71/71
圧縮
――空気が、焼ける。
敵兵の一人が、思わず後ずさった。
「……なんだ……あの熱……」
槍先が、赤く歪んで見える。
それだけで、理解した。
――勝てない。
誰かが武器を落とす。
乾いた音が、やけに大きく響いた。
隊列は、もう機能していない。
前に出る者はいない。
その中心で。
ヴェスピナが、一歩踏み出す。
それだけで、空気が揺らぐ。
全身に満ちる魔力。
抑え込まれ、収束し、ただ一点に宿る。
槍。
灼熱を帯びた黒槍が、静かに唸る。
振るう。
――轟音。
衝撃波が走り、前列がまとめて吹き飛ぶ。
悲鳴すら、遅れる。
熱に歪む視界の中で、ただ理解だけが広がる。
あれは、敵ではない。
――災厄だ。
後方。
ネクトリアの白銀の閃きが走る。
アピスの魔力が、流れを整える。
三つの力が、完全に噛み合う。
ヴェスピナは、止まらない。
「――来やがれ」
低い一言。
その声に、誰も動けない。
背後には、守るべきものがある。
それだけで、十分だった。
再び、踏み込む。
槍が唸る。
その一撃ごとに、戦場は塗り替えられていく。
灼熱の軌跡。
逃げ場はない。
ただ、焼き尽くされるだけ。
その姿は――
王女。
そして。
戦場を支配する、ただ一人の存在だった。




