果実
激しい土煙。
舞い上がる血飛沫。
その中心で――
ヴェスピナが、暴れていた。
蛇。
トカゲ。
ネズミ。
襲いかかる魔獣を――
一撃で、叩き潰す。
「くだらねぇ……」
吐き捨てる。
「魔獣が何匹いようが……上位の魔物に勝てるわけがねーんだよ」
怒りが、滲む。
「おい!!あいつをなんとかしろ!!」
上空から、屋台の男が怒鳴る。
(あのクソ王女め……)
苛立ちが、胸の奥で燻る。
その時――
鉄格子が、開いた。
ギィィィ……
「次はなんだよ……」
ゆっくりと、視線を向ける。
「馬鹿でかい猿でも出てくんのか……?」
だが――
そこに立っていたのは。
小さな、メイドだった。
血煙の中。
場違いなほど、静かに。
「……イレア?」
一瞬。
思考が止まる。
なぜここに?
――だが。
その目を見て、理解する。
覚悟の目だ。
「……」
口元が、わずかに歪む。
ほんの僅か。
胸の奥の重みが、少しだけ軽くなる。
(……無事だったか)
安堵が、遅れて滲んだ。
一方、その頃――
重く、深い縦穴。
金属音が、反響する。
その中を――
ネクトリアが、走っていた。
「待ってて……食材ママ!!」
息が苦しい。
足が重い。
それでも――止まらない。
「今、助けに行く!!」
鍵束を、強く握りしめる。
蹴破られた扉を抜ける。
その先。
「……グェ……」
かすれた声。
そこにいたのは――
衰弱しきった、巨大な七面鳥。
「食材ママ!!」
胸が、締め付けられる。
ネクトリアは駆け寄った。
震える手で、鍵を差し込む。
カチャリ。
檻が開く。
だが――
動かない。
「なんで……」
声が震える。
「何か……ご飯を……」
必死に周囲を見る。
だが。
何もない。
何も、ない。
「……待ってて」
ぎゅっと、目を閉じる。
思い出す。
あの時の光景。
命を生み出した、あの瞬間。
「できる……」
自分に言い聞かせる。
「きっと、できる……!」
レイピアを、地面に突き刺す。
その瞬間。
地面が、淡く光った。
じんわりと。
優しく。
まるで――
命が、応えるように。
一本の樹が、生まれる。
ゆっくりと。
だが、確かに。
枝が伸び。
その先に――
小さなリンゴが、実る。
「できた……!!」
涙が滲む。
「食材ママ……!」
リンゴを、そっと口元へ運ぶ。
かすかに――
口が動いた。
「……よかった……」
全身から、力が抜ける。
張り詰めていたものが、ほどけていく。
だが――
ネクトリアは、立ち上がる。
「他にも……」
小さく、呟く。
「お腹空いてる子たちがいるはず……」
拳を握る。
「助けなきゃ……!」
その瞳に、強い決意が宿る。
再び――
走り出した。




