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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第三章 寄奇怪解

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驚愕の一分間


 時を戻そう。「寄奇怪界」事件から一日、つまりコンファレンスの五日前。

 根守と協力したVOTE参加者三十匹による狩猟、並びにくれむの白震によって多数の死傷者が出た。誰が死に、誰が生き残ったのか、祓い屋としては直ちに把握せねばならない。特別捜査士たる僕も調査に駆り出された。くれむにやられてボロボロになったはずの体はなぜか無傷。祓い屋ポイントもくれる。積極的に貢献したい。

 特に被害の大きかった住宅区画にやってきた。教育棟や密談棟などと同様、住居内も「祓い場(異界)」の中の更なる異界となっている。入れ子構造。教育棟や第三グラウンドは「寄奇怪界」の対象外であり、中にいた人々が閉じ込められていたのはすでに話した通りだ。が、なんと、灰學のいた石済家の屋敷と集合住宅以外の住居は、あの連結牢獄の敷地として組み込まれていたらしい。結果、事件時に自宅にいた人々の多くが妖怪の毒牙にかかった。

 根守と協力した妖怪のうち十七匹は討伐されたが、残り十三匹には逃げられた。VOTEのリストをチェックする。誰が逃亡者かは判明している。マクラのスマホを握りしめた。いつか必ず殺す。

 捜査士用タブレットで戸籍を見る。生存が確認された者には赤丸、死人には灰色のバツマークが付いていた。はてなが行方不明者だ。瓦礫をどかすと、潰れた死体があった。合掌。見ただけでは誰か分からない。禊力紋を照合し、行方不明者の一人に灰色のバツマークを付ける。

 普通回収班にメッセージを送り、その場を後にする。すぐ近くで別の死体を発見した。人物の特定は出来ないが、体格からして小学生。まだ禊力椽転を習得している年齢ではないため、紋がない。きちんとした鑑定が必要だ。上級回収班にメッセージを送る。

 作業を繰り返す。はてなマークがだいぶ減ったと感じた時には、空が黄色く色づいていた。婀歴からメッセージが届く。


『一緒に夕飯どうですか。』


 デートのお誘いか。返信する。


『心の図太いラーメン屋くらいしか開いてませんが』

『里鶴ですね。構いません。』『ではまた後で』


 十分ほどで「里鶴」に着く。席に座ると、右手からマクラが出てきた。

 奥の台に置かれたテレビ、終わりかけのワイドショー、を見ながらぼんやりする。やがて婀歴もやってきた。写魏を伴っている。


「一人じゃなかったんですか」「と、途中で捕まりまして」

「この非常事態下、一人で男と逢引とか不届き千万」

「写魏。さてはお前めんどくさいな。ツ◯ッターで粘着してくる奴並みに。最近『プラチナバイク』や『床。おんな』ってアカが妙に纏わりついてきて」

「私が『プラチナバイク』」

「『床。おんな』は私です。えへへ」

「お前らだったの!?」


 らしくもなく素直に驚く。アホみたいな投稿しかしていなかったから全然気づかなかった。電子世界では俗世から解放されるタイプなのか。あと、アカウントを本名運営していないし、個人を特定出来そうな書き込みもしていないのだが、どうやって僕と見抜いたのだろう。


「イ◯スタの日文さまはキラキラしていて近づけない」

「ですよね。綺麗な自作スイーツアートを隔週で出してて震え上がりました」

「そっちも知ってはいるのか」「日文〜。我慢の限界。早く注文するぞ」


 店員を呼んだ。各々好きに頼む。シェア用の餃子三人前もお願いした。十七時の十五分前、夕飯には少し早いが腹は減っている。瓦礫の上を動き回って体力を使ったからだ。水を飲む。


「写魏たちはお菓子を作ったりしないのか?」

「しない。自炊すらしない。全部、死んだ花瀬頼みだった」「おう」

「人間性はダメだったけど、コックとしてはまあまあ良かった」

「私も料理はしませんね。カレーと肉じゃがくらいです。は、花瀬さんは比較的料理が上手でしたよね。共織さんには及ばなかったですけど」


 昨日友人が死んだばかりと言うに、写魏たちに悲しんでいる様子はない。花瀬はもう過去の人間として扱われている。切り替えが早い。淡白で薄情に感じるが、沈み込むよりはいいのかもしれなかった。


