血族
――数日後。
陽の光すら届かぬ、地下深く。
そこには、静謐と熱気が混在する巨大な洞窟が広がっていた。
一匹の偵察蜂が、羽音を荒らげて駆け込んでくる。
「女王陛下!! ヴェスタス様がご帰還されました!!」
最奥に鎮座する絶対的な存在が、低く、重々しい声を響かせた。
「遅かったな……。通せ」
「ハッ!」
重厚な石の扉が、地響きを立ててゆっくりと開かれる。
現れたのは、黒いフードを深く被った男――彼こそが、ヴェスタス。
「女王陛下。……アルジュラが、命を落としました」
「……何?」
一瞬、空気が凍りつく。
「誰にやられた。あの場所は、貴様の領土であろう」
「……ミツバチです」
「――ふざけるなッ!!!」
咆哮とともに、女王の手から放たれた杖が石畳を叩き割る。
「ミツバチ如き……羽虫の群れに、我らが遅れを取ったというのか!?」
「お怒りはごもっともです。……ですが、一つお伝えせねばならぬ報告がございます」
「申せ」
ヴェスタスは表情を変えず、淡々と、だが決定的な一言を放った。
「その群れの中に、一匹だけ……『スズメバチ』が混ざっておりました」
「なっ……ふ、ふざけるな……っ! ふざけるなッ!!!!」
女王の顔から余裕が消え、剥き出しの動揺が怒りへと変換される。
「間違いありません。あれは、間違いなく……」
「黙れ!!! 認めぬ……! そのようなこと、妾は絶対に認めぬぞ……ッ! 連れ戻せ……たとえ四肢を捥いででも、殺してでも連れ戻せ!!」
「……」
「何を黙っておるのだ、ヴェスタス!!!」
沈黙を貫く男に対し、女王は狂気すら孕んだ眼光を向け、椅子を蹴らんばかりに立ち上がった。
「取るに足らぬ羽虫と放置しておいたが……今度ばかりは容赦できぬ。ミツバチどもは根絶やしにせよ。そして、そのスズメバチを妾の前に引きずり出せ!!!」
女王の絶叫が、広大な洞窟を震わせる。
「どのような姿に成り果てていようと構わん!! 我が血族を、必ずや奪い返せ!!」
「……御意。承知いたしました」
「兵を集めろ。……戦だ」
「ハッ!!」
暗がりのなか、ヴェスタスの口元がわずかに歪んだ。




