再会
野次馬しに行く妖怪たち。店の中から彼らを眺める。危機感を抱いている者はほとんどいなかった。爆発音がしたと言っても、立っているのは砂埃土煙の類で、火災による黒煙ではないからだろう。わずかに聞き取れる会話からして、テロではなく腕利きの喧嘩だと解釈しているらしい。まったく同意見だった。
なら見に行かねば。コーヒー代を払ってから、リサちゃんとともに、ワクワクして店を出る。灰學はもしもの時のために三色かふぇに残ると、白々燐はきのこスパゲッティを待つと言った。ツレない奴らだ。
「どっちが勝つかの賭けとかやってるかしら!」
「任せろ。目利きは得意だ」『マクラ、ショーは大好きだぞ!』
音の元凶と思われる場所には五分で到着した。妖怪京都で最も評判が良い風俗店の、二つ隣の土産店が木っ端微塵になっている。幸い死者は出ていない。喧嘩のプレイヤーたちは、すでに別のフィールドに移動してしまったらしい。
「いや。ひょっとして牢獄に潜っちまったのか? 禊力で発動された感じはないが。妖力製だったら、人間の僕に痕跡を探る能力はない。マクラ、どうだ?」
『ないぞ』「当瀬。あっちに行ったって」
リサちゃんが指を差す。崩れた建物の前に屯する妖怪たちから聞き出してくれたようだ。自分で考えて動いてくれて助かる。偉い。
「ゲームセンターがある方角じゃないか?」「そうだっけ?」
「『プレインググラマー』という名前だったはずだ。マップにはボールド体で記載されていた。それなりに大きな施設なんだと思う」
「ああ。小さい頃行ったことあるかも。まだあったんだ。スマホの電源を付ければゲームが出来るこの時代に、ニーズがあるのかしら」
リサちゃんはそう言って、ニヒルに笑う。
ゲームセンター。存在は知っているが、実際に訪れたことはない。様々な種類のゲームで安っぽいコインを稼ぐほか、アームを上手く使ってお菓子や人形を取るゲームもあるという。一度行ってみたかった。マクラは興味を示さなかったが。携帯機やスマホのゲームで十分だと言う。
「とりあえず向かうか」「そうね」
他の野次馬に紛れて走る。ゲームセンターと喧嘩の組み合わせには、胸を踊らせざるを得ない。
◇◇◇
「ひいぃぃぃっ!?」
情けない悲鳴を上げて、轍破はクレーンゲームのアーケード裏に隠れる。頭を抱えてビクビクと怯えた。横にいるバディ、湯刺零仁に睨みつけられる。
「泣いてねえで反撃しろよ! さっさと牢獄を張れ!」
「泣いてないし! それにさっきから何度もやってるじゃないか! 僕は頑張ってる! でも妨害されるんだよお!」
「ごちゃごちゃうるせえ! どうにかするのがお前の仕事だろ!」
「無理なものは無理なんだって!」「この無能!」
無益な言い争いの最中に、アーケードが【矢】で破壊された。「「のわぁっ!?」」と叫びつつ、跳躍して破片を回避する。轍破は身を捩り、零仁のためにクッションとなる。腹が圧迫された。内臓が飛び出そうだ。
「少し重くなった?」「死ね!」
ピンクヘアの悪魔はどんどん近づいてくる。フラフラと覚束ない足取りにもかかわらず、轍破たちの攻撃はきっちりと回避する。町代祝はニタリと唇を歪めた。まるで轍破たちを嘲笑うかのように。
「くそっ! あいつ殺す! 殺してやる!」「殺すのはダメだよ!」
「殺されかかってんのはこっちだぞ! 生かして無力化出来るほどの余裕はねえ! どころかだ! 悔しいけど、格下なのはあたしたちだよ!」
零仁は彼我の実力差を冷静に分析していた。轍破は反論出来ず、「うっ」と詰まるしかない。牽制のため、零仁は禊力の弾丸【粒】を五発放つ。すべて右手で払い除けられた。敵はほとんど意に介していない。
「なんだよあいつ、これまでの奴らとは桁違いじゃないか!」
「弱そうなのばかり狙ってたもんね」
「票数だけの勝負なんだから、それが勝ち筋だったろうが」「でもさ」
町代は【矢】を繰り出す。零仁を抱えて転がり、プリクラを盾にする轍破。
「前にも言ったけど、やっぱり強い奴から襲われると弱いよ」「むぐぐ」
「ねえ。こそこそしないで、正々堂々と戦いなよ。真正面からさ。じゃないとつまんないでしょ。生きたまま目玉ほじくって食べちゃうぞ。こんな風に」
怖い脅し付きの警告を発してから、左手に持つ人型妖怪の体を放り投げる。ゲームセンターの店長だった。両目とも抉られている。生死は定かではない。いつの間にやられたのか。
さすがの零仁もゾッとしたようだった。タッグ妖怪の袖を握る。「頭おかし過ぎだろあのピンク女」と呟いた。轍破も頷く。
「出ておいで。出ておいで。出ておいでえ。今だけ限定のキャンペーンで、食べるのは片目だけにしてあげるよ。ふふ」
「目玉ってのはどんな味がするんだ? あぁん?」「ちょっと零仁!?」
「うーん。その人の記憶に一番残ってる景色の味かな」
「へっ。案外ロマンチストなのかお前?」「そうだよ」
町代は歩行を速めて、プリクラの後ろを覗き込む。
「だって恋する乙女だもん」
いない。キョロキョロと探す。どこに行った。
プリクラボックスの上から、零仁が音もなく飛び降りる。手には鋭利な【刀】が握られていた。轍破は右手に収納している。
ピンク頭は気づいていない。殺れる。零仁は確信する。死ねファッキンガール。
刃が町代に触れた瞬間、禊力製の刀身はぽきりと折れた。
「は?」「残念だったねー」
防御されたと気づいた時には、零仁は腹に回し蹴りを喰らっていた。壁まで吹き飛び貫通する。一階と二階を繋ぐエスカレータの前に落ちた。むくりと上体を起こす。彼女は痛みを感じず、かつ非常に丈夫であるが、ダメージはちゃんと蓄積される。体が少し重い。肋骨にヒビくらいは入ったかもしれない。
上りエスカレータの方を見る。誰かが二階に上がってきた。当ゲームセンターは現在戦場であるというに。厄介な。零仁は舌打ちする。
やってきたのは、高校生くらいの知的な美少年と、中学生くらいの生意気そうな美少女だった。カップルだろうか。二回目の舌打ちを堪える。
ふと、妙な引っ掛かりを覚えた。男の顔に妙な既視感がある。彼も同じだったらしい。呆然とした表情で言った。
「021番?」
湯刺零仁、元養育施設の021番は目を瞠る。
「120?」




