戦争
新居崩壊から数日後――
ネクトフラムには、穏やかな時間が流れていた。
「オラァ!!」
ヴェスピナの拳が唸る。
それを――
グェ!!
食材が真正面から受け止めた。
鈍い衝撃音が響くが、どちらも笑っている。
「いいじゃねぇか……やるな!!」
その様子を少し離れた場所から見ていたネクトリアは、ふっと微笑み、花に水をあげる。
「元気に育ってね……」
優しい魔力が花を包んだ。
一方、高台ではアピスが紅茶を手に静かに佇んでいた。
国を見渡すその眼差しは穏やかだ。
――その時。
「アピス様」
イレアが現れる。その声には異変があった。
「至急、ご報告がございます」
紅茶の揺れが止まる。
「……何かしら」
「スズメバチの大群が――侵攻を開始しました」
しばしの沈黙。
「全軍、召集。迎撃体勢へ移行」
「ハッ」
「イレア。あなたは城の守りを」
「……承知いたしました」
一瞬だけ視線が交差し、イレアは静かに踵を返した。
その頃――
「ん?」
ヴェスピナが首を傾げる。
「なんか騒がしくねーか?」
すぐにニヤリと笑った。
「ま、いいか」
槍を担ぐ。
「暴れられんなら、それでいい」
ネクトリアはそっと食材の元へ歩み寄る。
手にしていたスカーフを優しく巻いた。
「これ……やっぱり似合ってるね!」
小さく微笑む。
「一緒に頑張ろうね」
グェ……
だが――
「ネクトリア様」
イレアが静かに告げる。
振り返るネクトリア。
「食材様は、私と共に城の防衛に回ります」
「え……?」
「城には非戦闘員も多くおります。ここを突破されれば、被害は計り知れません」
視線が食材へ向く。
「万が一負傷者が出た場合、食材様のお力が必要です」
ネクトリアは少しだけ迷い――やがて頷いた。
「……うん」
そっと食材を見上げる。
「お願いね」
グェ。
短く、強い返事。
「必ず、戻ってくるから」
そう言ってネクトリアは駆け出した。
戦場へ。
一方――
イレアは食材と並び、城門の前に立つ。
「ここから先は――通しません」
その瞳に迷いはない。
そして戦場。
ヴェスピナとネクトリアが並ぶ。
その時、空が覆われた。
黒い影。
無数の羽音。
震える空気。
見上げた先――
そこにいたのはスズメバチの大群だった。
圧倒的な軍勢が空を埋め尽くす。
戦争が、始まる。




