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――空気が、焼ける。



敵兵の一人が、思わず後ずさった。



「……なんだ……あの熱……」



槍先が、赤く歪んで見える。



それだけで、理解した。



――勝てない。



誰かが武器を落とす。



乾いた音が、やけに大きく響いた。



隊列は、もう機能していない。



前に出る者はいない。



その中心で。



ヴェスピナが、一歩踏み出す。



それだけで、空気が揺らぐ。



全身に満ちる魔力。



抑え込まれ、収束し、ただ一点に宿る。



槍。



灼熱を帯びた黒槍が、静かに唸る。



振るう。



――轟音。



衝撃波が走り、前列がまとめて吹き飛ぶ。



悲鳴すら、遅れる。



熱に歪む視界の中で、ただ理解だけが広がる。



あれは、敵ではない。



――災厄だ。



後方。



ネクトリアの白銀の閃きが走る。



アピスの魔力が、流れを整える。



三つの力が、完全に噛み合う。



ヴェスピナは、止まらない。



「――来やがれ」



低い一言。



その声に、誰も動けない。



背後には、守るべきものがある。



それだけで、十分だった。



再び、踏み込む。



槍が唸る。



その一撃ごとに、戦場は塗り替えられていく。



灼熱の軌跡。



逃げ場はない。



ただ、焼き尽くされるだけ。



その姿は――



王女。



そして。



戦場を支配する、ただ一人の存在だった。

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