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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第三章 寄奇怪解

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電器店


 人の波を押しのけて走る。

 妖怪京都は広い。猫又の里へと赴く通過点として利用した時に降り立った区画――三色かふぇ付近――はレトロな雰囲気だったが、この辺りは随分と様相が異なる。現代日本感が強かった。秋葉原ほどではないが、電器店の数がかなり多い。漫画やアニメ、ゲームなどのキャラも幅を利かせている。

 鬼◯郎のね◯娘もいた。


『マクラの方が可愛いな』「だがお前の方がバカだ……いた!」


 陽の気のみを頼りに追っていたが、ようやく町代の背中を捉えた。ピンクの頭はよく目立つ。温矢くれむの事件がなく、町代の行方捜査に注力出来ていれば、即座に発見されたことだろう。

 一気に加速して追いつきたいが、混雑が邪魔だ。無理に突っ込めば一般人を轢いてしまう。歩行者用道路を疾走するトラックと同等の惨事を起こす。


『異世界転生の量産だぞ』「死後の世界か。あるといいな」


 人間は飛べないが、ある程度は器用に動かせる足がある。跳躍し、店名の書かれた看板の上に乗っかった。それで終わりではない。次々と飛び移る。壊れぬよう接触点の重さを操作しつつ。代わりに膝と太腿に負担がかかる。あまりやりたくない技だ。


「ママ。見てーっ」「源義経みたいねぇ。リアル八艘飛びよ」

「ママ。平家物語なんて時代遅れよ。あれは服部半蔵よ」


 長命種っぽい会話だった。

 アウトローな移動のはずだが、街行く妖怪たちには感心されるだけだった。況してパニックが起きる様子もない。安心する。それも束の間だった。

 町代の前方十メートルほどの場所でゲートが開いている。彼女は明らかにそこへと向かっていた。どこに繋がっているかは知らないが、妖怪京都の外に出たくはなかった。

 もし人間の世界だったら。町代祝に対抗する力を持つ者はほぼいない。


「ふっ。ふふっ。バイバイ当瀬く――」「【閉】っ!」


 潜る直前でゲートを閉める。勢いを止められず、大型電器店のウィンドウに突撃をかます町代。ピンクロケット頭突きでテレビ画面を打ち抜く。


「こらーっ、兄ちゃん何やっとんねん! ゲート開閉のリズムが崩れるやろがい!」「すみません気を付けます!」「分かりゃええ」


 説教は短く済んだが、町代に隙を与えてしまった。モールの中に逃げ込んでいく。障害物競争を挑むつもりらしい。舌打ちする。探している間にトンヅラこかれる可能性が高い。

 電話をかけた。


「灰學」『なんだよ』「小声で答えろ。白々燐はどうしてる?」

『ちょうどスパゲッティを食べ終えたところ。お気に召したようだ。三色かふぇを潰すのは勿体ないと考え直した』「よし」

『直接連絡すればいいのに』「飯中だと不機嫌になるから」『なるほど』


 電器店をパシャリと撮影し、白々燐のアカウントに送信する。『この場所に来てくれ。何も聞かずに』というメッセージも添えて。果たして、彼女は五分も経たずに到着した。ここから三色かふぇまではかなり離れているはずだが、ゲートを使ったようだ。


「どうしたのよ。大した用じゃなかったら殺すわよ。猫又を」

『ひぃっ!? なんでマクラだぞ!?』

「まあまあ。転生先の希望は叶えてやってくれよ。本題に入ろう。町代祝がこのモールに逃げ込んだ」「はぁ。えっと」


 白々燐はぼんやりとしか反応しなかった。あまりピンと来てなさそうな顔だ。


「あなたに引っ付いてた虫けらよね? つい最近ヘアカラーがピンクになって、しかも親殺しになったという。地味系のキャラ変にしちゃロックだわ」

「だからって、凍らせてロック割りにはしないでくれよ」

「生憎、まだ私もあなたと同じ未成年だから」

「今年の十二月十日に二十歳だよな?」「そうよ。盛大に祝いなさい」


 気が早い。腕を組む。婀歴、写魏、上止、ついでに共織と、今年成人する知り合いが多い。白々燐もまとめてお祝いするのがコスパも良さそうだけれど、それを提案すると殺されそうだ。転生先は北海道がいい。


「燐に似合う美しいケーキを作ろう」「ふふん。楽しみにしとくわ」

「脱線した。話を戻そう。燐には、モールを土台に牢獄を敷いて欲しい。町代と僕をゲストに」


 白々燐は首を傾げる。納得が行かない様子で反論してきた。


「あなたの牢獄を張ればいいじゃない」

「見たところ、町代の精神は非常に不安定だ。僕の牢獄は精神に作用し、思い出したくない過去を強制的に思い出させるもの。心を完全に壊しかねない。ダメだろう」「優しいわね」

「代わりに氷漬けにしようとしてる。永久凍土のマンモスみたく」

「町代祝はこのモールから出てないのよね?」

「間違いない。人が多くて正確な座標は特定出来ないが、四階に潜んでいるのは確かだ。僕のどこかに触れて、術式を共有してくれ。町代のゲスト登録は僕がやる」「はい」


 抱きついてきた。ひんやりしているが、命のぬくもりを感じる。手を握るくらいでいいのに。カップルと誤解されちまう。恥ずかしくなる。


「皆が見てる」「見せつけてるのよ」


 強気で言い返してきた。密着しながら歩き、モールに足を踏み入れた刹那、雪女の若きエース白々燐の牢獄が展開される。

 僕たちの姿は、妖怪京都から消えた。


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