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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第三章 寄奇怪解

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タイムズスクエア


 石済灰學はパトロールと称して、マンハッタンのロックフェラーセンター周辺を彷徨いていた。48番ストリートと51番ストリートの間にある、ミッドタウンの有名な複合商業施設。七十階建ての超高層ビルを眺め、「高ぇなあ」と呟く。

 観光に来たわけではない。仕事だ。東アジア系と見られる少女が、不思議な力でイギリスを恐怖のどん底に陥れている。欧米のとある新聞の見出しには、「アジアンテロリズムの極致」などと差別意識剥き出しで書かれていた。

 狙われるのはイギリスだけではないかもしれない。アメリカは日本に、世界最強の祓い屋(シャーマン)の一人である「覇人」の派遣を要請してきた。輝かしきニューヨークのマンハッタンは世界経済の中心である。よって最優先で守らなければならぬ。金融の重要性を石済は理解していないし、祓い屋の上層部は「ウォール街に振り回されるのはもうたくさんだ」と嫌悪感を示した。よって当初は断っていた。

 しかし、大量破壊大量殺人を行っているのが生粋の日本人と判明し、祓い屋の交渉力は激減してしまった。大人としては、「我々は無関係」だと厚顔無恥な態度を取ることはもはや出来ない。結局、アメリカからの「責任を取れ」という圧力に屈さざるを得なかった。石済は渡米する羽目になる。

 今日で二日目。日本語にも対応している高級ホテルに泊まれるのは良い。ベッドはふかふかだ。自由行動もある程度許されている。待遇について不満はなかった。だけどやっぱり、自分が守りたいのは日本、もっと言えば「祓い場」に暮らす人々だ。「寄奇怪界」事件で「祓い場」は大きな被害を負った。復旧に力を尽くしている分、守りが脆弱になっている。いるべき場所はここじゃない。

 あと、個人的な事情として、妖怪京都の「三色かふぇ」店員さんとも最近上手く行ってたのに。ただの自己評価だが。


「まったく。なんだって俺が。自慢の軍か、自国の凄腕に任せりゃ良い」


 ポケットに手を入れて、49番ストリートを大股で進む。権力を笠に偉そうに接してきたアメリカンシャーマンよりも、終始態度が丁寧だったオーストラリアの呪い師の要請に従った方がまだマシだったと感じる。メルボルンには行ったことがないから。

 疲労のせいで眠い。コーヒーが飲みたくなってきた。一々地図アプリを開くのが面倒くさい。テキトーに歩く。カフェくらいいつか見つかるだろう。7番通りを曲がり、47番街を進む。世界的に有名なコーヒーチェーンに辿り着いた。日本の高校生らしい下手な英語で注文する。通訳も付けて欲しかった。

 着席してスマホを見た。「三色かふぇ」の店員さんからメッセージが届いているかをチェックする。指導教官である史引先生から連絡が来ていた。『ニューヨーク土産をよろしく』。スマホを叩きつけそうになる。


「あの人は緊張感がないな。ニューヨークの名物ってなんだっけ?」


 一応調べてみる。目につくものはファストフードの類ばかり。検索ワードを変えてみたりはせず、肩を竦めて諦めた。7番通りをほっつき歩けば土産物などすぐ見つかるという事実は、観光慣れしていない石済には思い当たらなかった。

 肘を突きながらコーヒーを飲む。外の様子を眺めた。前に仕事で来た時よりも人通りは少ない、気がする。「果たして」と呟く。


「温矢くれむとやらはここに来るのかねえ」


 キーン、と頭で警鐘が鳴った。コーヒーカップを握る手に痺れが走る。落としそうになった。動揺は止まない。六歳で禊力椽転の概念を知った際にそれを実現してみせ、七歳から今に至るまでほぼ失敗なく千を超える依頼をこなし、十一歳の時分には大妖怪と称される本物のモンスターを討伐した、祓い屋界屈指の天才を以ってして、ただただヤバいと直感した。

 頬が引き攣る。フラグを立てたのだと気づいた時にはもう遅かった。急いで店を出る。

 翼のない人間に飛翔は不可能だ。が、足で跳ぶことは出来る。嫌な気配が伝わってくる方角に向けて、石済は踏み込んだ。二十メートルほどのビル屋上に着地した。止まらず、再び跳躍する。高層ビルの壁に足を付けた。

 そのまま突っ走る。ラン、ジャンプ、ジャンプアンドラン。わずか十秒で目的地に到着した。タイムズスクエアのど真ん中。


「待っててくれたのかい?」「まあ、うん」


 黒髪少女の背中に尋ねかける。彼女は振り返った。友人たる当瀬の書いた似顔絵そのままだ。


「ちょっと面白そうなのがいるなって思って」「ちょっと?」

「うん。星3.2くらい?」「ちょっとリアルなのやめて」

「君の名前は?」「石済灰學」「灰學。はは。ウケる」


 いきなり笑われた。石済は苛立ちを覚える。母が付けてくれた大切な名だ。


「あんたが温矢くれむなんだよな?」「知ってるの? やだ私有名人」

「SNSのトレンドでぶっちぎりの一位だ」

「へえ。私、一位って大好きなのよね」


 雑談の最中、石済はくれむをじっくりと観察する。陽の気の流れがあまりに歪。人である以上彼には見えないが、体全般に陰の気も回っていると推測される。当瀬などのVOTE参加者にも陽の気のあり方がおかしい部分はあれど、あくまで妖怪に寄生されている右手のみの話だ。温矢くれむは、明らかに異常な存在である。

 逆にそれくらいしか分からない。石済は困惑する。実力が計り知れない。初めての経験だ。とりあえず、陽の気不足かつ疲労していたとはいえ、当瀬日文を瞬殺した相手に自分が勝てるかと言われると、自信はまったくない。彼と自分の実力はほぼ互角だと、石済はよく理解していた。


「一位が好きなの? へえ。1/1の孤独な世界で生きてくれない?」

「一位はね。下がいて、下しかいないから良いんじゃない」

「ボス猿思考」「殺してもいい?」


 しまった。煽ってしまった。石済は後悔する。外見年齢が自分とほとんど変わらないものだから、つい。

 温矢くれむは両手に力を灯す。右手に緑の炎、左手に紫の波。本当に妖力を操ってやがる。石済は驚愕し、恐れ慄くも、それでも、事前に聞いていたというアドバンテージがあった。

 だから対処する。


「牢獄発動」


実の所、作者はニューヨークに行ったことはなく、今回の話を書くためにG◯◯gleマップと三時間ぐらい格闘しました。

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