警戒
鉄格子の奥。
そこにいたのは――
一回り大きな蜘蛛。
「若干、育ってやがんな……」
ヴェスピナが、低く吐き捨てる。
だが――
鉄格子は、開かない。
「ヴェスピナ様」
イレアが静かに告げる。
「鉄格子のレバーは、私が出てきた箇所以外――すべて破壊しております」
一拍。
「多少は時間が稼げるかと」
「……優秀すぎんだろ」
ヴェスピナが、わずかに笑う。
「お姉ちゃん!急ごう!!」
ネクトリアの声。
「ああ――全員撤退だ!!」
槍を振るう。
「飛ぶぞ!!」
「お待ちください!」
イレアが即座に制止する。
「なんだ!?」
「真上には無数の蜘蛛の糸が張り巡らされております」
一切の迷いなく。
「飛行での脱出は不可能です」
「……チッ」
舌打ち。
「階段登るしかねーか……」
その時。
グェ!!
食材がネクトリアを持ち上げた。
ふわりと。
その背に乗せる。
「ふぇっ……?」
戸惑う声。
だが次の瞬間――
食材は、走り出した。
他の七面鳥たちも。
イレアとヴェスピナへ背を向ける。
「なるほどな!!」
ヴェスピナが笑う。
「助かるぜ!!」
一斉に――駆け出す。
七面鳥軍団。
階段を、駆け上がる。
猛スピード。
轟音。
その時――
ガキン!!
鉄格子が外れる音。
「来やがるぞ!!」
ヴェスピナが振り返る。
遥か下層。
押し寄せる――蜘蛛の軍団。
グェ!!
食材が、さらに加速する。
そして――
視界の先。
出口。
だが。
狭い。
全員は通れない。
まして――母鳥は。
「……」
一瞬。
ヴェスピナが、目を細めた。
(絶対に――こいつらを!!)
「全員、頭下げろ!!!」
叫ぶ。
槍を、構える。
力が――収束する。
ズォン―――!!!
一閃。
蜘蛛糸で紡がれた巨大なテントが――
真っ二つに裂けた。
赤く染まる槍。
まるで――
内側から、熱を帯びているかのように。
切断面。
わずかに――焦げている。
「これで母ちゃんも通れるだろ!!」
叫ぶ。
そのまま――
全員、脱出。
だが。
間髪入れずに。
蜘蛛たちが、溢れ出す。
「チッ……しつけぇ……」
ヴェスピナが舌打ちする。
その瞬間――
「――総員、放ちなさい」
凛とした声。
静かに。
だが、圧倒的に響く。
上空から。
次の瞬間。
無数の槍が――降り注いだ。
雨のように。
飛び出す蜘蛛を。
次々と、貫く。
圧倒的制圧。
その光景は――
まるで“裁き”。
そこにいたのは――
焔蜂国。
ミツバチ部隊。
完全包囲。
その中心で。
アピスが――扇を開いた。
優雅に。
静かに。
「……お疲れ様」
「姉貴……来てたのかよ」
ヴェスピナが、息を吐く。
「あら」
アピスが微笑む。
「やっぱり七面鳥に乗りたかったのですね?」
「そういや……そんなこと言ってたな……」
苦笑。
だが――
空気が変わる。
「ヴェスピナ」
声が、落ちる。
「山岳の暴れん坊である七面鳥」
一拍。
「その女王種が、捕獲されていた...」
視線が、鋭くなる。
「この意味がわかりますね?」
「ああ……」
ヴェスピナの顔が、引き締まる。
「ただの魔獣の女王がやったとは思えねぇ……」
沈黙。
アピスが、わずかに俯く。
(この一件……)
静かに。
だが確かに。
(かなり警戒する必要がありますね……)




