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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第三章 寄奇怪解

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94/120

アニキ

零仁は日文の妹分だったようです。ぶっきらぼうなのに優しく、かつ地味になんでも出来る120番は、021番にとっての理想だったのでしょう。向ける気持ちは100%憧れで、恋愛感情はありません。


 ゲームセンター「プレインググラマー」の前に辿り着く。物騒な音が中から聞こえた。それも連続してである。物が大量に破壊されている。巻き込まれた怪我人もいるかもしれない。

 周囲への配慮が無さ過ぎる。ただの喧嘩ではないと察してか、野次馬たちは皆、神妙な顔つきで遠巻きに眺めるだけだった。バトルステージへと駆ける最中は楽しげだったにもかかわらず、誰もゲームセンターに入ろうとしない。

 事ここに至ってはもはや事件だ。しゃしゃり出る覚悟を決める。「特別捜査士の当瀬日文です」と、身分を示す手帳を掲げて群衆に割り込む。「祓い屋さんだ!」と妖怪の子供が嬉しそうに叫ぶ。空気が少し緩んだ。悪事とは無縁の妖怪たちにとっては、祓い屋は正義の味方だ。


「誰か妖怪京都の警察に通報しましたか?」「はい」「私も」

「正規の警察が来るまで僕が見張っておきます。また安全のために封鎖します」


 人払いの結界を張る。捜査権限を有する者なら、身分証をかざせば通れるタイプだ。界隈では日常的に使われている。


「リサちゃんはどうする? 待っとくか?」

「弟子にいいとこ見せてよ当瀬先生」「先生は付けなくていい」


 自動ドアを潜る。破壊音は二階からだ。一階の被害は、90年代の携帯電話を彷彿とさせる形のアーケードが一つ壊されているだけだった。こじ開けられた風穴は【矢】の跡に見える。少なくとも一人は禊力使いか。人でも妖怪でも生身なら貫く威力だ。喧嘩でなく殺し合い。


「流れ弾が怖いな。なるべく僕の後ろにいてくれ」「分かったわ」

「ちなみにこれ、なんのゲームか知ってるか?」

「さあ。トランプ?」「一回百円も払ってか? 自宅のパソコンで出来る」

「麻雀とか」「カードゲームですらないじゃないか」


 今年で十四の若者とは思えない答えに眉を顰める。『トレーディングカードアーケードゲームはモデルとして古いから、ガキじゃ知らなくても仕方ないんだぞ』とマクラから補足が入った。なんだ。流行ってるのかと思った。


『もうレトロゲームだぞ』


 マクラが鼻で笑った瞬間、上から轟音が響いた。リサちゃんに目配せしたのち、小走りでエスカレータに向かう。乗ったら正常に動いた。センサー式のようだ。省電の波を感じる。

 運ばれていく。誰かいた。吊り目がちな少女。警戒して身構える。

 彼女に敵意はなさそうだった。が、ジロジロと見られる。どこか覚えのある容貌をしていた。面影が、昔の知り合いと重なる。

 まさか。呆気に取られる。バイオハザードが起きた時に彼女はいなかった。あり得なくはない。


「021番?」「120のアニキ?」


 互いに指を差し合う。くれむと違って、僕のことを記憶に留めている。再会の喜びが込み上げてきた。021番とは、幼い頃に番号が似ているという理由でよく会話したものだ。九歳で離れ離れになったが。彼女のグループ変更によって。

 当時はとても寂しかったし、今の今まで忘れたことなどなかった。ただ、906番との思い出と、バイオハザードのショックが強過ぎた。


「もう当瀬日文だ」「あたしは湯刺零仁(れにい)

