ネクトリアへ跪いた。
「…………」
ネクトリア、硬直。
「…………」
ヴェスピナ、硬直。
「…………」
敵国“元”女王、絶句。
そして。
「…………あぁ」
アピス――
膝から崩れ落ちる。
(あぁ……終わった……)
「……?」
そんな長女の絶望など露知らず。
ネクトリアは、きらきらした瞳でヴェスピナを見上げた。
「でも――!」
「ん?」
「ヴェスピナお姉ちゃんこそ!」
満面の笑み。
「すっごく格好よかった!!」
「お、おう……」
「だから――」
アピスが顔を上げる。
「待ちなさ――」
「立派な“女王蜂”だよ!!」
「――いッ!!」
ヴェスピナの身体が――
光り輝いた。
「…………」
光り輝く暴君――ヴェスピナ。
――ザザザッ!!!!
全スズメバチ。
再びヴェスピナへ平伏。
「いやいやいや!!」
ヴェスピナが、ぶんぶんと両手を振る。
「ウチはただ暴れてただけだって!!」
「でも――」
「お前の方がすげぇよ!」
「えっ?」
「こんな戦場でアオムシ助けてんだぞ!?」
「お姉ちゃん……!」
「お前こそ立派な“女王蜂”だよ!!」
「――――ッ!!」
アピスの顔から表情が消えた。
――ザザザザザザザッ!!!!
再びネクトリアへ。
しかも――
先ほどより速い。
先ほどより深い。
スズメバチ軍。
もはや反射レベルの――
超高速平伏。
「わぁ……!」
「なんで嬉しそうなんだよ!?」
戦場――
完全に統制不能。
「…………」
アピスは。
静かに顔を覆った。
(……帰りたい……)




