奇襲
イレアはテントの側へ近づいた。
夜風に揺れる布の隙間から、微かな音が漏れている。
――カン。
――カン。
小さな金属音。
鍛冶のようでもあり、鎖のようでもある。
イレアは足音を殺し、テントの入口から中を覗いた。
何もない。
中央に大きな吹き抜けがあるだけだった。
そして、その中央から一本の太いものが垂れている。
糸――
いや、真っ白なロープ。
天井から地下へ、まっすぐ落ちている。
どうやらテントの一階は、ただの円形の吹き抜けのようだ。
地下深くから歓声が響く。
金属音。
怒号。
笑い声。
イレアは迷わない。
そのまま地下へと向かった。
巨大な螺旋階段。
地下へ。
さらに地下へ。
降りるにつれて歓声は大きくなる。
その途中。
階段脇の小部屋から、別の音が聞こえた。
地下の歓声とは違う。
――ギィ……
――ガン……
奇怪な金属音。
イレアは慎重に扉へ手をかける。
ゆっくりと開いた。
その瞬間。
部屋の奥で巨大な影が動いた。
現れたのは――
巨大なメスの七面鳥。
鎖に繋がれ、鋭い目でこちらを睨んでいる。
イレアの瞳が僅かに細まる。
「山岳種……それも女王級……」
普通の個体ではない。
地下深くから歓声がさらに高まった。
イレアは扉を静かに閉め、さらに階段を降りる。
そして最下層。
そこには――
数百名の観客。
円形の闘技場。
鉄柵。
血の染みた砂。
怪しげな身なりの男が中央で叫んでいた。
「ご覧くださいませ!!」
観客が沸く。
「今回の挑戦者は!!
捕獲困難と言われる獰猛さと巨体!!
市場価値はかなりのお値段!!」
男は腕を大きく振り上げる。
「何と!!
あの焔蜂国家の騎士隊長と戦い、無事に帰還した七面鳥にございます!!」
その言葉を聞いた瞬間。
「――!!」
イレアは息を呑んだ。
と同時に悟る。
「あの七面鳥……」
命令にあった個体に間違いない。
ここにいる。
(……一刻も早くアピス様に知らせねば……)
そう思った瞬間。
――ドスッ。
鈍い衝撃。
首元に、重い一撃が叩き込まれた。
月が沈み切る頃、一匹の偵察蜂は窮地に立たされていた。