「誰? お勤めしてた時の牢屋友達?」「あぁん?」


 021番、もとい零仁がリサちゃんを睨みつける。「ひっ」と背に隠れるリサちゃん。怒られても仕方ないと思う。


「違う。幼少期に同じ養育施設で育った。120は僕に割り振られた番号だ」

「数字で子供を管理してたの? 気味が悪いわ」「そりゃ同感」

「わりい。呑気に話してる暇はねえんだ」


 零仁は立ち上がって言う。


「喧嘩の真っ只中なんだよ」「殺し合いじゃなくてか?」

殺し合い(ケンカ)だ」


 サバンナの肉食動物みたく、零仁は大穴へとゆっくりと近づく。コンクリートの瓦礫と剥き出しの鉄骨が生々しい。壁にピタリと寄り添った。「おかしいな」と彼女は呟く。


「追撃して来ねえのか?」


 どんな不届き者と争っているのか。そう尋ねる前に、さっさと穴を跨いで入ってしまう。向こう側には、色とりどりのゲームワールドが広がっていた。破壊痕がよく目立つ。


「せっかちな奴だ。昔からああだった」

『レニイとかいうあいつ。VOTEの参加者だぞ』「なんだって?」

「ねえ。人が倒れてない? あそこ」


 リサちゃんの手を引き、急いで側に寄る。絶命していた。眼球がない。殺されたのちにくり抜かれたようだ。惨たらしい。

 (はらわた)が煮え繰りかえる。


「あの零仁って女の仕業かしら」『きっとそうだぞ。だって怖かったもん』

「あいつは粗暴だが邪悪ではない。八年で変わってなければだが」

「畜生。どこ行きやがったってんだ。あいつから吹っかけてきたくせに」


 歯軋りしながら零仁が戻ってくる。プラスチックの欠片を蹴飛ばした。中途半端に止まる。彼女は舌打ちした。


「クソ」「放っときゃいいだろ」「やだね。勝ち逃げを許したくねえ」

「VOTE関連の抗争か?」


 彼女は一瞬キョトンとし、すぐに唇を尖らせた。


「なんでアニキが知ってんだ? 妖怪京都の住人だから?」

「僕もVOTEに出てるからだ。敵対するか?」「そんな余裕ねえよ」

「相方はどんな妖怪?」「お花の妖精」

「随分と可愛らしい」「あたしほどじゃねーけどな」


 リサちゃんが肩を竦める。相手を小馬鹿にする表情だった。零仁は猛犬のように唸る。さぞかしムカついたに違いない。またもや僕の背に隠れつつ、ピロリと舌を出して煽るリサちゃん。


「クソがっ。なあアニキ。そのガキがアニキのなんなのかは知らねーけどよ、年上に対する礼儀ってヤツをちゃんと教えて……はぁ? うるせえ! あたしは礼儀ぐらい知ってる! テレビのよいこ系テロップの言うことは守ってんだよ!」


 零仁は急に怒鳴り始めた。床の瓦礫を踏み躙る。禊力を発動させていた。訝しむ。一階の【矢】はこいつが打ったのか?


「情緒不安定?」「ペアの妖怪と話してるんだろ。外からはこう見えるのか」


 恥ずかしい。やはり、人通りのある場所でマクラと会話したくない。ハンズフリー通話を装うにも限界がある。


「なあ。よいこの零仁」「あん?」「喧嘩相手の外見を教えてくれ」

「放っときゃいいんじゃなかったのかよ」

「お前はな。人が殺されている以上、特別捜査士の僕が放っておくわけにはいかない」「特別捜査士! なんかかっけぇ! どうやったらなれるんだ?」

「祓い屋の職の一つだ」「祓い屋! かっけぇ!」

「よいこにしてたら『祓い場』に連れてってやる。政府直属秘密組織のコミュニティと言えなくもない。念の為聞くが、やったのはお前じゃないよな?」

「あったりめーだろ。無益な殺生はしねぇよ」「利益があったらするのか」

「奴の外見は……」「外見は?」

「そうだな。平たくまとめてファッキンピンク(・・・)


 絶句する。背後から突然殴られた気分になった。拳を握る。


「零仁。リサちゃんを頼む」


 待てだのなんだの騒がれるが無視する。早歩きと並行して、周囲の陽の気を全力で調べた。異常な気配を察知する。

 知っているのにまったく違う。アーケードにより織りなされる複雑な迷路を進むと、奥に一人の少女がいた。縮こまっている。腕と掌で以って、ピンク色の髪をなるべく覆っている。


「当瀬くん」「町代」「来ないで。見ないでっ!」


 苦しそうに泣いていた。


「今の私を、見ないで」


 躊躇う。逡巡する。あれは殺人鬼だ。少なくとも、両親とここの店長を殺している。でも同じくらい、僕の友達でもあった。

 迷っている間に、町代祝は慟哭を上げる。禊力を爆発させた。壁を破壊し、ゲームセンターの外に逃げる。

 唇を噛んだ。この優柔不断、と自己を叱咤する。後を追って僕も飛び降りた。


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