「共織?」「あ。日文さまには紹介してないっけ」

「イギリスにいることが多いですからね。禊力や妖力が動植物に与える負荷を研究してます。野良猫野良犬を捕まえてはどこまで耐えられるか実験したり」

「あんまり会いたくないですね。マクラが実験台になる」

「えっ。だぞ。特殊効果発動。実験台を回避。代償にカムイを墓地へ」

「カードゲーム?」「カムイと言えば」


 写魏は眉を顰める。


「町代祝はどこに行ったの?」「さあ。連絡がまったくつかないし」

「ひ、一つ目ナイセキから助けてもらったお礼をまだしてません。もやもやします」「片目の色まで変わってしまったんでしょう? 心配だ」

「梨沙ちゃんも、祝の身を案じてた」


 ラーメンと餃子が運ばれてくる。前に町代及び灰學と行ったラーメン屋より美味い。二口食べたところでテレビの番組が変わる。あのチャンネルは、この時間ならニュースだろう。冒頭からしばらくは海外の重要トピックが扱われる。

 だから、議事堂として使われているウエストミンスター宮殿のビッグベンが画面に映し出されても、初めはまったく疑問に感じなかった。けれど、五秒待ってもキャスターの声が聞こえずに戸惑う。

 腕時計を眺めた。十六時五十九分四十秒。おかしい。ニュース番組は十七時きっかりに始まるはずだ。

 訝しむ。注意深くテレビ画面を観察した。時計塔の尖った屋根に、誰かが乗っている。黒髪の少女。既視感を覚える。目を見開いた。

 彼女は。

 画面が白く染まる。数秒後に光が止んだ時には、宮殿と周りの建物は消え去っていた。小さくて分かりづらいが、黒髪の少女は満足げに笑う。ゆったりと地に降り立った。

 軽く跳躍する。少なくとも上空百メートルには達していた。着地点で、まるで指揮者のように優雅に腕を振るう。たったそれだけで、画面に映っているすべての人間は死に絶え、建物は粉々に砕け散った。

 割り箸をポロリと落とした。現実の光景とは思えない。

 彼女は再び跳ぶ。ダイナミックにダンスしながら。進路上の人間は命を奪われ、建造物は破壊される。どこまでも自由で、どこまでも美しく、どこまでも恐ろしかった。

 驚愕の一分間。古臭い建物の前で、彼女は姿を消した。そこでテレビの画面が転換し、ハンサムなキャスターが映る。


『ただいまの映像は当番組とは一切関係ありません。繰り返します。ただいまの映像は当番組とは一切関係ありません。現在事実確認を行っております。情報が入り次第お伝えいたします』


 衝撃で言葉が出ない。黙々と麺と餃子を口に運ぶ。結局、食べ終わるまで一度も会話はなかった。店の前で別れる。マクラに言った。


「お家に帰ろうか」「うん」


 エセ六角堂に行く。「祓い場」から出たい。リアル日本に戻り、変わらぬ生活を送る一般人たちを見て安心したかった。やっと開いたゲートを潜り、高校近くの公園に立つ。すっかり暗くなっていた。


「ついでに町代の家を訪ねよう」「分かったぞ」


 無理に溌溂とした声で言う。ひょっとすると、彼女は自宅に帰っているかもしれない。返信しないのは、ナイセキとの戦闘でスマホを壊してしまったからではなかろうか。

 電車に乗る。駅から七、八分ほど歩き、目的地に辿り着いた。インターフォンを鳴らす。反応がない。連打する。


「おかしいな。父親も母親も帰っている時間のはずだが」


 バーハンドルに手を掛ける。鍵が開いていた。無用心だ。「失礼します」と侵入する。酷い匂いが鼻を突いた。昨日と今日で嗅ぎ慣れてしまった香り。

 風呂場で二人の死体を発見した。一人は町代祝の母親。もう一人は父親と推測される。両者ともに、頭部に風穴が開いていた。わずかにこびりついた禊力の型に、僕は激しく動揺する。

 やったのは、町代祝。親殺し。

 フラッと倒れそうになった。堪えて、スマホで電話をかける。


「すみません」『何かな日文くん』


 猫又のお母様、アサギさんにこう告げる。


「沖縄旅行は延期の方向で」


 無論、最初にすべき連絡ではなかった。


「プラチナバイク」も「床。おんな」も、地雷っぽさを演出してみました。

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