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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第三章 寄奇怪解

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再会


 野次馬しに行く妖怪たち。店の中から彼らを眺める。危機感を抱いている者はほとんどいなかった。爆発音がしたと言っても、立っているのは砂埃土煙の類で、火災による黒煙ではないからだろう。わずかに聞き取れる会話からして、テロではなく腕利きの喧嘩だと解釈しているらしい。まったく同意見だった。

 なら見に行かねば。コーヒー代を払ってから、リサちゃんとともに、ワクワクして店を出る。灰學はもしもの時のために三色かふぇに残ると、白々燐はきのこスパゲッティを待つと言った。ツレない奴らだ。


「どっちが勝つかの賭けとかやってるかしら!」

「任せろ。目利きは得意だ」『マクラ、ショーは大好きだぞ!』


 音の元凶と思われる場所には五分で到着した。妖怪京都で最も評判が良い風俗店の、二つ隣の土産店が木っ端微塵になっている。幸い死者は出ていない。喧嘩のプレイヤーたちは、すでに別のフィールドに移動してしまったらしい。


「いや。ひょっとして牢獄に潜っちまったのか? 禊力で発動された感じはないが。妖力製だったら、人間の僕に痕跡を探る能力はない。マクラ、どうだ?」

『ないぞ』「当瀬。あっちに行ったって」


 リサちゃんが指を差す。崩れた建物の前に(たむろ)する妖怪たちから聞き出してくれたようだ。自分で考えて動いてくれて助かる。偉い。


「ゲームセンターがある方角じゃないか?」「そうだっけ?」

「『プレインググラマー』という名前だったはずだ。マップにはボールド体で記載されていた。それなりに大きな施設なんだと思う」

「ああ。小さい頃行ったことあるかも。まだあったんだ。スマホの電源を付ければゲームが出来るこの時代に、ニーズがあるのかしら」


 リサちゃんはそう言って、ニヒルに笑う。

 ゲームセンター。存在は知っているが、実際に訪れたことはない。様々な種類のゲームで安っぽいコインを稼ぐほか、アームを上手く使ってお菓子や人形を取るゲームもあるという。一度行ってみたかった。マクラは興味を示さなかったが。携帯機やスマホのゲームで十分だと言う。


「とりあえず向かうか」「そうね」


 他の野次馬に紛れて走る。ゲームセンターと喧嘩の組み合わせには、胸を踊らせざるを得ない。


◇◇◇


「ひいぃぃぃっ!?」


 情けない悲鳴を上げて、轍破はクレーンゲームのアーケード裏に隠れる。頭を抱えてビクビクと怯えた。横にいるバディ、湯刺零仁(れにい)に睨みつけられる。


「泣いてねえで反撃しろよ! さっさと牢獄を張れ!」

「泣いてないし! それにさっきから何度もやってるじゃないか! 僕は頑張ってる! でも妨害されるんだよお!」

「ごちゃごちゃうるせえ! どうにかするのがお前の仕事だろ!」

「無理なものは無理なんだって!」「この無能!」


 無益な言い争いの最中に、アーケードが【矢】で破壊された。「「のわぁっ!?」」と叫びつつ、跳躍して破片を回避する。轍破は身を捩り、零仁のためにクッションとなる。腹が圧迫された。内臓が飛び出そうだ。


「少し重くなった?」「死ね!」


 ピンクヘアの悪魔はどんどん近づいてくる。フラフラと覚束ない足取りにもかかわらず、轍破たちの攻撃はきっちりと回避する。町代祝はニタリと唇を歪めた。まるで轍破たちを嘲笑うかのように。


「くそっ! あいつ殺す! 殺してやる!」「殺すのはダメだよ!」

「殺されかかってんのはこっちだぞ! 生かして無力化出来るほどの余裕はねえ! どころかだ! 悔しいけど、格下なのはあたしたちだよ!」


 零仁は彼我の実力差を冷静に分析していた。轍破は反論出来ず、「うっ」と詰まるしかない。牽制のため、零仁は禊力の弾丸【粒】を五発放つ。すべて右手で払い除けられた。敵はほとんど意に介していない。


「なんだよあいつ、これまでの奴らとは桁違いじゃないか!」

「弱そうなのばかり狙ってたもんね」

「票数だけの勝負なんだから、それが勝ち筋だったろうが」「でもさ」


 町代は【矢】を繰り出す。零仁を抱えて転がり、プリクラを盾にする轍破。


「前にも言ったけど、やっぱり強い奴から襲われると弱いよ」「むぐぐ」

「ねえ。こそこそしないで、正々堂々と戦いなよ。真正面からさ。じゃないとつまんないでしょ。生きたまま目玉ほじくって食べちゃうぞ。こんな風に」


 怖い脅し付きの警告を発してから、左手に持つ人型妖怪の体を放り投げる。ゲームセンターの店長だった。両目とも抉られている。生死は定かではない。いつの間にやられたのか。

 さすがの零仁もゾッとしたようだった。タッグ妖怪の袖を握る。「頭おかし過ぎだろあのピンク女」と呟いた。轍破も頷く。


「出ておいで。出ておいで。出ておいでえ。今だけ限定のキャンペーンで、食べるのは片目だけにしてあげるよ。ふふ」

「目玉ってのはどんな味がするんだ? あぁん?」「ちょっと零仁!?」

「うーん。その人の記憶に一番残ってる景色の味かな」

「へっ。案外ロマンチストなのかお前?」「そうだよ」


 町代は歩行を速めて、プリクラの後ろを覗き込む。


「だって恋する乙女だもん」


 いない。キョロキョロと探す。どこに行った。

 プリクラボックスの上から、零仁が音もなく飛び降りる。手には鋭利な【刀】が握られていた。轍破は右手に収納している。

 ピンク頭は気づいていない。殺れる。零仁は確信する。死ねファッキンガール。

 刃が町代に触れた瞬間、禊力製の刀身はぽきりと折れた。


「は?」「残念だったねー」


 防御されたと気づいた時には、零仁は腹に回し蹴りを喰らっていた。壁まで吹き飛び貫通する。一階と二階を繋ぐエスカレータの前に落ちた。むくりと上体を起こす。彼女は痛みを感じず、かつ非常に丈夫であるが、ダメージはちゃんと蓄積される。体が少し重い。肋骨にヒビくらいは入ったかもしれない。

 上りエスカレータの方を見る。誰かが二階に上がってきた。当ゲームセンターは現在戦場であるというに。厄介な。零仁は舌打ちする。

 やってきたのは、高校生くらいの知的な美少年と、中学生くらいの生意気そうな美少女だった。カップルだろうか。二回目の舌打ちを堪える。

 ふと、妙な引っ掛かりを覚えた。男の顔に妙な既視感がある。彼も同じだったらしい。呆然とした表情で言った。


「021番?」


 湯刺零仁(れにい)、元養育施設の021番は目を瞠る。


「120?」


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