崩壊
激しい羽音と爆炎が戦場を震わせる中、ヴェスピナは猛威を振るっていた。
しかし――突如、その体内で異変が起きる。
今までとは違う。
純粋で、強烈な魔力。
その異質な気配を感じ取ったアピスは、わずかに眉をひそめる。
そして――
胸の奥から湧き上がる興奮を、抑えきれなかった。
「……本当に底の知れない子ね……ふふっ」
口元が緩む。
「見せてもらうしかありませんわね……? うふふ……!」
短期間で目覚ましい成長を遂げる妹たち。
その姿を前に、普段は冷静沈着な国の柱であるアピスから――
ついに高らかな笑い声が零れた。
「おーっほっほっほ!!」
(落ち着くのよ、アピス……妹たちの前よ。それに、ここは戦場……)
心の中で自らを戒める。
羽を軽く揺らし、深呼吸を一つ。
そして指揮官としての冷静さを――ほんの少しだけ取り戻す。
「さぁ! あなた達!! 準備はよろしくて!?」
「…………」
ヴェスピナとネクトリアの目が丸くなる。
沈黙。
そして――
「……姉貴?」
「お姉様……なんか変だよ……!?」
二人から向けられる奇異の視線。
しかし、今のアピスには届かない。
「まだわからないの? その溢れる魔力――」
アピスは優雅に扇を広げ、ヴェスピナを指した。
「女王としての資質……!」
そして――
「おーっほっほっほ!! 見なさい、妹よ!!」
「…………」
ネクトリアは頬を赤くし、ぽかんと口を開ける。
「……お姉様……何ですか、その口調……!」
「下がれネクトリア!!」
「えっ!?」
ヴェスピナが咄嗟に前へ出る。
「わからんが……色々と何か変だ……!!」
真紅の槍が瞬時に形を変え――
巨大な、燃ゆる盾へ。
「う……うん!」
ネクトリアは、ぴょこっ……とヴェスピナの背後へ隠れた。
「まあ」
アピスは肩を軽くすくめる。
「わたくしが少し舞い上がって、お姉様気取りになっただけですわ。ふふっ、許してあそばせ〜」
(ダメよアピス……落ち着きなさい。妹たちが怖がっているわ……)
目の前では、巨大な盾の陰から妹二人がこちらを窺っている。
(戦場で羽目を外すんじゃない……でも、この子達のあんな姿……少しくらいは……)
アピスは再び背筋を伸ばした。
そして黄金色に染まる戦場を優雅に見渡し――
「さあ、お行きなさいな、妹達よ!」
扇を高々と掲げる。
「戦場で輝きなさい! おーっほっほっほ!!」
「…………」
ヴェスピナは――
姉の豹変ぶりに、敵とは別種の恐怖を覚えた。
そしてネクトリアは――
慌てて薬草を探しに向かった。




