侮辱
――並列顕現。
大陸随一と謳われる、アピスの高等魔力制御。
遥か上空では――
天を焼き尽くさんばかりの巨大な炎が、ゆっくりと蠢いている。
その熱だけで羽が焦げるほどの灼熱。
だが――
それだけではない。
地表。
ポッ――
一つ。
ポッ――
また一つ。
巨大な火球を維持したまま――
アピスは地上にも、無数の小さな燈を顕現させていた。
「な、なんだこれは……!?」
逃げ惑うスズメバチたち。
その行く手を阻むように、炎が灯る。
右へ逃げれば――右へ。
左へ逃げれば――左へ。
退けば、背後に。
それはまるで――
地獄の門番。
「くそっ……こっちだ!!」
「ダメだ! 炎が――」
「なら上へ――」
「上を見るな!!」
天には――
太陽。
「――――ッ!!」
炎の軌道。
熱の流れ。
光の反射。
巻き上がる砂塵。
敵兵の体勢。
そして――
風の揺らぎ。
その全てを――
アピスは掌握していた。
「…………」
瞳が僅かに動く。
それだけで、一つの火球が軌道を変える。
指先が動く。
別の炎が、逃げ道を塞ぐ。
巨大な炎を維持しながら。
無数の炎を、それぞれ別々に操る。
それはまるで――
戦場そのものを操る指揮者。
焔蜂国家ネクトフラム。
数々の勝利を歴史に刻んできた――
王族の力。
敵は息を呑み。
味方でさえ――
その光景から目を離すことができない。
この瞬間。
戦場は完全に――
アピスの意志の中にあった。
「…………」
炎の熱が、皮膚を刺す。
だが――
その中心に立つアピスの表情には、熱など微塵もない。
ただ。
冷たく――
激怒していた。
「…………くだらねぇ」
ヴェスピナが吐き捨てる。
「……?」
敵国の女王が、僅かに眉を動かした。
逃げ惑うスズメバチたちを横目に――
ヴェスピナは心底うんざりしたように槍を肩へ担ぐ。
「誰がテメェみてぇなブサイクに着くかよ」
「…………なんだと?」
「それに――」
ヴェスピナの視線が動く。
その先には――
空中を舞う、小さな白銀の影。
ネクトリア。
「…………」
ヴェスピナの口元が、僅かに歪んだ。
「ウチの妹をなめんな」
真紅の槍が持ち上がる。
その穂先が――
真っ直ぐに女王を指した。
「オモチャにされんのは――」
一歩。
ヴェスピナが踏み出す。
「テメェらなんだよ」
「…………貴様」
敵国の女王の顔から――
笑みが消えた。
そして。
ヴェスピナは大きく息を吸い込む。
戦場に響き渡る――
最大級の侮辱。
「この――――」
槍を振り上げ――
「クソババアァァァァッ!!!!」
「――――――」
戦場が。
凍りついた。




