枯渇
巨大蜘蛛と激闘する二人をよそに――
薄暗い通路。
ズル……ズル……
小さな少女が、巨大な七面鳥を引きずっていた。
「お……重い……」
息が上がる。
腕が震える。
それでも――離さない。
「食材……」
ようやく。
安全な場所まで運びきる。
ネクトリアは、その場に膝をついた。
「きっと大丈夫だからね」
優しく、語りかける。
「お母さんも、みんなも……きっと大丈夫」
一度、言葉が詰まる。
それでも――
顔を上げる。
「お姉ちゃん……じゃなくて」
小さく、首を振る。
「私たちが、きっと助けるから!」
グェ……
弱々しい返事。
ネクトリアは、微笑んだ。
少しだけ慣れた手つきで。
リンゴを、生み出す。
淡い光。
小さな奇跡。
「これ食べて!」
必死に差し出す。
「少しでも元気になるかもしれない!」
そっと、口元へ運ぶ。
「ここで待っててね」
ぎゅっと、拳を握る。
「必ず戻ってくるから!」
グェェ……
食材は、ゆっくりとリンゴを頬張った。
その瞬間――
柔らかな光が、全身を包む。
じんわりと。
命が、灯る。
少しずつ。
本当に、少しずつ。
その目に――光が戻っていく。
一方。
闘技場では――
激しい金属音が、鳴り響いていた。
イレアは、静かに魔力を練る。
無数の魔力球。
それが――刃へと変わる。
細く。
鋭く。
無数に。
次の瞬間。
それらが、解き放たれた。
嵐。
毒を纏ったナイフ。
数百。
数千。
アルジュラの関節へ――
絶え間なく、突き刺さる。
「相変わらず……なんつー数だ……」
ヴェスピナが、呟く。
驚愕。
それほどの量。
ヴェスピナの武装。
ノクス・ヴァリア。
巨大な、一撃の武器。
だが――
イレアは違う。
小さな刃。
軽い一撃。
魔力消費は、極小。
だからこそ――
数が、違う。
一撃の重みを捨て。
猛毒で、蝕む。
削る。
奪う。
血と毒が、混ざり合う。
アルジュラが、怯む。
「効いてるぞ!!」
ヴェスピナが叫ぶ。
動きが、鈍る。
確かに。
だが――
イレアの呼吸が、乱れていた。
荒い。
浅い。
止まらない放出。
削られていくのは――
魔力。
そして、命。
「どんだけ……タフなんだよ……!!」
ヴェスピナの声に、焦りが混じる。
終わらない。
削りきれない。
その時。
八つの目が――
向きを変えた。
ギロリ、と。
狙いは。
イレア。
「――ッ!!」
巨大な脚が、動く。
一直線。
「どこ見てんだよ!!」
ヴェスピナが、割り込む。
盾が、変形する。
無数の槍。
脚へ、突き立てる。
だが――
浅い。
硬すぎる。
止まらない。
アルジュラは――進む。
イレアへ。
イレアは、目を閉じた。
覚悟。
迷いは、ない。
「お二方……後は、お願いします……!」
その瞬間。
閃光。
白銀の光が――走った。
弾ける。
反射する。
傷口へ。
追撃。
無数の一撃。
「イレア!!逃げて!!」
ネクトリアの声。
だが――
遅い。
イレアは、膝をついていた。
全てを、出し切った。
指一本、動かない。
顔を上げることすら、できない。
そして――
影が、落ちる。
巨大な脚。
振り下ろされる。
その一瞬。
静寂。
そして――
ズゴォォォォン!!
爆音。
衝撃。
アルジュラの巨体が――
イレアごと。
闘技場の壁を、打ち抜いた。
「イレアーーー!!!」




